異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 国枝達のお陰もあり、すんなりとは行かなかったが如何にか大した問題も無く王都へと入れた俺達は、冒険者ギルドへと向かった。

 国枝がクエストの終了報告をしたいと言うので、じゃあ序に自分達も何か受けようと思ったからだ。

 冒険者ランクに寄っては、都市を移動する場合は申告制度がある。
 自分は今どこの街に滞在してます。っと言うのを、いちいち報告しなければならないらしい。
 何時どこで誰が何人その都市に居るのか把握し、有事の際、強制依頼を出すためだそうだ。
 俺の場合は未だにランクFの為、その義務はない。
 アリサはA級ではあるものの、既に冒険者業務を離れて、魔石粉屋を営んでいた。よって、これまた報告義務は発生しないのだ。かと言って、クエストが受けられないと言う事はない。
 職業を変わる時、冒険者カードは移ったギルドのカードと合わさる事になる。その時に最終ランクも記される為、クエストは受けられるのだ。
 仕事がうまく行かなかった商人等は、暫くクエストを受けて日銭を稼いだりも出来るのだ。
 最低でもCランクだ、冒険者ギルドも優秀な者をおいそれと手放したく無いのだろう。

 ギルド前に豪奢な馬車と酒樽馬車が並ぶ。
 当然の様に人集りも出来るが、今回は酒樽だけでは無いので、変な貴族も鬱陶しい貴族も親の七光をひけらかす御子息御息女も遠巻きに見ている事しか出来なかった。
 お陰で周りが静かになったので今回は本当に国枝様様だな。



 国枝に続いて、俺とアリスも冒険者ギルドへと足を運ぶ。
 門での騒ぎが耳に届いていたのか、王都本部のギルマスが俺達を迎えてくれた。
 俺達と言うか、寧ろアリサと国枝を……だが。
 ギルマスの部屋へと呼ばれたのは国枝とアリスだけだったしな。
 だがここでアリスが俺を連れていけないなら部屋に行く理由も無いと拒んだ為、俺もオマケで部屋に通された。

 ーーいや別に俺は行っても行かなくても良いのですがね?寧ろどんなクエストが有るのか見てみたいし…… え? 駄目? 攫われる⁉ 誰に⁉

 と、俺の意見は通されず、片腕づつ国枝とアリスに掴まれて連行された。

 「先ずは慎吾、依頼完了ご苦労さん。報酬は振り込んでおいたよ。 其方は憤怒のアリスだな? こっちに戻ってきたのか? まぁ、何にしろ良く来たな、のんびり滞在していってくれ」と、ギルマスが二人を前に労う。

 俺はアリスの後ろで立ってるだけだ。
 椅子もお茶も無い。
 なのに目立つというこの上ない居心地の悪さだ。
 ギルマスの何だコイツ感がヒシヒシと感じる。

 さっきからチラチラと見てくるしな。
 はぁ、早くこの部屋から出たい。

 「で、其方の少年は……誰かな?」
 「私の旦那だよ」
 「旦那……(ああ、予定の方か……)」

 それを聞き流すとギルマスは本題に入る。
 「今回アリスも呼んだのは他でもない指名依頼の為だ、お前らも聞いたことないか? 城塞都市の外街にオオダンゴの幼生が目撃された事を……」

 と、ギルマスが話をし始めた。
 どうやら俺達が乗ってきた昆虫型電力馬車の事を言っているのだろう。
 それの情報を集めて来て欲しいらしい。
 相手が大ダンゴの幼生なので、大事を取ってCランクから依頼を出してるようだ。

 それを聞いて当然知ってる国枝もアリサも俺をチラチラと振り向く。

 訝しんだギルマスも俺の方を見るので

 「あー……それは多分、俺の馬車です……」

 と言うと、目を見開き固まるギルマスとウンウンと頷く国枝とアリサ。

 どういう事だと詰め寄られ、説明するも電力が何か分からないギルマス。
 なので、酒樽型を見せにギルマス、国枝、アリスを引き連れてギルドの外へ出たのだが、Fランクで無名の俺如きが有名所とギルマスを引き連れて歩くのはかなり目立つ。

 初めてアリスと致した朝どころの話ではない、道行く方々から路地裏の売女から家の中の少年少女までもが、驚いて見に来る始末……。

 そして、案内した先の酒樽前にはお姫様が居た。
 出入り口の扉には悪戯されない為に鍵を掛けてある。
 だから其処からは入れなかったのだろう。が、運転席の横の窓は開いていたようで、上半身だけ中に入った状態のお姫様がはしたなくも脚をブラブラとさせて、窓に嵌っていた。

 「「「……」」」

 それを唖然として見守る俺達や街の住民、ハッ!っと気が付いた国枝は急いで窓枠に嵌っているお姫様を助け出し、チラチラと見せていた太腿が隠れると、周りの男性陣からため息が漏れた。

 「あら、帰ってきましたのね? わたくし中が気になってしまって、つい……オホホホ! 助けて下さって感謝致しますわ、慎吾様」
 と、お礼を言っていた。

 大注目の中、情報を開示する事は出来ないと俺が言うと、ではお城でって事に成り……。

 豪奢な馬車の後ろを酒樽が続き、その後ろにギルマスの馬車と、何故か付いてきた商人ギルドと魔導具ギルドのマスターがそれぞれ馬車に乗って付いてきた。

 よく分からない大行列に民衆は何事かと沿道に集まり、あっという間に王都では知らぬ者は居ない程、俺は有名になってしまった。

 そらね、お姫様やら大魔導師やら各ギルドマスターの中に、俺みたいな子供が混じってて、例え馬車の中に居るとしてもカーテンを付けてる訳ではないので顔は分かる訳で……目立たない方が可笑しい。

 そのままゆっくりと城門を抜けて、訓練場へと通された俺達は、何事かと見に来てしまった王様の前で、貴族の礼をしながら畏まっていた。

 「面をあげよ、してアナスターシア? 何事か? ……その酒樽は何だ?」

 と、話が始まった。

 「はい、此方は慎吾様の幼馴染の海人様、そしてこれは馬のいらぬ馬車ですの! 私これに乗ってみたくなりまして! 中も見させて頂く為にお呼びいたしましたの!」

 そう言うと、俺を紹介してから酒樽を指差して言う。

 「ほほう、馬の要らぬ馬車とな? それは私も気になるな、どれ海人とやら構わぬ、見せてみよ!」

 と、余り見せたくない此方の事など関係ないとばかりに命令してくる王様に、思う事が無い訳ではないが、ここで反抗するとリアルで首が飛ぶ事になる。
 なので、愛想笑いを振りまきながら時折、首コテン攻撃も混ぜて説明した。

 で、実際運転してみますねーと断ってから座席に座ると、鬱憤を晴らすかの様にアクセルをベタ踏みして、訓練場の砂を巻き上げながら猛スピードで走り回り、ドリフトにスピンにローリングやら何やら披露して、皆の度肝を抜いてやった。




 後にこの出来事は歴史の1頁を飾る事になる。

 ーーその速さは天竜が空を駆けるかの如く地を徘徊し、砂煙を上げながら走りだした。
 その姿は雷神の如き速さであったーー

 と、酒樽が転がる絵姿が本にも描かれて後世まで語り継がれたという。

 
 
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