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しおりを挟む「ところで婿殿、ドワーフとは子は出来たのか?」
「ブホッ……ま、まだかと……思います」
見張りの順番が回ってきて、俺とお義母さんで大ダンゴムシ型の上で機銃を握りながら温かいお茶を呑んでいると、アリサに子は出来たのか聴かれ、思わず吹き出してしまった。
アリサと一度やってしまった俺は、確かに毎晩の様に彼女を抱いたし、彼女の中で果ててもいる訳で子供が出来る事もあるだろうが、特に彼女からは何も聞かされてない。
というより、彼女も調べてないと思う。
昨晩の宴中、パウェルとアリサが話をしていたのを目撃している。
その時パウェルは「ドワーフで種族は違うが海人と一緒になったからには家族も同然なのだから、報告はしなさいね?」と、アリサに言っていた……気がする。
その時の様子では返事はしていたが、出来たとは言っていなかった筈だ。
それなのに俺に聞くのは何故だろう?
「エルフとドワーフは昔からいがみ合っているの。 今の若い子供達は余り関わりが無いから年寄り連中の様にお互いを空気の様に扱うことは無い、けれど私達の代はそれが凄く強いのよ? だけどね、婿に迎えた貴方の嫁にアリサが入った事で変わる事になる……いいえ!変わらなければいけないのよ」
そういえば……初めて森のエルフに出会って宴を開かれた時、ザケヘルと一緒に来てたドワーフのおっちゃんは空気の様に扱われてたな……。
今更だがその事を思い出した。
そういえばアリサは三百歳……って事は、お互いを空気と扱ってる世代にギリギリ入るのか? それにしてはユーリや双子姉妹とも仲良くやっていたような?
もしかして三百歳というのは若い世代に入るのだろうか?
イマイチ妖精種の年齢感覚は分からない。
まぁ聞けばいーんだよな。と、思い立ったが吉日って事でパウェルに聞いてみると
「三百歳? まだまだ若いのね、アリサって」
という返事が返ってきた。
ーーって事は若い世代に入るのね……。
年寄り扱いしてゴメンネ?っと、心の中で謝った。
因みにパウェルは何歳なのか聞いてみると……。
「貴方って偶にデリカシー無いわよね」
と、ユーリと似たような冷たい目で睨まれた。
やはり女性に年齢を聞くのは種族は関係ないようだ。寧ろ、次元も関係ないようだ。……気を付けよう……。
怒りつつも一応教えてくれたが、八百歳から数えるのをやめたらしい。
「数えたところで気持ちが若ければ、何年経とうが若いままなのだから、その様に扱いなさい?」……だそうだ。
前の世界でも永遠の十八歳と言ってる人は居たな。……。
本当に次元を渡ってもその辺は同じなんだな……。
「それにね……さっきの続きだけど、貴方が中心になって世界は変わるかも知れないのよ?」
世界が変わるとはどういう事だろう?と、頭をひねる。
「ユーリの子供もカーナとカーニャの子供もアリサの子供も貴方を父として兄弟になるのよ? ドワーフとエルフの共通の父親になるのよ? それにね、エルフは森から出て来なかったのに、今ここに居るでしょう?」
そう言うとにっこり笑う。
歪み合い憎み合いお互いの存在を空気として扱うことでしか生存出来なかった種族が、俺を仲介して仲良くなれる未来が来るかもしれない。
そんな期待も有るのだとパウェルはいう。
そして、街になど近付かなかったエルフが森から出て、王都にまで来た。
これがどれ程凄いことか貴方に分かる?と、言われた。
残念な事に俺にはよく分からなかった。
この先はもっと街へと出て行くエルフも現れるかも知れない……と言う事だろうか?
パウェルは追々わかってくれれば良いと言うが……。
それにしても、考え方や感じ方は俺がいた世界とそんなに違いがない気がする。
魔法が主体か科学が主体かの違いしか無いような……。
ーーもしかして……異世界ってのは、住んでる惑星が違うだけで次元は同じなのかも知れない。
夜空の星を眺めながら海人はそんな風に考えるのであった。
☆
その日の朝、王様がやってきた。
宰相と王妃も一緒に……。
ーーいやお前らここに来るの禁止してなかったっけ⁉
っと言おうとしたが、察したのか書状を出して宰相がいう。
「此度は我が王国にお越し下さりありがとう御座います。
エルフ族の皆様、我々は心より歓迎致します。
エルフ族が森から出て来てくれた事など数千年の歴史の中で数少ない事例です。希少な機会を我が国に齎せてくれた海人様には厚く御礼申し上げます。
つきましては、この地をエルフ族の大使館としてお使い頂きたく思います」
そう言って土地の権利書を渡され、晴れて王城の一角にエルフ族の土地が爆誕した。
何だろう。肩の荷がここに来てズシッと重くなった気がした。
すると、察したのかパウェルがコソッと話しかけてくる。
「肩の荷が重くて耐えられそうに無かったら、何時でも私達を頼りなさい。私達は貴方の家族なのですから、遠慮等せず頼りなさいね? 必ず支えて見せますから」
そう言うとスッと離れていった。
「伊勢海人殿、本当にありがとう!我々人族とエルフ族との架け橋になってくれた事、必ず後世まで語り継ぐと此処に誓う!」と、王様が威厳たっぷりに宣言した後、王城へと戻っていった。
去り際に王妃から一枚の手紙を受け取った。
そこには将軍やグランドル達が王都の外で待ち構えているので、気を付けるようにと書かれていた。
そして、迂回路を示した地図も入っていた。これは、知られちゃいけない軍事機密だろうに……。
手を貸すことが出来なくて心苦しいとも書かれている。
俺は去っていく後ろ姿に頭を下げると、その地図を皆に見せていう。
「この先網を張ってる貴族がいる。このまま向かえば争う事になるだろう! だが、俺達エルフ族は人族とは戦わない!こうして土地まで譲ってくれた恩を忘れてはいけない! だから、この迂回路を使って拠点まで帰る事にする! 付いてきてくれるだろうか?」
そう言うと皆は頷き、歓声が上がった。
取り敢えず、直ぐに発つ事は出来ないがこの人数だ、直ぐに組み上がる事だろう。
「よし!それでは各班に別れて作業を進めよう!」
そう言うと、一斉に動き出した。
☆
「何か急に男っぽくなったな」
と、いつの間にか居た国枝が海人を見て言う。
それを聞いてはしゃぐ海人が満面の笑みを顔に出して喜びの声を上げる。
「本当かっ!? 俺男っぽい⁉ わー!何か嬉しいなっ!」
今まで女っぽいとしか言われたことが無いので本気で喜んでいる海人。
「あ……ゴメン気のせいだったわ」
その顔が無邪気な子供の様に見えたので、気のせいだったと誤魔化した。
ーー男というか大人っぽくなった?
(そう言ったら子供ぽいのかと怒るだろうか?)
国枝は、少し怒って作業に向かう海人を見送りながら、そんな事を思うのだった。
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