47 / 77
47
しおりを挟む「ほれ、これがお望みの肉だ!」
そう言って1匹の蜥蜴を取り出した。
既に頭は切り取ったのか、付いていなかった。
「蜥蜴だったのか……」
そう言うと違うという。
「これは蜥蜴スライムといってな? 突然変異で生まれた亜種だ。 頭に核があって、頭を切り取ると半透明に成った核だけが残る」
そう言ってポケットから核を取り出して見せられた。
それをアイテムバッグから出した木箱に入れて、水を少し掛けると3日程で小型の蜥蜴に戻るので、更に其処から3日程餌を食べさせていくと、元の大きさになるらしい。
「餌は何でもいーんだよ。食べ残しでも残飯でも排泄物でもな」
そう言って、ピンク色の胴体部分を一口大に切りながら教えてくれて、注意事項も教えてくれた。
「ただ、排泄物を食わせて屋台で出してる所は品質も悪いから腹を壊す、妙に値段が安い店と最初から焼いて置いてる所は避けた方が無難だ」
排泄物を食わせて育ててる店は、品質も悪いし、肉がピンク色にならず茶色い、それを売り物にする前に焼いて誤魔化す店もあるのだとか。
品質に拘ってまともな餌を食わせて育ててる店は、肉は注文されるまで焼かれず置かれていて、肉もピンク色をしているので、分かりやすいと言われた。
「焼かないと腐らないか?」
と、疑問点を聞くと。
「スライムの亜種だしな、腐らないし首を落としても血すらでねーんだよ」
そういえば、蜥蜴のような皮膚なのに、皮も剥がずにぶつ切りにしてたなと、捌く手元を見て思う。
ぶつ切りにされたピンク色の肉は、既に半分が串に刺さって並べられていた。
一番美味い食い方が串焼きなんだそうだ。
そのまま焼くのかと思ったので電気竈を出そうとしたら、下味を付けたら一晩寝かせるらしい。
そうする事で、余分な水分が抜けて美味しくなるんだとか。
「だから朝の屋台で売りに出されるのさ」
そう言うと、トカゲの頭を入れた箱の上の天井からぶら下げた。
「水分を餌にするのか?」
そう聞くと、そうだという。
ーー理にかなっているのか、残酷なのかちょっと判断に困るな。
まぁ、活き造りとかあったし似たりよったりかな?
と、ついつい元の世界と比べてしまう。
多分未練でも有るのだろう。
中々忘れられないものだな。
そうして、今夜は一昨日食べた猪の残りを食べて、早々に眠る。
勿論、アリサが先に見張りに付く。
「それにしても流石A級だな、色々詳しいし」
俺もいつかそうなれるだろうか?
と、思っていると屋台の親父たちが教えてくれるから、誰でも知ってるらしい。
そんなんで商売になるのかと疑問に思って聞くと、どうやら裏があるらしい。
「あそこの街から一つ目の森にしか生息してないんだよ、この蜥蜴スライムは」
そう言うと、説明し始めた。
屋台で味をしめた商人は必ず取り方と取れる場所を聞いてくる。
かなり強引に。
強引に聞かれた屋台の親父達は快く教えてやるが、風体等の情報を裏で流す。
その情報を聞いた者は持って帰って盗賊に教えて、まんまとやって来た商人を盗賊が襲う。命までは取らずに金だけ奪って放り出し、その一部を屋台の親父達に支払う。
「つまり……」
「そう!グルなのさ」
うへーと俺は舌を出す。
「まぁ、持ちつ持たれつなんだよこの世界はな、だから盗賊を討伐する側も遠慮なく殺れるって事さ。だから、お前も気にするなよ?」
と、慰められた。
俺が何人か轢いて気に病んでる事は丸分かりだったようだ。
行政は動かないのか聞いたところ、何度も盗賊は討伐されるが、その都度違う盗賊が来るので意味がないのだとか。
寧ろ、屋台の親父達が盗賊の仲間だったりするので、イタチごッこなんだそうだ。
「役人が来るたび情報が裏に流れるからな、何度か肩透かしを食らったらしい。で、盗賊が居ないから解散すると、再び現れるのさ」
「アリサはどうやって聞いたんだ?」
と、疑問に思って聞いてみる。
すると笑いながら普通に脅して聞いて、襲ってきた盗賊を蹴散らしたそうだ。
「ははは、アリサらしいな」
「うるせぇよ! ほら話は終わりだ。 ちゃんと寝ろよ?」
そう言って外へと出ていった。
意外と優しい所もあるアリサに感謝して俺は聞こえない様にお礼の言葉を口にすると、目を瞑った。
俺の心の棘はいつの間にか取り払われて、轢き殺した事を気に病む事はもう無くなっていた。
☆
目が覚めると少し外が白んでいた。
「げっ⁉ 寝過ごした⁉」
俺は慌てて装備を整えると外に出てアリサに謝った。
「ごめん! 寝すぎた! 本当にごめんっ!」
そう言うと、アリサは俺の頭を撫でながら気にするな。と、一言。
俺が怒らないのか?と、唖然として見ると、少し目元が赤かった。
「疲れていたんだろ? 仕方ないさ」
そう言うと何故かハグをされた。
フワリとした感触が胸から伝わり、鼓動が早くなる。
それに気付かれないかヒヤヒヤしながらされるがままにハグを受け入れていると、小さく呟くように「私も助かっているんだ」と、言った。
何かしたかな? と、考えたが特に何も浮かばなかった。
暫くハグをして少し背の低いアリサを上から見ると、アリサも顔を上げた。
アリサの頬は少し赤く染められていて目が潤んでいた。
目があって顔が近づいていき……。
ドスッと鈍い音がしたかと思うと痛みが襲ってくる。
「ゔぐっ……」と唸って腹パンされた事に気が付いた。
「な、な、何してんだ私はっ!」
そう言ったかと思ったら顔を抑えて頭を振ると、もう寝る!と、叫ぶように言って扉を開けて馬車へと入っていった。
暫く痛みに耐えてから、立ち上がり。
「危なかった……」と、俺も何をしようとしていたのかと、頭を掻くと馬車の上へと上がった。
その後はずーっと悶々としてしまって、さっきのハグを思い出しては深呼吸して、中々鎮まらないブツを大人しくさせようと必死に説得していた。
「起きたらコリコリ! バレたらコリコリ! 見られたらコリコリ!」と、まるで呪文を唱える様に。
☆
少しだけ遅く出る事にしてまだ起きてこれないアリサを起こさない様に電気竈を取り出すと、鍋を出して湯を温める。
其処に砕いた猪の骨を入れて、刻んだ野菜をぶち込んで、一煮だちしたら塩と香辛料を入れて味を整えた。
骨柄を取り出して灰汁を取っていると、ようやく起きたのかアリサが顔をうつむかせてドアを開けた。
「あ、ぅ……ごめん。寝過ごした……」
今朝の事を思い出したのか、何となく照れくさいのか顔をそむけながら呟くので、
「おはよ! 疲れてたんだろう? 気にすんなよ!」と、努めて明るい声で挨拶してやる。
「お、おう! あ!肉焼こうぜ!」
そう言って吊していた串肉を取り、鍋の横の地面に刺して焼いて食った。
その肉の味は今まで食べた事が無い程美味かったし、その日を境に俺とアリサの距離も近づいていった気がする。
0
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる