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しおりを挟む海人が目覚めたのは、意識を失って数分後だった。
「海人ぉっ!よかったぁ!生きてたぁ!」と、首に纏わり付くユーリの背中に手を回しポンポンと叩きながら、状況を確認する海人。
「俺はどれくらい寝てた?」
「ほんの数分かと思うよ?」
抱かれるユーリを羨ましそうにしながら海人の質問に答えるカーナ。
「そうか……(随分早く起きれたな)」
それだけ言うと、よろめきながら立ち上がる。
其処に手を出して支えるカーニャ。
「ありがとう、大丈夫だ」
そんなカーニャに笑顔で礼を言うと、抱きしめていたユーリをカーナに預け、外に出る。
月灯りの照らす林では、何処から出したのか椅子とテーブルがあり、パウェル達がお茶を飲んでいた。
少し離れた場所では、アリサが腕を組んで仁王立ちしてる足元で、五体投地してる地竜と父竜がいた。
それをうっとりと頬を紅くしながら見惚れてるマリアーヌと、そのマリアーヌに見惚れてる国枝が見える。
「どういう状況⁉」と、困惑するのは当然の話。
その声に気が付いたのか、アリサがすごい勢いで海人に肉薄すると抱き締めた。
気が付いたら首にアリサが絡んでいて、更に驚く海人。
「え、ちょ⁉アリサ⁉ え?さっきまであっちに……」
と、困惑気味に言おうとしたが、その先は言えなかった。
抱き着いたアリサが海人の口を自分の口で塞いでいたからだ。
「むぐっ⁉ むむむっ⁉」
と、くぐもった海人の声は音にならず、必死に引き剥がそうとするも、アリサの力は強く、中々剥がせない。
息が続かなくなったのか、顔が青黒くなり始めて漸く国枝が気付き、アリサを引き剥がす。
「死んじゃうから‼ 海人が死んじゃうからキスは口だけにしてあげて⁉」
と、叫ぶ。
アリサの口は海人の鼻も塞いでいたのだ。
海人の後ろから出てきたユーリやカーニャ達もアリサの行動に驚きながら引き剥がすのを手伝った。
漸く落ち着いたのかアリサが海人を気遣いながら大丈夫だったか?と、言うと。
「六文銭持ってないなら取りに帰れ!って老婆に言われた……」と、朦朧としながら答える。
なんの事か分からないが、意識は戻ったようで安心したアリサは、地竜の側に海人を連れて向かう。
「いつまで寝てやがる!起きろ!」
そう言うと、ぴょんっと跳ねるように立ち上がった二匹の地竜は、素早く片膝を付いてアリサに跪くと、『仰せのままに我が主!』と、叫ぶと頭を下げる。
「何? 何したの? 大丈夫? アニキ?」
そんな姿は見た事が無かった海人は、何処か頭でもぶつけたのかと、心配顔でアニキの体を触る。
『煩い黙れ触るな!くすぐったい!』
と、海人を叱るアニキに、「大人しくしろ!海人は心配してるだけだ!」と、アリサがキレ気味にアニキを叱る。
それを海人がアリサに「口が悪いよ?」と、窘めると、「う、すまぬ……」と、アリサが謝る。この繰り返しが暫く続く。
「あれが三竦みというやつか……初めて見たわ」
そんな三人を遠目で見ながら国枝が感動しながら呟いた。
☆
「で?」
全く話が前に進まなかったので、一旦落ち着かせて地べたに車座になって二匹の地竜とアリサを座らせると、聞き出した。
何故、海人と勝負しようと思ったのか。
理由は単純だった。
ザケヘルが使役している地竜が、世界樹周辺を治めているのだから、その権利はザケヘルにあるというなら、自分の主を海人にしてしまえば、
解決するのでは?と、思って行動にうつしたそうだ。
ただ、海人が思っていた以上に弱くて、余りのだらしなさに怒りがこみ上げて来てしまい、躾兼ねて瀕死にさせれば考えを改めるだろうと思い、つい殺してしまいそうになったのだという。
「あ、すんません」
それを聞いて咄嗟に謝る海人と、アニキの顔面に拳を当ててしまったアリサ。
土下座で詫びるアニキを宥めてアリサを怒る海人と、再び繰り返される三竦み。
「と、取り敢えず分かった!」
だから落ち着こう?と、提案すると漸く落ち着いて再び話し始めるアニキ。
『だがそのお陰で私は真の主を見付けた!』そう言うと再び跪き頭を下げる。『我の全てを真の主に捧げる!』そう言うと、アニキの身体は光り輝きその光は珠となって宙に浮くと、アリサの身体の中に吸い込まれていった。
困惑するのはアリサだ。突然の告白の後、変な光が自分の中に入ってきたのだからそりゃ慌てる。
そして流れ込むアニキの意識。
その隣でも同じ様な宣言をし始めた父竜。
『我も真の主を見付け申した! マキシムも主であったが、多くの【愛】を得て壊れてしまった、そんな主を我は見捨てた! そして再び出会えたのだ!真の主に!』
そう言うと光り輝き一つの珠を作るとアリサの中に投げ入れた。
「おい⁉ お前ら何を勝手に⁉」
困惑気味に咎めるが、既に遅しで両竜の主に治まったアリサ。
その後ろから誰かが宣言しながら跪く。
「私はひ弱な精神を鍛えるべく父竜の弟子に志願した身‼ 我が師匠の真の主がアリサなら我が主もまたアリサだ!」
そう言うと父竜の後ろで跪く。
「え、なに?なんなの?」と、キャパオーバーにでもなったのか、アリサは俺にしがみつく。
更にマリアーヌの後ろから国枝までもが跪き、「我が愛した人が主と認めるなら、我が主もまたアリサちゃんだ!」と、言い出して跪き頭を垂れる。
更に国枝の後ろには白い魔導服を着た少年達が跪き……。
ついて行けなくなってその場を後にした海人は、パウェル達とお茶を飲む事にした。
「すっかり取られたのぉ?婿殿」
「何を取られたってのよ?」
不貞腐れる様にパウェルに言葉を返す。
「分からなぬか? 立ち位置よ。あそこは本来ならお主の場所だろう?」
そう言って、アリサの前で皆が跪く様を見て言う。
王の場所だそうな。
ーーそんなもん要らない。
「そんなものは要らぬと? だが其方は族長の娘を娶ったのだぞ? その覚悟はとうに付いていたと思っていたが……違うのか? 娘を返すか?」
少し怒気が滲むその言葉に何も返せない俺は俯いた。
ーー今更返せない。返す気もない。だったらどうするか。
そんなものは決まっている。
立ち位置を取り戻せば良いのだ。
「……精進せぇよ?婿殿」
「はい」
そう短く返事を返すと、拳を固く握る。
「まぁ、焦る必要もないがな」と、カウェイがいう。
そのうち必ず取り返せば良いと言いたいのだろう。
☆
二十年後海人は、子供を作った後修行の旅に出る。
成人したユーリを連れて。
でもその話は別の話なので割愛。
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