異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 「ほれ、これがお望みの肉だ!」

 そう言って1匹の蜥蜴を取り出した。
 既に頭は切り取ったのか、付いていなかった。

 「蜥蜴だったのか……」
 そう言うと違うという。

 「これは蜥蜴スライムといってな? 突然変異で生まれた亜種だ。 頭に核があって、頭を切り取ると半透明に成った核だけが残る」

 そう言ってポケットから核を取り出して見せられた。
 それをアイテムバッグから出した木箱に入れて、水を少し掛けると3日程で小型の蜥蜴に戻るので、更に其処から3日程餌を食べさせていくと、元の大きさになるらしい。

 「餌は何でもいーんだよ。食べ残しでも残飯でも排泄物でもな」

 そう言って、ピンク色の胴体部分を一口大に切りながら教えてくれて、注意事項も教えてくれた。
 「ただ、排泄物を食わせて屋台で出してる所は品質も悪いから腹を壊す、妙に値段が安い店と最初から焼いて置いてる所は避けた方が無難だ」

 排泄物を食わせて育ててる店は、品質も悪いし、肉がピンク色にならず茶色い、それを売り物にする前に焼いて誤魔化す店もあるのだとか。

 品質に拘ってまともな餌を食わせて育ててる店は、肉は注文されるまで焼かれず置かれていて、肉もピンク色をしているので、分かりやすいと言われた。

 「焼かないと腐らないか?」

 と、疑問点を聞くと。

 「スライムの亜種だしな、腐らないし首を落としても血すらでねーんだよ」

 そういえば、蜥蜴のような皮膚なのに、皮も剥がずにぶつ切りにしてたなと、捌く手元を見て思う。

 ぶつ切りにされたピンク色の肉は、既に半分が串に刺さって並べられていた。

 一番美味い食い方が串焼きなんだそうだ。

 そのまま焼くのかと思ったので電気竈を出そうとしたら、下味を付けたら一晩寝かせるらしい。
 そうする事で、余分な水分が抜けて美味しくなるんだとか。

 「だから朝の屋台で売りに出されるのさ」
 そう言うと、トカゲの頭を入れた箱の上の天井からぶら下げた。

 「水分を餌にするのか?」
 そう聞くと、そうだという。

 ーー理にかなっているのか、残酷なのかちょっと判断に困るな。
 まぁ、活き造りとかあったし似たりよったりかな?

 と、ついつい元の世界と比べてしまう。
 多分未練でも有るのだろう。
 中々忘れられないものだな。

 そうして、今夜は一昨日食べた猪の残りを食べて、早々に眠る。
 勿論、アリサが先に見張りに付く。

 「それにしても流石A級だな、色々詳しいし」
 俺もいつかそうなれるだろうか?
 と、思っていると屋台の親父たちが教えてくれるから、誰でも知ってるらしい。

 そんなんで商売になるのかと疑問に思って聞くと、どうやら裏があるらしい。

 「あそこの街から一つ目の森にしか生息してないんだよ、この蜥蜴スライムは」

 そう言うと、説明し始めた。
 屋台で味をしめた商人は必ず取り方と取れる場所を聞いてくる。
 かなり強引に。
 強引に聞かれた屋台の親父達は快く教えてやるが、風体等の情報を裏で流す。
 その情報を聞いた者は持って帰って盗賊に教えて、まんまとやって来た商人を盗賊が襲う。命までは取らずに金だけ奪って放り出し、その一部を屋台の親父達に支払う。

 「つまり……」
 「そう!グルなのさ」

 うへーと俺は舌を出す。

 「まぁ、持ちつ持たれつなんだよこの世界はな、だから盗賊を討伐する側も遠慮なく殺れるって事さ。だから、お前も気にするなよ?」

 と、慰められた。

 俺が何人か轢いて気に病んでる事は丸分かりだったようだ。

 行政は動かないのか聞いたところ、何度も盗賊は討伐されるが、その都度違う盗賊が来るので意味がないのだとか。
 寧ろ、屋台の親父達が盗賊の仲間だったりするので、イタチごッこなんだそうだ。

 「役人が来るたび情報が裏に流れるからな、何度か肩透かしを食らったらしい。で、盗賊が居ないから解散すると、再び現れるのさ」

 「アリサはどうやって聞いたんだ?」
 と、疑問に思って聞いてみる。
 すると笑いながら普通に脅して聞いて、襲ってきた盗賊を蹴散らしたそうだ。

 「ははは、アリサらしいな」
 「うるせぇよ! ほら話は終わりだ。 ちゃんと寝ろよ?」

 そう言って外へと出ていった。

 意外と優しい所もあるアリサに感謝して俺は聞こえない様にお礼の言葉を口にすると、目を瞑った。

 俺の心の棘はいつの間にか取り払われて、轢き殺した事を気に病む事はもう無くなっていた。

 
 
 ☆


 目が覚めると少し外が白んでいた。
 「げっ⁉ 寝過ごした⁉」
 俺は慌てて装備を整えると外に出てアリサに謝った。

 「ごめん! 寝すぎた! 本当にごめんっ!」
 そう言うと、アリサは俺の頭を撫でながら気にするな。と、一言。

 俺が怒らないのか?と、唖然として見ると、少し目元が赤かった。
 「疲れていたんだろ? 仕方ないさ」
 そう言うと何故かハグをされた。

 フワリとした感触が胸から伝わり、鼓動が早くなる。
 それに気付かれないかヒヤヒヤしながらされるがままにハグを受け入れていると、小さく呟くように「私も助かっているんだ」と、言った。

 何かしたかな? と、考えたが特に何も浮かばなかった。

 暫くハグをして少し背の低いアリサを上から見ると、アリサも顔を上げた。
 アリサの頬は少し赤く染められていて目が潤んでいた。

 目があって顔が近づいていき……。

 ドスッと鈍い音がしたかと思うと痛みが襲ってくる。

 「ゔぐっ……」と唸って腹パンされた事に気が付いた。

 「な、な、何してんだ私はっ!」

 そう言ったかと思ったら顔を抑えて頭を振ると、もう寝る!と、叫ぶように言って扉を開けて馬車へと入っていった。

 暫く痛みに耐えてから、立ち上がり。
 「危なかった……」と、俺も何をしようとしていたのかと、頭を掻くと馬車の上へと上がった。

 その後はずーっと悶々としてしまって、さっきのハグを思い出しては深呼吸して、中々鎮まらないブツを大人しくさせようと必死に説得していた。

 「起きたらコリコリ! バレたらコリコリ! 見られたらコリコリ!」と、まるで呪文を唱える様に。

 ☆

 少しだけ遅く出る事にしてまだ起きてこれないアリサを起こさない様に電気竈を取り出すと、鍋を出して湯を温める。

 其処に砕いた猪の骨を入れて、刻んだ野菜をぶち込んで、一煮だちしたら塩と香辛料を入れて味を整えた。

 骨柄を取り出して灰汁を取っていると、ようやく起きたのかアリサが顔をうつむかせてドアを開けた。

 「あ、ぅ……ごめん。寝過ごした……」

 今朝の事を思い出したのか、何となく照れくさいのか顔をそむけながら呟くので、
 「おはよ! 疲れてたんだろう? 気にすんなよ!」と、努めて明るい声で挨拶してやる。

 「お、おう! あ!肉焼こうぜ!」

 そう言って吊していた串肉を取り、鍋の横の地面に刺して焼いて食った。


 その肉の味は今まで食べた事が無い程美味かったし、その日を境に俺とアリサの距離も近づいていった気がする。
 
 
 
 
 
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