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しおりを挟む戦意を消失した兵士を蹂躙するのは簡単だった。
少し七星を動かせば逃げていったからだ。
グランドルも最早戦えないのか腰が抜けたのかワタワタと慌てふためきながら逃げていった。
そしてそのまま止まることなく街道を抜け、城塞都市クライドまで辿り着いた。
「よし、取り敢えず待ち合わせ地点に、辿り着いたし、このままハウスが来るまで待つとしよう」
「何か拍子抜けでしたね」
「最初の攻撃で終わっちゃったしね……」
「旧街道の方は大丈夫ですかね?」
「まぁ、あっちも強力な兵器積んでるから心配はあんまりしてないよ」
そう言うと野営の準備を始めた。
その後数日過ぎた辺りで落ち合った俺達は、無事に拠点近くの森で待機し、帝国へと向かったパウェル達を待つ事になった。
落ち合えたその晩に国枝に文句を言った。
「お前が造ってよこした蜂型ド○ーンだけど、何だよあの威力! 爆発範囲と威力が馬鹿みたいに高くて怖かったんだぞ⁉」
「あ、もう打ち上げてくるたんか? 凄かったろ? あの花火! 何時だったか見た流れ落ちる火花を再現しようと結構苦労して組み込んだんだよ! 最終的に火花に火炎放射器みたいな炎を付け足す事で再現出来た様なもんだけど、どうだった?感動した? 撹乱にも使えたろ?」
とか、言ってきた。
ーー花火……だったのあれ? 兵器じゃなくて? え、花火だったから半径五十mも範囲広かったの⁉
俺が驚いて居るのが気になったのか、ちゃんと打ち上げたんだろう? と、更に聞いてきたので
「打ち……上げてはいない。 敵の足元で爆発する様に狙いを定めたから、地上で大輪の花を飾ったよ」
そう言うと今度は国枝が言葉に詰まった。
「え……あれ地上で爆発させたの⁉ マジで⁉」
「うん。半径五十m内に居た兵士はみんな吹き飛んだり焼き焦げたりしてた」
そう言うと初めて国枝は俺にドン引きした。
「花火の事故見た事ある?」
「いや、無いけど……」
「うわぁ……」と言ったきり、国枝は黙ってしまった。
「だ……だいたい今から戦うよ?ってやってる所に持って来たら誰でも兵器だと思うよ!…………思うよね?」
そう言うと、首を横に振っている。
ーー違うのか……。
「……次から何か渡す時はちゃんと説明してね?」と言うと、国枝は無言で何度も頷いた。
そんなやり取りがあった数日後、パウェル達が帰ってきた。
☆
「ダークエルフが全員居なかった?」
「ああ、裏で暗躍してる筈のダークエルフは帝国に入っても監視すら付かなくてな? 不思議に思ってたら帝国の皇帝が言うんだよ、『少し前に国を出るという手紙を受け取った』ってな」
そう言うのはお義父さん。
何時もなら王国のエルフが帝国に入った途端監視する奴が必ず居るのだそうだ。
それが居ないばかりか、帝国を出ると宣言したという。
「帝国を出たとして何処に向かったんだろうな?」
「もしかして……の話だが、ザケヘルと共に世界樹の拠点に来ているのかも知れん。 ダークエルフの悲願は世界樹のある森で生きる事だからな」と、言うのはパウェル。
流石長年生きてるだけはある、ダークエルフの事はよく知っている様だ。
大昔の話だが、帝国のダークエルフと王国のエルフは同じ集落で共に生きる仲間だったそうだ。
魔王が勢力を拡大してきた頃、エルフの集落にも魔王の部下を名乗る者が現れて、こちらに付くように打診された。
その時に魔王の配下を選んだエルフ達がダークエルフとなったらしい。
魔王が倒された後、何の反省もしないままに戻ろうとしたダークエルフ達を王国のエルフ達は拒否して、追い出したそうだ。
ダークエルフ達がやった悪行の数々を知っていたからだ。
そしてダークエルフ達は帝国へと向かい、そのまま居着いた。
魔王時代から現在までには、何度か小競り合いも起きていて、その時捉えた捕虜になぜ何度も攻めるのか聞いた事があったそうだ。
その時言った言葉が「世界樹の里を取り戻す」というスローガンの元、ダークエルフ達は活動していると聞いたらしい。
帝国で暗躍していた理由は、戦う為の資金調達と新しく武器に成りそうな物の開発や発見だったらしい。
つまり、ダークエルフは見付けたのだ。
新しい武器に成りそうな何かを。
そして、好機と見て今まで住んでた国を捨てて出ばってきた……。
「しかし、そんな新しく武器になる物なんてありますかね?」
そう言うとパウェルが呆れながら俺を見て言う。
「あるだろう? 目の前に」
そう言うとハウスや七星を指差す。
「え、て事は……ダークエルフは拠点に居るって事⁉ ザケヘルじゃなくて⁉」
そう言うと多分違うという。
「ザケヘルも……だと思うぞ?」
そう言うと国枝は一枚の手紙を俺に見せる。
国枝は、諜報部隊に先行させて拠点周辺を洗って貰っていたらしい。
そして、その情報を書き留めた手紙を受け取ったと……。
流石チート……やる事が早い。
その手紙によると、本当にザケヘルもダークエルフと共に拠点に居るようだ。
そして、地竜も……。
そして見逃せない名前が書いてあった。
「おいおい……変態まで居るの⁉」
「そうらしい。 クロイド子爵も居るらしいぞ?」
「……マジで? クロイド子爵はマキシムに息子を盗られて恨んでるんじゃないの?」
「そうだと俺も思うけどよ? でも仲よく一緒に酒飲んでたみたいだぜ?」
新たな事実にちょっと頭が混乱してきた。
「最初から結託してた……って事だろうか?」
「如何だろうな……途中からってな気もするが……」
「真相は分からないか……」
「他の貴族は居ないんだろーな?」
「将軍は王国に居たし、他の奴等は海人が花火で蹴散らしたんだろ? 多分クロイドだけだな」
はぁ……とため息を吐くと、話を切り上げて寝る事にした。
情報が足りなくて、どう動けば良いか分からなくなったからだ。
「一応もう少し調べられるか聞いてみるよ」
そう言うと国枝は、森の中に待機しているであろう白魔導服達に会いに行くと言って、森の中へと姿を消した。
【七星】にカーニャと入ると、カーニャがお茶を淹れてくれたので、一杯もらう。
「作戦立てられそう?」
「んー……如何だろう。取り敢えずアニキを如何にかして、元英雄を倒せればイケる……かな? ダークエルフがどう動くのかも検討付かないしな」
そう言いながらため息を吐く。
ーーアニキとマキシムが一番厄介何だけどね……。
マキシムは変態だが、戦闘力は高い。
父竜を使役する程の力があるのだから、それは相当な物だろう。
幾ら大恩があったから使役されたと言っても、腐っても地竜である。
力が弱かったら使役なんてされていないのだ。
幾ら海人が強くなったとはいえ、相手は百戦錬磨の軍隊で英雄とまで謳われた男だ。一筋縄ではいかないだろう。
本当に頭の痛い話になったもんだと、海人は再びため息を吐くのだった。
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