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しおりを挟む「~~以上を踏まえて、別に四人で行動しなくても良いと思うのです。それに、大型にしなければ、例え盗賊と戦い続けても電力が足らずに止まる事も無くなるはずです。ですから、電動馬車は二人乗りか三人乗りにして、もっと小さくすれば問題は大分抑えられるかと思います」
城塞都市から戻ってすぐに、試運転の結果の報告と問題点の洗い出し、改善点等を話し合った。
カーナが言うのは最もな事だった。
確かに拠点に居る場合以外は、大型馬車で移動することは無いのだ。
目立つし、燃費も悪く小回りも効かない。あと目立つし。
「一応三人は乗れる様にして、通常は二人用にすれば、良いかと思いますし、ベッドも一つにすれば交代で寝れば良いので、居住区は要らないかと」
カーニャも同じ考えのようだ。
四人で乗る大型馬車は拠点での住処にして、もし何処かへ移動する時は乗り換えるという案に決まった。
もし、動かなくなったとしても、外部の力で直ぐに充電できた方が何かと便利だろうとの事。
ただし、その場合は新しく小型馬車を製造する事になる為、資金を先に稼ぎに行こうという話になった。
昆虫の素材はまだまだ山程あるし、魔石粉もアリサのストレスが、増せば増すほど勝手に増えるので、今では置き場所に困る程ある。
アリサのストレスの原因は、イーチェとサンチェスにあった。
イーチェとズドン
サンチェスとガドンが付き合い始めたのだ。
城塞都市からギルドマスターと製粉屋の親父が見学に来た時から怪しいとは思っていたんだよ。
俺ですら気付くのだから、他の人にも気付かれている事だろう。
作業中や食事中、休憩中から部屋で寝るベッドと、そこら中でイチャコライチャコラするもんだから、見せ付けられる方としてはイライラする様で、その度に魔石粉パウダーが増えていったのだ。
そんなアリサが少し怖いのか、マークが怯えだしてしまい、最近余り一緒に居ない。
そればかりか、ニーチェと仲睦まじく居る事もあり、アリサの機嫌は悪くなる一方だった。
なので、冒険者ギルドへと向かい、暫くクエストを受けてストレス発散兼ねて金も稼ごうという事になった。
しかし、アリサはA級なのであまり仕事は無い。
そこで、俺がクエストを受けてアリサをパーティメンバーにして、補佐を務めて貰う事になった。
お目付け役とも言うが。
その為に一台だけは先に作ろうという事になった。
使用する馬車は結構簡単に組み上がった。
装甲を酒樽にした為だ。
内装は、ハンドルとアクセルにブレーキを取り付け、ベッドが一つだけと武器は備え付けていない。
出入り口も後ろからにして、扉を付けた。車輪は四つあるが、前輪駆動なので後輪はくっついてるだけだ。
馬車が小型で軽いため、モーターに使う銅線も少なくて済み、室内灯と魔石バッテリーとを繋ぐ箇所には、魔石粉を混ぜたスライム液で線を描けば、樽の中はじゅうぶん明るくなった。
大型馬車の時の様に電圧が足りないからと、銅線を使わなければならない事もなく、簡易的な線で済んだ為だ。
小型馬車は「これなら量産も出来そうですね!」と、中々好評だった。
小型なら魔力だけでも走れるだろうから、王国の貴族に売り込もうという話も出た。ただ、大量に作るとなるとやはり資金が足りない。
自転車操業も良いかもしれないが、切迫しながら毎回作るのも嫌だという意見が多かった為、余裕を持ちながら作業する事になった。
時間と金の余裕が出来たら改めて王国に献上しに行こう。
と、言う事で武装した俺とアリサが小型に乗り込み拠点を出発した。
ユーリとカーナとカーニャは実家に帰り、父親のご機嫌取りとトイレットペーパーの製造方法の勉強に向かう事になった。
人が拠点に増えた事で、扱うトイレットペーパーが増えた為、買うより作る方が今後の為になると思ってのことらしい。
そして、数カ月俺が拠点から居なくなるので、寂しいらしい。食費を抑えられると言うのもあって、皆も納得している。
「それじゃあ行ってくるよ」
ユーリとカーニャにカーナと全員とハグをすると、俺は小型に乗り込んだ。
座席には既にアリサが座っている。
アリサはマークに手だけ振って、ハグはしないようだ。
「いーのか?」と俺が聞いても頷くだけ。
寂しいだろうにと思って時間を作ってやっても、ギクシャクしている状態ではろくに話もしないで居たようだ。
「まぁ、会おうと思えば何時でも会えるしな」
そう言うと軽く頷いた。
窓から外を見ると、マークとニーチェが親しそうに話をしているのが見える。
それを涙ぐみながら見たあと視線をそらすアリサ。
俺も見なかったことにして、アクセルを踏んだ。
目指すのは王都。
城塞都市ではなく、王都だ。
城塞都市では、砂鉄拾い以外のクエストは護衛などが多い為、実入りの多いクエストが無いのだ。
なので、実入りの良いクエストを受ける為に王都へと向かう。
アクセルを踏むと直ぐにモーターへと電力が送られる。
大型の様に一瞬ノックする事もなく、スムーズな出だしだった。
そして、流石小型である。
兎に角速度が速いのだ。
車輪の食いも良いのか、ガンガン踏めば踏むだけ速度が上がっていった。
「す、少し早すぎるのではないか⁉」
乗り慣れないアリサを鳴らす為に少し練習兼ねて乗せた時よりかなり速かったらしく、窓の外の景色を見ていたアリサは、冷や汗を掻きながらいう。
「ああ、ごめんごめん」とか言いながら俺もアクセルを戻す。
だがこの速さなら王都もかなり早く辿り着ける筈だ。
通常の馬車が十五キロくらいの速さ。
アニキの引く馬車は二十から三十は出てる。
そして、大型馬車は盗賊から逃げた時の速さは体感で五十から六十程度は出ていた。
そして、この小型。
さっきアリサが怖くなった速さは多分八十は出ているだろう。
アニキが単独で走る速さと同等かそれ以上に感じたからな。
こんなにアクセルを踏んでも、バッテリーが無くなる気もしなかった。
小型馬車は既にエルフの森を抜けている。
チラホラと盗賊も居るようだが、前の時みたいに襲っては来なかった。
エンカウントするかの如く盗賊が追い掛けてきた原因は、金色のコイン型車輪入れだったらしいからな。
ザケヘルに指摘されるまで全く気が付かなかった。
変えの車輪はアリサの魔法で直るみたいなので、今回は持っていかない。
食料も二人分だが、肉類は野営場所で狩るつもりだし、果物や野菜もたっぷり俺のアイテムバッグに入っている。
日が暮れる前には、城塞都市を超えた場所にある野営場所に着くだろう。
これから向かう王都はどんな街だろうと想像すると、楽しくなって自然とアクセルを踏み込む力が強くなる。
その度に
「お、おいっ⁉ さっきから早くないか⁉」と、焦った声のアリサの声をBGMにしながら、砂煙を巻き上げ小型電動馬車は街道を走り抜けて行った。
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