異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 国枝と別れた後、俺達もカフェを出て馬車に戻った。
 そのまま人力アシストを駆使しながら通りを進み、王都へと続く街道へ出た後アクセルを踏み込み走る。

 流石は王都近郊、擦れ違う馬車は多く中々速度は出せない。
 普通の馬車は十五キロ前後で走る為、直ぐに前を走る馬車に追い付き、抜かせないままダラダラと進み、休憩するまで後ろを走る為、時間のロスが酷かった。

 それでも、休憩をしないで進めたのは、アリサのお陰だろう。
 時間を忘れて楽しく話をしながら走れたので、あまり疲れは感じなかった。

 そして遠目にだが見えだした王都は城塞都市とは比べ物にならない程大きく、それを囲む城壁も高かった。
 「うわー、凄いなあの高さは」

 俺が驚いて声を上げると、アリサが教えてくれる。

 「あの塀は魔王軍との戦争時に建てた物で、当時は魔力の使い方も今ほど発展してなかったの、だからあそこまで積むのに数十年の歳月を使ったそうよ? しかも、人の手で! 凄いよね」

 その城壁は三十mはありそうだった。
 万里の長城の様な歳月も掛かってないし、大きさも段違いに小さいが、一つ一つ積み重ねて行った苦労は同じだろう。

 本当に根気のいる仕事をちゃんとやって退けた事には頭が下がる思いだ。

 王都の出入口には城塞都市の様な結界も施されているが、王様の居る都市だからなのか、チェックはかなり厳しかった。

 案の定見るからに怪しいというか、酒樽に車輪を付けて、馬も無く走る俺達の馬車は止められた。

 「これは何だ?」と何時もの様に聞かれるので、魔導具ですと答えると、その許可書も見せる。

 そして必ず横槍が入り、貴族風情の何処かの御子息とか御息女が気に入ったのか気になったのかお声を掛けてくださる。

 「取りあえず幾らだ?」と。

 その度に丁寧な言葉使いで、「これは売り物では御座いません、申し訳ありませんがお売りできません」と、断るのだ。

 そうすると必ずと言っていいほど激昂し、自分は何処そこの貴族の子息だとか、なにがしの貴族の息女だから融通しろと言ってくるのだ。

 本当にこの流れだけはうんざりする。
 何処そこの貴族の子供だからって何だってんだろうな? は爵位の無いただの子供だろうが⁉ っと、言えたらどんなに気持ちがいいか……。
 こんな所で足止め食って既に三十分は過ぎている。

 俺が彼等の名乗りを聞き流していると一人の騎士らしき女性が後ろからやって来た。
 そして言うのだ

 「何をしている! 早く終わらせろ!」と。

 ーー珍しいな、女騎士だ。

 髪を後ろに束ねて結び、白っぽい色を主体にした鎧を着込み、腰には長い剣を帯剣している。胸には家紋のような幾何学模様にも似た絵が描かれていて、見るからに権力のありそうな貴族の私兵だ。

 「何だこの酒樽は! 邪魔だろう! 退かせ!」

 そう言うと、俺達に集っていた御子息や御息女や低爵のおっさん達が我先にとワラワラと散っていった。

 おおぅ、これはガチで高爵位の所の私兵の様だ。騎士の言葉だけで従うなんて、公爵か辺境伯かはたまた王族か?

 と、思って見ていると
 「あれ? まだ此処に居たの海人達。 とっくに王都に入ってると思ってたよ」
 と、聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。

 その声に振り向くと、豪奢な馬車の窓から国枝が顔を出す。
 隣には可愛らしい顔の女性も一緒に顔を出している。
 「慎吾様のお知り合いですの? 変わった物にお乗りなのねぇ? わたくしも乗ってみたく存じますわ」等と話している。

 「申し訳ありませんがアナスターシア嬢、彼は私の幼馴染ですが、そこに見える酒樽は彼の私物なので勝手気ままに乗る事は許されませんよ?」

 と、丁寧な言葉が国枝の口から吐き出された。

 というか、立派な女騎士は本当に王族の私兵だった様だ。と、思っていたらアリサがその騎士を見ていう。

 「久しぶりだな鎧女!」

 その声に気が付き睨み返す様に此方を見た女騎士さん。

 「……お前、まさか憤怒のアリサかっ⁉」
 「その二つ名で呼ぶな恥ずかしいからっ!」
 そう言って本当に恥ずかしいのか頬を赤らめている。

 「知り合い?」と、聴くと昔パーティを組んでいた事もあるそうだ。
 つまり、この女騎士は王族の私兵では無く、冒険者⁉

 ーー冒険者なのにそんな綺羅びやかな鎧着てんの⁉

 城塞都市の冒険者は革鎧が多かったから、色で例えるなら茶色だったのに、王都に来たら白銀とか、都会は違うんだなぁ……。と、田舎から初めて出て来た田舎者の様に感心してしまった。

 そんな視線に気が付いたのか女騎士は俺を指差して呆れた声を出す。

 「相変わらず歳下が好きだなアリサ 彼は何番目の彼氏だ?」と、言ってきた。
 するとアリサは顔を反らしながらボソボソと呟く。
 「……彼氏じゃない」
 「なんだ? まだ拾ったばっかりか?」
 そう言った後、俺を向きながら
 「少年よ、悪い事は言わないからお家に帰んな? この女は付き合うだけ付き合って肝心な事が言えないまま別れちまう奴だからよ? 待ってても結婚は出来ねーぞ?」

 「あー……と、いや、嫁なんで……」

 「何だアリサ、またお前は婚約なんかしたのか? いい加減止めろ! どうせまた喧嘩して白紙にするんだろ⁉ そんでストレス溜めて暴れるんじゃ相手を怖がらせるだけだろうが? だからもう諦めて私と一緒に成れよ! な?」

 どうやらこの女騎士風冒険者は人の話はあまり聞かないタイプの様だ。

 「あの、だから嫁なんすよ」
 俺がそう言うもやはり聞いていないのか話を続けて終わる様子がない。

 「ほら!こんな小さな子騙すような真似して心が痛むだろ? だから無難に私にしとけって!」

 何だろう。この世界の鎧好きはバラかユリしか居ないのか? と、とある変態マキシムを思い出した。

 いや、まぁ。この鎧女よりはマキシムのがマシかな? 一応話は聞いてたしな……。

 とか、考えているとアリサが大声を出した。
 「煩いわ! 私はコイツと結婚をしたんだ! 過去の話をするな! 私は遂に掴んだのだ! 人並みの幸せを! 分かったら黙れ! 鎧女!」

 そう怒鳴られた鎧女は一瞬固まると、俯いてワナワナと震えだした。

 怒るのか? と、戦々恐々としていると、顔を上げたと思ったら大きな瞳から大粒の涙を流しながら「信じないっ! 信じないからなぁぁぁっ‼」と、叫びながら走り去った。
 その後ろ姿を唖然として見送る俺と、アリサ。
 国枝は何故か鎧女の話を聞いて涙を流してウンウンと頷いているし、よく分からない反応をしている……。

 取り敢えず門をさっさと通りたいんだが……。


 「あの……お話は終わりまして?」

 振り向くとお姫さんが話しかけてきた。

 多分中々話しが終わらない事に憤りを感じているに違いない。
 そう思ったので、何か言われる前に門にいる兵士にチェックはもう良いのか聞いていると、横から姫様が
 
 「その酒樽に乗るには如何したらよろしいかしら?」と、聞いてきた。

 この人もどうやらマイペースな人らしい……。
 俺は頭を抱えそうになるのを我慢しつつ

 「いや、あの……取り敢えず落ち着きたいので門を通った後でお願いします……」としか言えなかった。

 
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