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しおりを挟む城塞都市へと続く道へは入らずに、そのまま王都へと続く道を曲がる。
その先に野営場所があるのだが、予定よりも早く着いたのか、まだまだ日が高かったので、そのまま通り越して行った。
その次の次も通り越して、通常の馬車なら1週間は過ぎる野営場所まで辿り着くことができた。
「えらく早いな……」
キョロキョロと周りの景色を見渡して、自分達が今どの辺に居るのか把握したアリサが驚く。
少し暗くなってはいたが、前の野営場所には一組の馬車と護衛の兵やら人が沢山居たので、何か言われるのも嫌だった俺は、新しく備え付けたライトを試す為に、前方を照らしながら少し速度を緩めて次の野営場所まで来たのだ。
暗くなっている方が獲物も捕りやすいのか、周りを確認した後アリサは素早く動いて今夜の晩飯を狩り獲ってきた。
俺は新しく作った簡易竈の魔導具を出すと中のプラグに繋ぎ、スイッチを入れて鍋を暖める。
拠点で作った魔導具を試験兼ねて使い心地を試す為だ。
勿論動力は電力だ。
魔力の無い人が購入しても良い仕様になっている。
これも売りの一つだ。
他にも魔導具はあるので、その都度出していこうと思う。
因みに今回作った小型馬車には前には無かった装置が幾つか付いてる。
先ず、小型風力発電機だ。
走りながら風を受けてカラカラと廻り、充電する。
形的にはナルトか切る前のだし巻き卵に似ていると思う。
フロントガラスの下にはカバーが付いていて、レバーを下に引く事でカバーが開き、風が入って廻す仕組みだ。その風は風力発電機を回しながら、魔石バッテリーも冷やすので、運転中熱くなりガチだったバッテリーもこれで冷える事になった。
魔石粉を大量に詰め込んでいた為に起こる横揺れで、バッテリーが安定しないからと魔力水を少なめにしていた大型馬車とは違い、今回小型になった事で横に揺れても特に不安定になる事も無かったので、魔力水を多めに使ったのも、バッテリーには良かったようだ。
それと、車体が重いからと浮力の魔法陣を大型馬車には描かれていたが、それも無くなった。あれを描いたお陰で資金が増えていたからな。
今回は外した事でコストダウンにも繋がった。
そして、今回新採用したのはサスペンションだ。
バネでは無く、トラック等に付いてる板状の鉄板を重ねる奴ね。
そのお陰でどんなに速く走っても安心の安定感を実現した。
これは元々高級馬車には取り付けてある仕組みだ。
帝国の方ではかなりの数の馬車が採用しているらしい。
王国の方では王族の馬車が使用してるくらいなんだそうだ。
それが作れたのは、ズドン達のお陰だろう。
それがキッカケとなって付き合う様になったらしいからな。
まぁ酒樽型なので、前方と後方が垂直の為、風圧はかなり掛かるし、要改善にはなるが概ね成功だと思っている。
「しかし竈小さくないか? 要改善だなこれは……」
と、アリサは獲ってきた猪を丸ごと焼きながら文句を言い、改善ノートに記そうとしていた。
「そりゃな……そんな大きな物を丸ごと焼くやつ用に作ってねーからだ。 普通は細かく切るだろうがっ⁉」
と、言って改善ノートを取り上げた。
ムッとしたのか取り上げたノートを取り返して言う。
「ドワーフはこれが普通だ! 全種族が使えるものを作るべきだろう?」
そしてカキカキと改善点を書き始めた。
ーーまぁ、そのノートをチェックするのは同じドワーフだから納得はするのか?
そう思いながら焼けた肉を掴みとると、俺は噛みきりながら食べるのだった。
☆
野営の見張りは先にアリサがやる事になる。
アリサは運転が出来なかった。
俺が後半から見張りにつく事で、そのまま朝から運転する。
まぁ結構キツイが仕方ない。
運転中の警戒は、アリサが担うので楽な方というのは無いのだ。
これが三人なら二人で運転するか、運転できる奴が一人でも見張りは免除出来たりするので、改善ノートには記しておく。
☆
特に何もないまま朝が来て、朝食を済ませた後、再び街道をひた走る。
流石に舗装されていないので、速度はそんなに出ていないが、未だに慣れないのかアリサが煩い。
カーブの度に後輪が滑っているのが分かるのだろう。まるで、ジェットコースターに乗ってる女性達の如くキャーキャーと喚く。
普段は女っぽくない言葉使いなのに、叫び声は女の子らしかった。
ーー少し萌える。
だが、内緒だ。
もし言ったら……玉コリコリされそうだしな。
そんな俺の視線に気がついたのか、居心地悪そうに視線を反らした。
何だろう……。
少し頬が赤い気がする。
「な、何見てるんだ! 前を向いて走れよ!」
「あー、はいはい」
「ハイは一回だ!」
「はーい」
そんなやり取りを毎回しながら何カ所かある野営場所を通り過ぎ、初めての宿場町に辿り着いた。
「ほぇー……もう此処に着いたのか……信じられん速さだ」
宿場町に入る前で止められた俺達の酒樽型小型電動馬車は、街を守る自警団みたいな人々に囲まれてる所だ。
アリサは腰が痛かったのか、扉を開けて外に出ている。
俺は座席に付いてる窓から顔を出し、冒険者カードを出して、検問の真っ最中。
そして毎回説明するのは
「いえ、一応これは魔導具です。 酒樽ですけど馬車なんです! 信じてください! ね?」
必殺首コテン攻撃だ。
たいていこれで何とかなる。
あの国枝にも何度となくこれを喰らわせ、無理矢理魔力を使わせてきたんだ。
それなりに破壊力はあるはずだ。
そんな俺をアリサは呆れ顔で見たあと、自分の冒険者カードを見せて通り抜けるんだが。
もしかして俺の演技は無駄なんだろうか……。
いや、そんなことは無いはずだ!
現に数人の男達は鼻を伸ばしているし!
何人かから住所の書かれた紙切れも貰えたし?
「お前絶対馬鹿だろ……」
そんな俺を見ながらアリサは呆れていうと、再び馬車の中に戻って先を急がせる。
宿場町はそれなりに通行人も多いため電力も抑えて走るのだが、アクセルの踏み方次第では轢いてしまう。
なので、新しく付けた装置がこれ!
人力アシストペダルゥゥ。
(青いタヌキ風に言う)
アクセルを踏んでいない馬車は、前にゆっくりと進むのだが、ほぼ止まっている状態なので、ペダルを踏んでそれをアシストするのだ。
だが人力なのでかなりキツイ。
漕いでる間に汗だくになる。
そこでアリサの出番到来!
汗が落ちる前にクリーンを掛けてもらうのだ。
これで気持ち良くペダルを踏む事が出来るって寸法さ。
酒樽型小型電動馬車は周囲の視線を釘付けにしながら進み、色んな方々の停まっている馬車置き場まで移動した。
宿場町とはいえ宿屋には泊まらない俺達は、適当に屋台を冷やかしてから再び馬車に戻る。
簡易的なベッドは運転中はソファーの様に畳んで置いてある。
座先部分を手前に引くと、ベッドになるのだ。
特許でもあれば申告してる事だろう。
この世界には特許制度は無いので、誰かに言わなきゃ広まらないのだ。
まぁ見られたところで真似出来るとは思っていないが。
「……寝ないのか?」
俺が特許制度について考えていると、アリサからそんな声をかけられた。
酒樽型小型電動馬車には、寝る場所は一つしかない。
広さ的にはセミダブルベッドで二人で寝ても問題なく寝れるはずだ。
しかし、隣に寝るのがアリサである。
そして既にアリサはベッドで横になり、空いてる場所を叩くのだ。
まるで誘われてる感じがして、熱くなる。何処がとは言わないが……。
そんな俺の考えが伝わってのか、少し顔を赤くしたアリサは、掌に胡桃の様な物をコロコロと回し始めた。
俺が何してんだ?と見ていると、それを片手でバキッと潰して言う。
「手を出したら……分かってんな?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
俺は青ざめながらアリサの隣で横になると、玉を抑えながら目を瞑った。
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