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しおりを挟む国枝には私兵が居る。
白い魔導服を着ているのがそれだ。
彼等は国枝が各学年のトップを集めて講義をしている生徒だという。その中でも更に精鋭でエリート中のエリート達を組織して、僅か五人しか居ないが、国枝の完全な私兵なのだそうだ。
彼らの仕事は主に諜報活動。
今回のクロイド子爵が絡む騒動も調べた結果、軍事顧問、将軍、近衛騎士を筆頭にマキシムに子息を奪われた親達が中心となって、他の貴族、商人、その縁者と計画した事だと言うことが判った。
その中でもクロイド子爵がかなり乗り気で、率先として活動し今回俺の周りに居る人達を仲間に引き入れようと動いたらしい。
ズタボロにされた子爵はポーションを呑んで既に退院しており、他の貴族家に避難しているそうだ。
その貴族家が軍事顧問で侯爵のオレサー・ド・グランドルと言う名らしい。
既に俺を襲い攫う計画を立てていて、実行日は三日後だという報告を受けた。
「どうすんだよ海人⁉逃げるなら手を貸すけど流石に無傷って訳には行かないぞ? 車はまだ直ってないんだろ⁉」
国枝は心配して、クロイド子爵をぶっ飛ばした日から此処に留まってくれている。
俺とアリサは、取り敢えず出来る所まで酒樽型電動馬車を直す事にして、組み上げ始めたのだが、今の所完成したいるのは、シャーシを軸に車輪や骨組みだけで、他の部品等は手付かずだ。
シャーシ等の素材は、王様の金にモノを言わさて集めた軽くて丈夫な金属のミスリルとオリハルコンの合金で作った。
そのお陰で更に防御力も上がっている筈だ、床材の骨組み部分にも同じ金属が使われている為、それだけで金貨数百枚の価値がある。
完成すれば、最早誰にも防ぐ事のできない走る要塞となるだろう。が、現実問題完成期日は未定である。
確かアリサが風魔法で飛ばした手紙を読んだイーチェ達が此方に向かって居れば、来てもおかしくない程日数は経っているが、今の所くる気配はしていない。
何故なら昆虫型に乗ってくると予想しているので、向かっているとしたら騒がれ始めているだろうからだ。
それなのに何も音沙汰がないと言う事は……。
「流石に来れないよな……」
と、諦め掛けて居た所、外が俄に騒ぎ始めた。
ガタッと椅子から立ち上がった国枝が窓から外を見た所、鎧を着込んだクロイド子爵や軍事顧問のグランドル侯爵が目に入った。その他大勢の私兵も居るようで、完全に囲まれてる様だ。
「くそ、動きが早いな! 三日後じゃなかったのか⁉」と、叫ぶ。
すると、直後に国枝の側に半透明な木菟が現れ、少年の声で『すいません、捕まってました! 実行日は今日です! 騙されてました! お逃げ下さい!』という悲痛な声で叫んで掻き消えた。
諜報活動をしている生徒の声だろう。
流石は将軍や近衛騎士だ、学生如きの諜報員など取るに足らなかった様だ。
嘘情報を掴ませて報告させ、実行する日に捉えていたのだろう。
その少年の無事を祈る。
今は兎に角、装備を整えて襲撃してくるだろう兵士達を迎え撃つ準備をするしかなかった。
この一件に王様は手を出す事が出来ないのか、王城のテラスから見守っているだけだ。
国枝の婚約者の姫様もテラスに居て、祈る様な姿が遠目に見える。
多くの貴族や役職が関わっている為ってのもあるが、今の所俺に爵位もない為に手が出せないのだろうと、国枝は苦虫を噛み潰した顔で唸る。
たかが平民如きに王の権限を使用する事は許されないって事らしい。
そのへんは貴族特有の特権なのかもな。
王城の一角にある修理工場を囲む様に兵士達が並ぶ中、「投降しろ! 手荒なことはしない! 抵抗するなら手加減は出来んぞ!」という、叫び声が聞こえた。
ーー従属しようと手ぐすね引いて待ってるのに手荒もクソも無いと思うがねぇ……。
そう思っていると、待つ時間は過ぎたのか、早々に支持を出して兵士が一斉に動き出した。
一歩一歩と囲みを狭めて進軍する兵士達をニヤニヤ笑いながらその後ろで椅子に座って高みの見物をしている貴族達。
後数歩も歩けば工場の扉に手が届くとなった時、貴族達の後ろからけたたましい爆音が響く。
「なんだこの音は⁉」とアリスも始めて聞く音だった様で、驚き鉄槌を取り落とす。
俺と国枝は顔を合わせて気が付いた。
「おいおい!マジかよww」と、思わず笑ってしまった国枝。
確かにこれには俺も信じられない顔をしてしまった。
良く其処に気が付いたな!っと、作れた奴を賞賛したくなる。
俺達の世界では馴染みのあるその音の原因が、貴族達や兵士達の囲みを蹴散らす様に現れた。
その形はニ台の蜜蜂の形をした車輪が一つしかない単車と、もう二周り大きなスズメバチの様な二輪車の一台が工場の扉を突き破って入ってきた。
「「「無事ですか⁉師匠っ‼」」」
という声を揃えて三人の女の子、イーチェ、ニーチェ、サンチェスがそれぞれ背中にズドン、マーク、ガドンと乗せて現れたのだ。
そして更に外では大騒ぎになっていた。
慌てふためいて散り散りに逃げ出す貴族達と弾け飛ぶ様に兵士達の武装が砕け散り、流れ弾が此方にも飛んで来て跳弾する。
「うおい⁉ ちゃんと狙え‼」という、ユーリの甲高い声がしてその方向を見ると、昆虫型の電動馬車の上からガトリングガンの様な銃を兵士に向けて撃ちまくってるお義父さんが、「娘よ、すまんすまん!中々難しいのよ‼」とか、叫んでいた。
☆
「おおっ!無事で良かったな息子よ!」と、満面の笑みで昆虫型の上から飛び降りてきたお義父さんにハグをされる俺。
その後ろから涙目になってる三人のエルフでユーリ、カーナ、カーニャの嫁が走り寄ってきて抱き留める。
声にならないのか泣き声だけが工場の中で響く、その後ろではイーチェがアリサに飛び付いて無事か如何かを確認している。
☆
お義母さんのパウェルも来ていた様で、お義父さんと娘達で襲撃者を蹴散らしてる最中、単独で王城へ向かい強引に謁見を申し入れていた。
「迷い人の海人は我が娘の入婿である、彼はエルフ族の一員だ! よって王国の貴族とはいえ、何人たりとも攻撃する事は許されない!」と、王に直接伝えていたそうだ。
そのお陰もあってか王の勅命が下り、停戦命令が実行され、集まっていた兵士達は解散させられた。
そして件の貴族達は介入してきたエルフに攻撃をと王に直談判したが、エルフ族と事を構えるわけにはいかないと全ての訴えを退けた。
修理工場の周りに居た兵士達は死屍累々と転がっていたが、死亡者は居なかった様で、今は王城で治療を受けているらしい。
☆
工場の二階の部屋ではワイワイと仲間達が集まり、晩餐会を始めていた。
「みんな良く無事に辿り着けましたね!取り敢えず騒動は落ち着きました! 助かりました!ありがとう御座います!」と、来てくれた皆を歓迎する言葉をのべた俺に乾杯と続けるお義父さん。
俺の隣には、アリサとユーリカーナカーニャの双子が座り、対面にイーチェ、ニーチェ、サンチェスが、それぞれ付き合ってる者達を隣に座らせている。
上座にはエルフ族の当主であるパウェルと旦那様が座り、それぞれの手に杯を掲げ、取り敢えずの無事を祈ると共に、再会の喜びを分かち合う為の宴が始まった。
国枝はお姫様に呼ばれたらしく、王城へ行っているので、ここには居ない。
何でも物凄く心配してくれたようで、落ち着きがないから来てくださいと頼まれたようだ。
「本当に騒動が好きな婿で飽きないよ」と、パウェルに言われたり、アリサを新しく嫁に加えたと報告したり、「エルフ族の孫はいつ頃だ?」と、お義父さんに凄まれたりして、晩餐会は続けられた。
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