異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 明け方目が覚める。
 少し冷えたのか肌寒い。
 窓の外を見ると、まだ暗かった。
 時計が無いので何時か分からないが、薄っすらと東の空が蒼いので、4時くらいだろうか。
 俺は簡易ベッドから立ち上がろうとすると、腕が動かない事に気が付いた。
 ふと見ると、アリサが腕に絡み付き、泣いていたのか目元に涙の跡と、濡れた袖に気が付いた。
 そっと腕を掴む手を退けようとしたが、ガッチリ掴んでいるので取れなかった。

 ーー如何しよう。

 少し考えて、そのまま横になると天井を眺める。
 多分色々あったから寂しくなったのだろう。言葉遣いは悪いし、年齢も三百歳を超えているが一応女の子だ。
 俺は起こさないように腕に意識を集中して、目を瞑る。
 腕には微かな膨らみを感じる。
 全神経を集中させながら、その感触を楽しむと共に、気付かれない様に全力で寝てる振りをした。

 その後俺はいつの間にか二度寝をしてしまった様で、再びを目を覚した時には彼女は居なかった。

 ーーうっかり寝てしまったのか……。

 少し残念に思いながら腕を擦る。
 彼女の体温は既に感じられなかったし、濡れていた袖は、何事も無かったかの様に乾いていた。


 ☆

 「おい、起きてるか?」

 ベッドを畳んでソファーに戻し、水をアイテムバッグから出して顔を洗っていると入り口から声がした。

 「朝飯買ってきた、両手が塞がってるから開けてくれ」

 アイテムバッグがあるだろうに態々運んできたようだ。

 まぁいいやと扉を開けると、見るからに美味しそうな串焼きと焼き立てのパンを一抱え持って入ってきた。

 すぐ側の屋台だったから手で持ってきたといって、机に並べる。

 明け方泣いていたのに今は全くその気配を感じさせない。
 それを指摘する訳にもいかないので、お礼を言って串焼きを頬張る。

 なんの肉か分からないが、噛めば噛むほど肉汁が滴り、信じられない程美味かった。
 まるで水を呑むかの様に胃の中に消えていき、いつの間にか食べきってしまった事に気がつくと、惜しむ様に串だけを眺めた。

 それを見たアリサは、子供に笑いかける親の様な目をして自分の串焼きを手渡した。

 「いっぱい食えよ」

 そう言って目を細めた。

 焼き立てのパンもフワフワなのにモチモチで、千切る時は潰れるのに、食べようと口を開けるときは膨らんで、中々食べごたえのある美味しいパンだった。

 「随分早くから屋台がやってるんだな」

 食べ終わって腹を満たした俺は、お茶を淹れて一つをアリサに渡す。

 「此処は宿場町だからな、旅の途中で寄る奴等しか居ない、そして誰もが朝日が昇る前に出て行くからな、稼ぎ時なのさ」

 この辺の屋台は夜から朝に掛けて店を開くそうで、一番活気がある時間帯なのだそうだ。

 そう言われて窓から外を眺めると、びっちりと隙間なく停められていた馬車置き場には、既に疎らな数しか馬車は見えなかった。

 ここに滞在して暫く過ごす人も居ないようだ。
 あまり名物という物は無いらしい、強いて言うなら朝飯が美味い事くらいなのだそうだ。

 「この串焼きだけでも暫く食う為に滞在しても良いと思うのになぁ」
 と、俺は何も無くなった串を二本持ちながら呟く。

 「ははは、そんなに気に入ったのか? それなら次の野営場所で捕まえてやるよ」
 と、言って通り過ぎないで寄れという。

 なので期待を胸に宿場町から出立した樽型小型電動馬車は、再び皆の視線を釘付けにしながら門をくぐる。
 後ろの方で偉そうなオッサンの呼び止める声がしていたが、ガン無視して離れていった。

 馬車置き場に停まって屋台を冷やかして戻ると、人だかりは出来てるし中を覗こうとしてる人は居るしで、かなり鬱陶しく感じていた。
 そこに持ち主である見た目が子供の二人がズカズカとやってきて扉を開けて馬車の中に入ろうとしていたら、当然の様に声を掛けられた。
 質問されるままに全て答えていたら、段々言葉を荒げて詰め寄ってきて、
 「これは何か?」
 「お前らの物か?」
 「魔導具だと⁉ 俺に売れ!」
 「お前男娼か⁉ 幾らだ⁉」
 と、金貨数枚を握り渡そうとする奴に囲まれた。

 それにいちいち付き合う程アリサは大人しく無いので、全員無言でフルボッコにされて地面とキスをする羽目に……そして俺まで説教を受けた「いちいち愛想を振りまく必要なんて無いんだよバカタレ!」と、怒られ、門を通るたびにやってた首コテン攻撃も禁止された。

 そんな経緯があったので、再びボコボコにさせない為に全無視する事にしたのだ。

 「なんかアリサの名前呼ばれてなかったか?」

 暫く叫んで呼び止めようとした男は、アリサの名前を叫んでいた気がするんだが……。

 アリサは知らんと言いながらお茶を啜るだけだった。

 「まぁ、私は意外と有名人だからなぁ」と、無い胸を反らして得意顔だ。

 ーーあ、訂正。 少しだけ膨らんでた胸を反らして得意顔だ。
 まぁ、反らしたら無くなったんだけどね。

 俺が胸の辺りを見ていた事に気付いたのか、手元から『メキ……』っという不穏な音がしたので、素早く前を見ると左右を確認して、アクセルを踏み込んだ。

 その勢いが強すぎたのか、アリサはソファーの背もたれに押し付けられ喚く。

 「もっとゆっくり加速しろよ! それから忘れるなよ⁉ 次の野営場所で止まるんだからな⁉」

 そう言って窓から後ろへと流れる景色を見ながら言う。

 つまり、速く走り過ぎて追い越すなって事だろう。

 寝てる時は少し可愛げもあったのになぁっと、思いながら指定された野営場所の角を曲がると、「もう着いたのか⁉」と、驚いている。

 意外と近かった事に俺も驚いて「ここで良かったのか?」と、聞いてしまった。

 扉を開けて外を眺めたアリサは「ここで合ってるよ」と言って頷くと、鍵を閉めて少し待ってろと言い残して森の中へと入っていった。

 俺は扉の鍵を急いで閉めて、馬車の周りに集り始めた群衆を無視するのに忙しかった。

 グラグラと揺すられながら耐えていると、馬車の外から悲鳴と殴打される音が暫く続き、静かになった頃アリサが扉をノックして「戻ったぜ! 開けてくれ」という、声がしたので扉を開ける。

 「よし、出してくれ! 次の寝る場所まで行ったら捌こう!」とだけ告げると、埃と返り血をクリーンで綺麗にしながらソファーに座った。

 誰かを踏んだ様な感触がしたが、無視してそのまま進み、街道に出るとアクセルを踏み込んだ。

 野営場所からは数本の弓矢が放たれ馬車へと降り注ぐが、当たる事も無く走り去る。

 野営場所に居たのは盗賊だった。
 二十人くらい居たが、全て薙ぎ払って逃げて、今夜止まる予定の野営場所まで休む事なく走り続けた。
 馬車を降りて傷がないか調べた。
 酒樽型は意外と頑丈に出来てる様で、剣や何かで叩いた跡のような凹みもあったが、貫かれたりはしていない。

 だが出て行く時に轢いたのか、フロントガラスの下の空気口のカバーがひしゃげて、開かなくなっていた。
 車輪にも返り血の様な跡が残っている。

 ーーまさか人を轢き殺す用のガードが必要とは盲点だった。

 俺は改善ノートを出すと、其処にフロントガード必須とだけ書いて、ノートをしまう。

 返り血や細かい肉片等はクリーンで綺麗になったが、あまり気持ちの良いもんではなかった。が、仕方ない。

 改めて異世界に来てるんだと思い知った一件になった。

 

 
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