異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 寮に入ると目の前に階段があり、その右奥に五つの扉が奥へと並んでいる。
 国枝の部屋は三階の一番奥にある角部屋なんだそうだ。
 国枝は夏休みの間、城で過ごしていたが、毎日城だと生きが詰まるからと自分で城の近くに宿を借りて住み始めたそうだ。
 なので、寮は転がり込んできた変態マキシムに貸してるのだそうだ。
 其処に妹まで転がり込んできたってことか……。

 妹は相当な厚顔無恥の様だ。

 ーーしかし、変態マキシムもよく住まわせてるもんだ。それとも、この世界では普通なのか?

 まぁ、外街の方々を基本と考えるなら、一般的な事なのかもしれないけど……。

 階段を上がると2つしか扉は無く、一部屋がかなり広いようだ。

 「随分優遇されてんだな」
 「まぁ、一応魔道士様ですからねぇ!」
 と、得意げだ。

 ーーいーよなぁチート持ちは……。
 俺なんか最初エントランスだぜ?しかも壁が瓦礫……。

 今更ながらに能力の違いに辟易とする。



 奥へと続く廊下を進もうとしたら、不穏な声が響いてきた。
 不穏というか……舐めまかしいというか? 詳しく言うなら喘ぎ声だろうか……。しかも、女の声じゃなくて男性の喘ぎ声だ。

 アリサの眉間にシワが寄る。
 国枝にも、多分俺にも眉毛が寄って皺ができている事だろう。

 「誰だよこんな時間からよぉ……しかも講師寮でこんな声漏らしやがって」と、苛立つ国枝。
 「この階の他の講師とか?」
 「いや、この階には俺の部屋しかないから、多分マキシムだな」

 「臨時講師だっけ?」
 「臨時部活顧問だから雇い主は俺だよ海人」

 どうやら変態マキシムが、彼女(彼氏?)を連れ込んで昼間っから励んでいるようだ。

 「学園では関係者以外立入禁止ではないのか?」と、アリサは国枝に確認した。

 「あ、そうだよ! え、てことはあのおっさん生徒に手を出した⁉ まじかよやべぇな……バレたら事だわ!」

 国枝が立ち上げた部活は立ち上げた本人が顧問になるのだが、国枝は他の講師より無駄に忙しかった。
 其処に転がり込んできたマキシムをこれ幸いと、臨時顧問に抜擢した。
 つまり、不祥事を起こした場合、マキシムだけ処分すれば良いと言う事にはならない。
 当然指名した国枝も処分対象になるだろう。
 その危機感から国枝は、ノックもしないで部屋の扉を開けた。
 自分の部屋とはいえ、人に貸しているのだからノックは最低限のマナーだろう。
 が、事が事だけに仕方無いと言えば仕方無い。連れ込んだ相手が本当に生徒でなければ良いが……。と、何となく祈りながら俺達も国枝の後について部屋に踏み込んだ。

 するとそこには、見るからに幼そうな男子生徒(制服を着てた)が、上半身のシャツを乱しながら、爺さんマキシムに絡まれてキスをしている場面だった。

 「うぇ……」

 と、その姿をまともに見てしまったアリサは嗚咽を吐き口を押える。
 ゲロは吐かなかったが、気持ちの悪い物を見た時になる吐き気だろうか、何度もオェオェと言いながら廊下へと避難した。

 男子生徒も嫌がって居らず、多分合意の上の情事だとは思うが……。

 「どう見ても未成年だろそれ……」

 と、つい俺は呟いてしまった。
 その声に気が付いたのかマキシムは男子生徒の口から自分の口を慌てて離してこう言うのだ。

 「なっ⁉ 海人⁉ 遂に会いに来てくれたのか⁉ だが、残念だが私は君にはもうこれっぽっちも未練は無いのだよ! 見た前!この麗しく可憐な肌を! もう私にはこの子が居るからね! 残念だが少し遅かったよ!」と。

 何を勘違いしているのか分からないが、取り敢えずこれは……。

 「アウトだよね? ロリは駄目でショタはOKって事は無いんでしょ?」
 「うん、確実にギルティ!」
 そう言うと国枝はモニョモニョと何事か呟くと、彼の掌から鳩のような半透明の鳥が飛びたって、窓を通り抜けて飛んで行った。

 「なにそれ⁉」と、俺が騒ぐのに答えずに、再びモニョモニョと呟くと、マキシムを光り輝くチェーンで拘束した。

 「魔道士の権限でマキシム・ゴッドイーター貴様を拘束する!申開きは牢獄でせよっ!」
 そう叫ぶと同時に指笛を吹き鳴らす。
 すると、数人の白い魔導服に身を包んだ者達が窓の外(三階)から飛び込んできた。

 「連行しろ!」と、国枝が白い人達に命令すると、喚いて抵抗するマキシムを力尽くで抑え込んで連れて行った。

 後に残った男子生徒は放心した様に立ち尽くし、乱れたシャツも直さず連行さられていくマキシムの背中を眺めていた。

 階段付近からは足音が響き、今度は黒い魔導服を着た人達が部屋へと雪崩れこんできた。
 国枝はその人達に目を向けると、無言で顎で支持を出し、呆然と立ち竦む生徒を連れて行けとでも言った様だ。
 短く頷くと直ぐに駆け寄り、生徒の背中を押す様に連れ出した。
 このまま、学園内にある取調室で尋問されるらしい。

 後で分かった事だが、生徒の名前はウェスール・ド・クロイドという名で、何と城塞都市の領主で子爵のハラグ・ド・クロイドの息子だと判明した。
 そして城塞都市の都市名がクロイドと言うのを今知った!

 子爵家の跡取りと目されてる生徒だった為、取り敢えず当主に連絡はしたのだが、王都へ向かっている最中らしく、本人からの返信は貰えなかったらしい。
 領地を一時的に預かる筆頭執事から手紙の返事が返ってきて、判った事である。

 風魔法の鳩を飛ばす魔法は、生活魔法の一部で、距離は関係なく直ぐに届くのだそうだ。だが、受取主が住所とは別の場所に移動してる場合は、本人には届かずに送った先に届くので、少しばかり不便なのだそうだ。

 それでも王都へ向かっていると言う事で、取り敢えずは保留にするそうだ。

 クロイド子爵の息子はこのまま退学になる。風紀を著しく乱した罪なのだそうだ。
 だが未成年の為、一人で外に出すのは憚られ、普通は親が来てから罪状を告げるのだそうだが、いつ辿り着くのか分からないので、生徒はこのまま学園地下の牢獄へと移送されるそうだ。

 彼は一般的な常識だと、廃嫡され庶民に格下げされるだろう。
 ただ、クロイド子爵の可愛がってる子供だから、もしかしたら廃嫡されずに残される可能性はあるそうだ。
 その場合、世間からの信用も無くす為、クロイド子爵の権限は低くなると予想しているらしい。
 元々クロイド子爵には黒い噂もあった事から、遂にボロを出したかと喜ぶ人も居るそうだ。





 取り敢えず、俺の目的の人物は居なかった。
 というか、マキシムを主と定め使えていた父竜もいなかったな……。と、思っているとマキシムの尋問から帰ってきた国枝が話をしてくれた。

 「地竜? ああ、マキシムがそう言えば何か言ってたな……何だっけな……ああ!そうそう! 修行の旅に出るから暫く会えないと言って出ていったらしいよ?」
 「弟子の呑み込みの良さに感動して、自分も何かしてみたいと思ったらしい」
 それと、マリアーヌはそんな地竜の話を兄から聞いて、追いかける様に後を追ったので、王都にはもういないそうだ。
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