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しおりを挟む「……やっちまった……」
ハグをした日から数日が経ち、何故か甲斐甲斐しく俺の世話を焼き始めたアリサと、王都の手前の街の馬車置き場で、ウッカリ手を出してしまった俺は、如何してこんな事にと頭を悩ませていた。
元三十四歳と人間年齢三十歳くらいの三百歳が同じベッドで寝てれば何れはソウ成っていただろうとは、思うが……。
「何にしても早すぎるだろ……意識したのは数日前じゃねーか」
朝日も昇り、白々と外は明るくなってるし、外からも人の声も聴こえる。
かなり激しく致したのか、セミダブルベッドは乱れに乱れて、ちょっと直さないといけない状態になっているし、汗なのかよく分からないが、少し湿っぽい。
まぁ、アリサが起きたらきっとクリーンを掛けてくれるだろうからと、そのままにして俺は服を着ると馬車の外へ出た。
その場に居てアリサが目を覚ましたらと思うと、恥ずかしかったからだ。
別に態々外に出て顔を洗う必要もないのだが、取りあえず掻いた汗を流したかったし、体臭をアリサに嗅がれるのも気恥ずかしいので、外に出たのだが早速後悔し始めたいる。
何故なら、周りに停まっていた馬車は少しも減っていなかったからだ。
つまり……目撃者は多数ってことだ。
この街には珍しい事に井戸があり、魔力の無い商人や馬に飲ませる為に水を汲んでる姿がチラホラ見えた。
そして俺が井戸に近づいて行くと、あちらこちらから視線が刺さるのだ。
この世界は、何処で誰が何をしていようと特に文句を言ったりはしないし、すぐ横の路地で春を売っていたりもするので、馬車の中でそういう事をしてる人も少なくないのだが、見た目が幼い俺達はかなり目立つのか、それとも目立ってしまう程揺れたのか定かではないが、気になる人が多い様で、チラチラと見てはコソコソと話をしてる人等が目に映る。
だからといって、赤の他人なので詳しく聞こうとしたり、幼い身なりで何をしているんだと然りにくる他人もいない。
自意識過剰といえばそれまでだが、それでも視線は気になるものなのだ。
特に里(拠点)に嫁を残して来てる身としてはな。
なるべく早く体を流して濡れた体のまま服を被るように着ると、足早にその場から離れる。
舐める様な視線(男色)と嫉妬からくる視線(ロリ好き)が合さって少し気分が悪くなってきたからだ。
「おかえり……」
馬車の扉を開けるとアリサも既に起きていて、ソファーも直したのか綺麗に整えられていた。
顔は赤いままだが……。
本人も何故こうなったのかと、頭を抱えた事だろう。
幾らマークと上手く行かなくなって会えない辛さと合さって毎晩枕を濡らしていたとしても、尚且つ個室の中で若い男女が何日も一緒に過ごして、ついお互いの優しさに触れたからと勢い余って抱き締めあって、止まらなくなって致しちゃったからといって、全てが突然変われる筈が無いのだ。
そりゃ素面で会ったら照れるだろうよ。
まるで、新婚さんというか学校の廊下で昨日好きだと告白し、OKを貰った次の日の朝、言葉少なめにお互い意識して紅くなる……的な感じを今現在行ってる訳だが……。
ーー初か! 初なのか!
照れ笑いの後、なぜか抱き合ってキスとかしちゃったじゃねーかよ。
ーークソ、可愛いかったんだから仕方ないよな、うんうん。仕方ない。
成る様になっただけだ! 多分問題無い!
俺はそう思い込む事にして、取りあえず朝飯でも食べに行くか? と、聞いてみる。
「うん!」
と、これまた可愛く返事をしてくるもんだから、流れる様に肩なんか組んじゃって馬車の外へと出ていったんだが、そこであり得ない偶然で知り合いに会うなんて思わないじゃん?
「あれ? 海人? え、何で居るの⁉ てか、隣は……アリサさん⁉ 肩なんて組んじゃっていつの間にそうゆう関係にっ⁉」
暗幕の様に真っ黒いポンチョを被った様な服に、まるで魔法使いが持つゴツゴツとした杖を抱えた国枝がそこに居て、真っ先に関係がバレた。
☆
「ふーん。 それで王都に二人っきりで試運転兼ねて王都に行くの?……へーソウナンダー」
国枝と出会った俺達は、拉致られる様に連れてこられたカフェでお茶と朝食を奢らされている。
そして、ここに居る経緯等を説明させられている所だ。
「そっかぁ、二人旅だとそうなれるのかぁ……」と、意味深気に何度も何度も抉る様に呟くと
「じゃあ、貸しね?」
と、言ってきた。
俺は何も言えずに居ると、アリサが不思議そうに国枝を見詰め
「何で貸しなんだ?」
と、聞いてきた。本当に分からないようだ。
そもそも俺には三人の婚約者がいる身で、アリサにも一応マークという婚約者がいる。で、当然俺とアリサの関係は浮気者同士という事になり、其れを見付けた国枝は黙っててやるから貸しねっと言ったのだろう。
だがそれをどう説明すれば良いのかと、悩んでいると国枝が説明し始めた。
分かりやすい様に。
「ね? だから貸しって事に、なるでしょ?」と、言うと漸く理解したのかアリサは笑いだした。
「勘違いしてる所悪いが、これは浮気ではないぞ? マークとは出発する日に婚約は白紙と、言われているしな! だから浮気じゃないし、ユーリ達とも上手くやれる筈だ。 同じ夫を愛して行くのだからな!」
と、とんでもない発言を繰り出した。
それには俺も国枝も驚いた。
「「え⁉ 別れてたの⁉」」と、国枝と俺が同時に叫ぶ。
「ああ、言ってなかったがな……。とっくに終わってたんだよ、マークとは……」
別れ際に泣いていたのは未練が残っていたからだそうだ。
ニーチェが好きななってしまったから、白紙にしてほしいとマークから言われていたんだそうだ。
でも諦めきれなかったアリサは返事を保留にしたまま出て来たそうで、漸く踏ん切りが付いたそうだ。
「そうだったのか……気付いてやれなくてすまなかったな……」
俺がそう言うと、微笑みながら大丈夫と言って
「これから幸せにしてくれるんでしょ?」と、言うので頷き返し
「四人とも幸せにする! 絶対だ!」
と、言って抱きしめた。
それを見ていた国枝はため息を吐くと
「じゃあ俺も幸せにして!」
とか言い出した。
「国枝は駄目だろ? 王国の姫様と婚約してるし、お主から白紙を告げる事も流石にそれは許されないぞ?」と、アリサが真顔で諭し、国を敵に回すのか?と、続ける。
それを言われると項垂れて考え込み、俺の名を突然呼ぶと真剣な顔をしていう。
「いつか俺とも二人っきりで旅行に行こう!」
そう言うと、アリサが「だから既婚者同士は重罪だと……」と言い切る前に国枝が言葉を被せる。
「親友同士のただの旅行だよ! 何時でもいーんだ! 暇が出来た時とかで! な⁉ 良いだろ⁉ 海人ぉ!」
「え、ああ……まぁ、いんじゃない?」
と、あまりにも必死に頼まれるので了解の返事をしてしまった。
それを余り快く思わなかったのか、アリサは俺を睨むとすごく冷たい声で一言。
「浮気したら許さないからね?」
ーーいや、相手は男で国枝は幼馴染だから浮気も何もないと思うんだけど……。
とは言えた雰囲気じゃなかったので、素直に「はいっ」と返事をした。
その後国枝はクエストを受けているからもう行くと言って、カフェから一人出ていった。
満足そうな顔をしていたが、そんなに旅行に行きたかったのか? あいつ……。
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