異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 「ちょっと面倒臭い事になってる」

 そう言いながら朝食のテーブルに付いて食べ始めた頃国枝が話しかけて来た。

 皆も食事しながら国枝の話す言葉に耳を傾ける。

 「昨晩色々な方面から探りをいれた所、ザケヘル達はクロイド子爵と結託して、世界樹周辺の地域は自分達の物だと主張し、王国にも届け出を出して既に認可されてると言い出してるらしい」

 「受理したのは将軍とグランドル侯爵だ」

 「そんなの! 向こうが後から主張してるに決まってるっ!」
 現に王はエルフ族の物だとサインもしてるし、帝国も同じ様にサインしている、各国の王が認めているのに、後から主張したところで通るはずが無い。

 だが、ザケヘル達の言い分だと俺達が後だと言い、証拠もあると声だかに叫んでるそうだ。
 また、住民達も脅されてるのかザケヘル達が先だと言ってるらしい事が分かった。

 その後ザケヘルに書簡を贈り、話し合いの機会が出来てので、俺と国枝にパウェルとカウェイ(お義父さん)が代表として世界樹の前にある、農作地に場所を用意されて行ってきた。



ダート競馬場の様な場所を超えると、中央にあった小麦畑が見えてくる。麦はすっかり刈られ、天幕が張られている。

 向こうに見えるのはアニキだ。
 久し振りに会う気がするが、機嫌が悪いのか眉毛の無い眉間にシワを寄せていた。
 余り話しかける雰囲気では無かったので、目礼だけで済ませて天幕の中へ進む。

 そこにへ既に、クロイド子爵、ザケヘルと見慣れない男と、マキシムが座っていた。
 マキシムは男の子を抱き締めながら椅子に座っている。
 一体何しに来たのか疑うレベルだ。

 「先ずはこの話し合いがお互いに良き物となる様に努力しよう」と、お互いの代表であるパウェルとクロイド子爵が挨拶をした。

 「さて海人 マキシム様の寵愛を、受ける気になったか?」

 と、いきなり噛ましてきた。
 舐められてる証拠だろう。

 「そんなもんの受ける気があるわけ無いだろう? それにそこにもう変わりが居るだろうが?」

 俺はマキシムの膝の上に抱っこされてる少年を見て言った。

 「ふん、羨ましいのか? 我が息子が寵愛を受けているから」と、笑って嬉しそうにしている。
 「この度息子は正式にマキシム様の正妻になる事が決まったのだ! 羨ましいだろう? だが、お前は遅すぎたから奴隷にして可愛がってくれるそうだぞ?良かったなぁ」

 そう言って煽るのだが、それは煽っているのか?気持ち悪い話を延々とされるのが嫌だったので無視すると、パウェルもクロイド子爵を咎めた。

 「違う話はお互いに憎しみを生むだけです。先ずは世界樹周辺の土地に付いて話し合う筈ではなかったですかな?」

 そう言うと、了承されて懐から証文をだして主張するザケヘル。

 「見よ!此処に書かれている事は事実であり、署名もされておる! この土地も世界樹もその上にある風車も我々の所有物だ!」

 「風車は俺のだぞ! 何しれっと所有物にしてんだよ!」
 そう口を荒らげると、パウェルが手で制した。
 「口が悪いぞ?婿殿」

 と、窘められた。

 「そもそもこの土地も世界樹も私達が昔から住んでいた場所です! 風車もまた私共の婿殿が直して使える様にした物でしょう? それをいきなり来て所有権を主張するのは如何なものですか?」

 パウェルがそう言うとザケヘルはニヤリとして言う。

 「ここ数年は俺様の使役した地竜が住んでいた筈だが? それにそこに居る海人は俺様の地竜に使役されていた。つまり、風車を得た時には俺様の所有物時代だった。それを直そうが何をしようが、俺様の物だろう?」

 そう言って笑うと、マキシムも笑いだし地竜に使役されるとかウケると、ガハガハと笑いだし、クロイド子爵もゲヘゲヘと笑いだした。

 「使役されてるなら地竜の言葉も分かるだろう? おい!誰か地竜をここへつれて来い!」と、大声で叫ぶザケヘル。

 すると不機嫌そうな顔をしたアニキが来た。
 そして言う。
 「俺様にはコイツがピィピィ鳴いてる音しか聞こえないが、海人。お前なら何を言ってるか分かるんだろ?通訳しろよ」と、口元のニヤニヤを隠しもせずに此方を笑うと、地竜に命令し始めた。

 「おい、地竜よ!この土地は誰のものだ?」

 『お前はさっきから何なんだ⁉ この土地はただ借りてるだけだ! 母の墓があるのだから守ってきただけだと何度言ったら分かるんだ⁉』

 と言ってる。と伝えると巫山戯るな!と喚き、嘘偽りを申すでない!と、他の方々も怒りだす。

 「喚くなよ人族。おい、そこのお前だ! 何ぼーっと眺めてる? お前なら分かるだろう?主様アニキのお言葉を。なぁ?ダークエルフよ」そう言うとパウェルは、一人様子を伺うようにしていた男に話しかける。

 パウェルが言うには、コイツがダークエルフだという。

 見た目は普通の男だ。
 人族と言われても違和感もない。
 どことなく目元がカーナ達に似てる気もするが……。まさかな……。

 「……久しいなパウェル、少し老いたか?皺があるぞ?」
 「貴様の目は相変わらず節穴のようだな? 老眼か? 若木だが世界樹の雫を処方してやろうか? お前等には目にすら出来ない物だろう?」

 「……っち」

 世界樹の朝露から作られる雫は、目を良くする目薬なのだとか……。

 ーーってあったのか世界樹の雫……。

 世界樹の話で琴線に触れたのか、眉間に皺を寄せると舌打ちをした男。
 名は名乗らないようだ。
 「儂らは地竜を崇拝しておらん、だから何を言ってるかは分からんわ! 残念でしたなぁ?」と、笑い。

 「儂らの崇拝している竜様は炎竜よ! 貴様等とは格が違うわ!」

 そう言って鱗を一枚見せてきた。
 それは、神と定めたときに炎竜から承った物だという。
 パウェル達にも地竜から貰った鱗があるという。

 「巫山戯るな! 種族が変わろうと竜様のお言葉は共通な筈だ!分からぬのは信仰心が足らぬのだ!ダークエルフゆえな!」

 「ふん! だったら証言は諦めるんだな! そっちの小僧がちゃんと通訳しない限り和解など出来ぬと知れ!」

 そう叫ぶとダークエルフの男は、天幕を出ていった。

 それに続いてクロイド子爵もザケヘルも出ていった。
 どうやら黒幕はダークエルフらしい。

 これ以上ここに居ても仕方ないからと、俺達も席を立とうとしたら、一人だけ残っていた。
 マキシムだった。
 マキシムは父竜とも普通に話が出来る。
 だから、さっきの兄貴の言葉が理解できた筈だ。

 俯いた顔からゆっくり顔を上げ、まるで何かに気が付いた様に俺を見ると、その口を開く。

 「……海人。今そこの地竜が言った言葉だが……」
 そう言葉を止めながらガバッと立ち上がり叫ぶ様に

 「「我にもピィピィしか聞こえなんだ‼ガハガハガハ!」」
 そう言ってひとしきり笑ったあと去っていった。

 「何だあの野郎!」
 その態度にカウェイも憤る。
 「あれが英雄と謳われた成れの果てか……」

 頭をゆっくり振りながら呆れたように呟いた国枝の言葉は少し悲しそうだった。




 その日の夜、1回目の話し合いは不発に終わったと報告していると、外からガンガンと叩く音がしたので、装備を整えながら返事を返す。

 「だれだ!」

 『む、海人か? 久し振りだな父竜だ。 マリアーヌも一緒なんだが、少し会えないか?』て、声が聞こえた。

 「なんと!主様アニキの父か⁉」
 その声に反応したのはお義父さんカウェイ。やはり地竜の言葉を理解しているようだ。
 ダークエルフは本当に嘘を言ったんだと確信が得られた。

 ハウスの玄関を開けて外に出ると、父竜に乗ったマキシムの実妹マリアーヌと、もう一人……。
 アニキが一緒に現れた。

 そして、此方が何か言う前に、俺を指差し言うのだ。

 「海人、私と勝負しろ!」と。

 

 
 
 
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