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しおりを挟む壊された修理費は取り敢えず全額王様が個人的に支払う事となった。
修理を行う為の場所も提供される事になり、王城の角地に新設で建ててもらう。
その場所にお姫様は原則立ち入り禁止。
王様以下、軍事に関わる者も立入禁止とした。
物見櫓のような高い足場を組み、其処にくるくると廻る風車も建てられた。
風車に使うコルクもコルクに巻く銅線もスライムの確保も全て王様の個人資産から支払われる。
ここぞとばかりに要求した資材は、角地に建てられた一角から大幅に溢れ、周りを取り囲む様に簡易的だが壁も建築させた。
「容赦無いのぅ……」と、半泣きで支払う王様の悲しい声は、王妃様の一声でかき消された。
「自業自得です! アナスターシアの様に再教育が必要ですか?」
「うう……御免なさい」
アナスターシアは、幼少期に習う貴族教育を最初から、やり直させられて、城下に行く事も当面禁止された。
当然婚約者の国枝にも会いに行くことは禁止されている。
この一件で、暫くクエストは受けられなくなったが、修理費とは別に賠償金を相当額頂いたので、取り敢えずの生活資金は間に合った。
修理する場所にアリサと共に住む事になったので、宿賃も掛からない。
食事も自炊で作る事になるが、食堂も無料で食べに行っても良いという言質も頂けたので、たまに食べに行こうかと思っている。
☆
「駄目じゃ……此処も取り替えねばならんぞ」
「こっちも完全に折れちゃってる……この部品作るの面倒くさいのになぁ……ズドン達が居れば細かい仕事は任せられるのに」
今現在、酒樽型電動馬車を分解し壊れた箇所の検査を実施している所だ。
パット見で車輪、フロントガラス、フロントカバー兼風力発電機の破損は確認済みだったが、内部を検査したところ、魔石粉バッテリーは破れて魔力水並びに魔石粉パウダーは半分消失、バッテリーからモーターへと繋いでいた銅線も新調しないと、溢れ出た電力で酒樽が燃えてしまう。
修理期間はざっと計算しても半年は軽く超える。
これをアリサと二人で直すのは流石に困難と見ている。
「イーチェ達を王都に呼び付けるしかないぞ? 海人」
「やっぱりそ~なるよねぇ……」
ズドンやガドンはザケヘルに雇われてる親父さんの弟子だから移動も可能ではあるが、呼んで来てくれるかは実際分からない。
「仕方無い……呼ぶか」
ただ、問題なのは交通手段である。
一応4人乗りの昆虫型はあるが、果たして王都まで辿り着けるかは走ってみない事には分からない。
途中で止まったとしても、歩いてる人間捕まえて最悪頼めば何とかなりそうではある。
戦闘になって盗賊や獣を相手しても、特に心配はないのだが、兎に角見た目が悪いのだ。
確実に騒がれるだろう。
その都度説明をしたとしても、時間は果てしなく増える筈だ。
小型を人数分作るとすれば解決は思想だが、三人で乗っても二台は必要になる。
ニーチェも呼べばマークも着いてくるだろうし、ユーリ達も行きたがるだろう。
そうなれば三台だ。
資金的に厳しい状態である。
俺がウンウン唸って考えている間に、アリサがササッと手紙を書いて送ってしまったようだ。
アリサも手紙の魔法が使えたようだ。
「こう言う事は勢いが大事なんだよ」とか、言っていたが……。それは本当か?
少しズレた考えをする人だからなぁ……。少し不安。
そんな俺の心の声が漏れたのか、しきりに「大丈夫!」というので、信用した。
「よし、なら彼等が来るまでやる事はあまり無いし、王都見学にでも行くかい?」
「そうねぇ……そうしましょうか」
と、風車の廻り具合を確かめてから俺達は街へと繰り出した。
序にマリアーヌの件も片付けておきたい。
マリアーヌはマキシムの妹だった。
何処かで聞いた家名だとは思っていたんだけど、変態と呼んでいたので忘れていた。
アリサとマリアーヌは昔パーティを組んでいた関係で、マキシムとも面識があったようだ。
だからマキシムの紹介で拠点に来たのだという。
ゴブリンとの戦いでも共に戦った仲だった事もあるだろうけど。
ーーしかし……兄妹の性癖って似るんだな。
まともな性癖の兄弟は居ないんだろうなきっと。
そして、マリアーヌが現在住んでる場所は魔法学園の講師用の寮で変態と一緒に住んでるらしい。
なので、無関係の者は立入禁止だというので、国枝に引率してもらう。
☆
「悪いね、態々来てもらっちゃってさ?」
「何、気にすんなよ! 俺とお前の仲だろう? 俺とお前の!」
土地勘が全く無いので、王城まで国枝に来てもらう様に従者に頼んだら、直ぐに連絡してくれて、来てくれたようだ。
「俺とお前のを主張し過ぎではないか?」
と、何故かアリサは喧嘩腰だ。
どうもアリサは国枝が苦手なのか、言葉に棘がある様な気がする。
だが、それを指摘するとムッとするので言わないけどね。
まぁ、追加の魔石粉パウダーを作る時には言っても良い気がする。
後が怖いけど、効率は上がりそうだ。
そんな事を考えながら、国枝専用馬車に乗って魔法学園へとやって来た。
「おお、中々良い所だな」
広い校門を抜けると、緑豊かな芝生が続き、その中央には噴水がある。
その周りにはベンチがあって、思い思いに座って本を読む学生や、昼寝をしてる学生が見える。
今は昼休みらしい。
食事は食堂があるらしく、其処で食べるようだ。
平民も貴族も皆平等がモットーらしく、選民主義者等は排除されるのだそうだ。
なので、家柄を盾に威張り散らしていると、即退学なのだそうな。
中々厳しい校風なのかと思うが、校則は原則的に無いのだとか。
人権などには特別厳しく取り締まるが、服装やなんかは自由なのだそうな。
自由とはいえ責任は自分自身が取らなければならないので、下手な格好はしないらしい。
親の力に頼った場合でも厳罰を食らうらしい。
中々楽しそうな学園であるようだが、魔力が無いと通えない。なので、俺は通えない。ちょっと残念ではある。
「国枝先生こんにちは~!」
と、挨拶されている。
「国枝先生だって!」と俺はつい笑ってしまった。
聞きなれない言葉だったからな。
「笑うなよ、照れくさいだろ」
そう言って少し怒るが満更でも無いんだろう、口元は笑っているし。
「そういえば国枝って前の世界でなんの仕事してたんだ?」
そう俺が聞くと
「んー、店を……経営してた」
「へーっ!それはすげぇな、なんの店?」
「んんーっ……んー……秘密?」
「いや、教えてよ……」
そんなやり取りをしてたら寮に着いたのか、有耶無耶のまま結局最後まで教えてもらえなかった。
ーー内緒と言われると知りたくなるなぁ……酔った時にでも聞いてみるか。
と、思って開けられた扉へと歩いていった。
☆
ーー言えないっ!前の仕事の事なんて言える訳ないだろ⁉ オカマオナベバーなら言えなくはないけど、ハードSM倶楽部なんて……まして内容なんて聞かれた日には……心の中でムンクの叫びの様な顔になった国枝だった。
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