54 / 77
54
しおりを挟む変態が捕まり、裁きが下された。
発見時キスをしていただけだったので、重罪には成りえないとして、罰金だけで済まされた。その背景として、マキシムは貴族な上に過去の功績が高かった、その為ほぼお咎め無しで済まされた様だ。とはいえ、醜聞が悪いので学園からは追放、国枝も責任を取らされ三十%の減俸になった。
マキシムが追放と発表された翌朝、後を追うように数人の学生が学園を辞めて、彼に付いていったそうだ。
そこで、改めて冒険者倶楽部の実情を調べた結果……。
現在進行系で付き合ってる彼女(彼氏?)が五人、婚約した者が三人現れ、口説かれ中だった者は二十人も現れた。
学園を辞めた者も婚約者だったという他生徒からの情報もあり、いつの間にかマキシムのハーレムと化していた冒険者倶楽部は、愛でたく(?)廃部となった。
「こんな筈じゃなかったんだけどなぁ……」と、悔やむのは国枝。
もっとちゃんと管理して於けば、こんな事にはならなかったのにと後悔している様だ。
学園を辞めてマキシムの元に付いていった者は、軍事顧問の甥っ子や将軍の子息、近衛騎士の子息だったらしく、軽くお家騒動となってるらしい。
他の生徒も騎士の子息や兵士の子息に商人の子息なども多く含まれていて、街は跡取り問題が発生して混乱しているそうだ。
子息達の年齢は下は10歳上は14歳で、全て未成年な上に、将来家を継ぐ子が多かった。
その為にこの罪状は軽すぎると、批判が殺到し、連日マキシムが居る宿屋は針の筵で連日の様に訴えて来る人々が集まる為にその都度追い出されているらしい、転々と宿屋を移動している毎日だったそうだが、ある日突然姿を消したそうだ。
姿を消して束の間、マキシムに拐かされた生徒達が全員学園から消えた事で、これが狙いだったと後から発覚し、マキシムは国家転覆未遂罪と青少年集団誘拐罪で指名手配された。
当然貴族位は剥奪、勲章も書類上だが剥奪され、賞金も付けられた。
しかし全くと言っていいほど痕跡すら見付からず、完全に姿を消したマキシムは帝国に亡命したのでは? と、噂され始めた頃、漸くクロイド子爵が王都へ到着した。
講師寮で抱き合ってキスをしていた子爵家の子息も、沙汰が下る前に脱獄までしてマキシムと共に消えた。
監視していた筈の学園も牢から如何やって逃げたのか調査もされているが、脱獄方法が全く分からないらしく、御子息が居なくなった事をクロイド子爵に説明する学園長も困惑気味だ。
「殆どとばっちりで責められてるからね。
まぁ、管理責任があるので仕方無いちゃ仕方無いけど」っと、国枝は言っていた。
☆
そして、何故か俺とアリサと国枝の前にクロイド子爵が座ってる。
場所は王城の一角、酒樽型電動馬車の修理工場の三階、移住区として俺とアリサが暮らしている部屋の客間だ。
対面に座ってるクロイド子爵は出された紅茶も呑む余裕が無いのか、口すら付けずに俯いたままだ。顔色はこれ以上青くならないって位青く、何時でも白く成れますよ?って感じで憔悴仕切っている。
話がしたいという申し出に断れるはずも無く、同じ地域に住んでいたアリサに先触れが出され、たまたま居合わせた国枝を巻き込んで部屋に呼んだのだが、一向に何も話さない。
如何したものかと顔を見合わせていたら漸く話し始めた。
「この度は私の我儘で話を聞いてくださり、感謝いたします。私は城塞都市クロイドの領主でハラグ・ド・クロイドと申します。どうぞお見知りおきを国枝様、アリサ様、其方は初めましてですね? 確かザケヘルが申していた迷い人の海人様……ですかね? 記憶が曖昧で申し訳ありません……」と、一気に捲し立てた。
「丁寧なご挨拶痛み入ります、私は伊勢海人と申します。はい、確かに私は迷い人であり、ザケヘルとも懇意にさせて頂いております。で、この度はどんな御用で此方に?」
何となくタメ口は駄目だろうと話し返したのだが、どうやら用があるのは俺ではなくA級のアリサと国枝にあるらしい。
なので、席を外して貰えないかと言われた。
それを聞いてアリサが怒り出したが、手で抑えて席を外す。
ーー正直なところ面倒事かと思ったのでとっとと退散した。
☆
数刻後、国枝の荒げた怒鳴り声と爆発音にアリサの鉄槌を振るった時に出る破壊音が響いた。
何事かと急いで客間に向かうと、破壊された机は跡形もなくなり床すら貫通したのか、二階の作業部屋が見えているし、カーテンは燃えたのか消し炭になって窓の下に纏まっていた。勿論窓は砕けたのか弾けとんだのか溶けたのか、何も無かった。
窓枠すらなかった。
寧ろ壁すらなかった。
良い風が吹いたのか、絨毯らしき物が風に舞って幻想的ですら「……って、何してやがる!お前らっ⁉」
一瞬現実逃避仕掛けた頭を呼び戻して、客間の惨状に軽く目眩がするのを何とか抑えて怒鳴る。
クロイド子爵は窓から落ちたのか飛んで逃げたのか分からないが、姿形は無かった。
まさか消し炭にしたってことは無いだろう。流石に……ねぇ?
「クロイド子爵は如何した?」
と、一応聞いて見るが返事はない。
国枝を見ると未だに興奮が抑えられないのか、憤怒の形相のまま荒く息をしているし、アリサを見れば……
「あれ? アリサは?」
アリサも居なかった。
国枝が指を指すので其方を見たが、壁の無い空を指している。
もう一度国枝を見るが、指の先は外である。
恐る恐る窓だった場所まで向かい、其処から下を覗いて見たら、芝生というか土の上で大の字の様な格好で寝ているクロイド子爵と、その上に跨り何度も殴打しているアリサの姿が見えた。
「ちょっ⁉ それ以上殴ったら死ぬから⁉」っと、アリサに声を掛けるも振り向きもせずに殴打し続けている。
俺は急いで元窓から飛び出すと、すぐ横に着地。そのままアリサを抱き上げて殴るのを辞めさせた。
「何してるの⁉ 相手は人間よ⁉」
何となく言うことが違う感じに思ったが、動転していた為そのままにした。
「コイツ!コイツは!絶対許さない!」
と、アリサは手足をバタつかせて暴れるし、国枝を呼ぼうと思ったらすぐ横にいつの間にか居て、「国枝! ちょっと何とかして!」と、暴れるアリサを止めて貰おうとしたのに、何故か寝転んでるクロイド子爵の腹を蹴飛ばして数m先に飛ばし始めた。
「ちょっ国枝⁉ 本当に如何したお前ら⁉」
こんなに怒っている二人は初めて見たので、俺はもう戸惑ってしまって冷静に状況を判断出来なくなっていた。
その後城の巡回中の兵士が俺の声に気付き、場を収めてくれたから、クロイド子爵は死なずに済んだようだ。
そして、二人が落ち着いてきたので何故あの様な事になったのか理由を聞いたところ……。
「海人を従属して餌にして、マキシムを呼び出し、海人と引き換えに子息を交換させようと提案されたんだ!」
と、思い出したのか声を荒らげるアリサ。
「魔力無しの迷い人など生きてるだけ価値など無いが、マキシムの愛玩具としては使える。それを与えれば快く交換してくれる筈だと抜かしやがったんだ!」と国枝。
その為に協力しろと?
なる程なる程……。
つまり俺の為に怒ってくれたと……。
二人の行いに何となくホッコリしていると、国枝がキツイ顔で続け
「他の貴族もお前を犠牲にする事に賛成している気配がある! 悠長に構えてる暇は無いぞ! 海人⁉」と、俺を見た。
それは確かに不味いが……。
ーーさてどーしよう?
0
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる