異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 「お帰りなさいませ旦那様、ザケヘル様が先程からお待ちです」
 そう言って主の鞄を受け取る侍女に適当に頷き椅子に座る。

 ハラグ・ド・クロイド子爵はイライラとしていた。
 金を積んで魔法学園に息子を無理矢理ねじ込んだのに、件の迷い人はとっとと、学生を辞めて講師となってしまった。
 それだけならその講師の愛弟子にでも成れればチャンスも増えていた筈なのだが、息子は馬鹿だった。
 講師となった男は魔道士の名を賜り、爵位まで承ってしまい、権力で此方の良い様に扱う事も叶わなくなった。
 その男の名は、国枝慎吾というらしい。
 そしてこの男は、各学年のトップ5しか受け持つ学科に参加させなかったのだ。

 当然息子は馬鹿だったので、ワースト3だったら間違いなく入れていた。

 そして、夏休みになった。
 それを好機と読んだクロイド子爵は、息子を講師寮へと向かわせ、何とか知り合いになって来いと送り出す。
 しかし、今度は王族に邪魔された。
 王の娘に見染められた魔道士国枝は、あっさり娘の手に落ち、夏休みを利用して王城で暮らすようになったのだ。
 これで息子との接点も失くなった。

 「旦那様……ザケヘル様が……」
 「分かっている!待たせておけば良い!」

 クロイド子爵は苛立ち気味にそう言うと、誰も通すなと言って部屋から追い出した。

 「全く使えない従者を持つと本当に疲れる」

 戸棚からウィスキーを出すとグラスに注ぎ、一口で飲み干す。

 乱暴に置いたグラスにヒビが入る。

 ため息を吐きつつ椅子に座ると窓から外を眺めた。

 ーー何かうまい手は無いものか。

 ハラグ・ド・クロイド子爵は野心家だった。
 膨大な魔力を持つ国枝という名の魔道士を自分の指揮下に置けば、それだけでも自分の権力は高まった筈だった。
 そうすれば、国への発言力も増して、帝国を巻き込んだ戦争をお越し、国枝の魔力を餌にして私腹も肥える計画を立てたのだ。
 その為の駒として、ザケヘルとも懇意にしている。
 ザケヘルは信用のおけない相手ではあったが、金が絡めば一番信頼の置ける奴だった。金さえ払えば確実に事を成してくる。
 現に、戦争に大反対していた帝国の貴族を言葉巧みにギャンブルへと誘い、帝国内での信用と資産を削る事に成功した。その功績もある為に、一応信用はしていた。

 件の貴族は今でこそ男爵にまで堕ちたが、帝国内での発言力は高かった。
 そしてその貴族は戦争に反対していた一派の頭を担っていた。

 故に邪魔だったのだ。

 目の上のたんこぶが一つ失くなった事は良かったが、最大の肝が大失敗だった。

 まさか自分の息子があそこ迄馬鹿だとは思っていなかった。
 窓枠をガンッと蹴り込むと、舌打ちをする。

 その後ろから声が聴こえた。

 「おうおう、荒れてんなぁ?」

 その声に怒り振り向き様に怒鳴り散らす。

 「誰も通すなと言ったはずだ!」

 だが、そこに居たのは従者ではなく、ザケヘルだった。

 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて机の上に座っている。
 机に置いてあるウィスキーを手に取ると、「相変わらず良い酒呑んでるな」と、呟く。
 「待っていろと言われなかったのか?」

 その手からウィスキーを取り上げると、割れたグラスを一瞥した後、そのままラッパ飲みをした。

 「さぁ? 聞いてねぇなぁ」
 と、ニヤニヤと笑いながら誤魔化す。

 ーーっち。相変わらずだなコイツは……。

 「で? お前が態々ここに来るってのは何かあんだろ? 魔力無しの迷い人の事か? 興味ないからお前に任すと言わなかったか?」

 そう言って机に足を乗せて、腕を組むとザケヘルを睨んだ。

 王都へと行った領主には迷い人が此方にも出たから、一度会えと手紙に書いた。
 だが、返ってきた手紙には魔力無し等何の役にも立たないからお前に任せる。とだけ書かれていたのだ。

 なので、謁見の話は有耶無耶にしていた。海人からも聞かれなかったし。

 「実はな、良い話があるんだよ」
 そう言ってザケヘルは、今まであった話を子爵に話して聞かせる。




 「ほう……すると何か?その話を信じるなら魔力以外の力で武器も作れるって事か?」
 「既にあるぜ?」
 電力を使って鉛球を撃ち出す装備がその馬車には付いていて、実践でも使ったと先日、本人から聞いてると打ち明ける。

 「ふーん? なら一度あってみるか……」

 そう言うと子爵はベルを鳴らして従者を呼び出し、手紙を書く道具を用意させる。

 サラサラと暫し音がした後、封筒に入れ封蝋を施した手紙をザケヘルへと渡す。

 「では頼む」
 と、言いながら金貨を数枚渡した。
 情報料とでも言うのだろう。
 だが、ザケヘルはそれは受け取らず、会う時は自分も同じ席に座らせろという。

 「……好きにしろ」

 そう言質を取ると、ニヤリと笑ってザケヘルは退室した。

 子爵はその様子を舌打ちしながらも見送る。

 ーー抜け目のない野郎だ……。

 そう思ってウィスキーの瓶を持ち上げると、飲もうとして辞める。

 「まだ何かようなのか?」

 子爵が顔を上げると、其処には手紙を持ったまま立ち竦む従者がいる。
 「坊っちゃまからのお手紙です」

 そう言うと一通の手紙を渡した。
 その手紙を受け取ると、そのまま封蝋を外して読み出す。

 其処には……。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 親愛なる父上様お元気ですか?
 此方は木々の翠もより一層濃くなり、日に日に気温も熱くなっております。

 所で御命令通り、毎日魔道士様の寮へと足を運んでいました折、何とそこで可の英雄マキシム・ゴッドイーター様にお会いしました。
 そして何とこの方は、魔道士様の大親友だとおっしゃられ、そして私を魔道士様が先導して創った冒険者倶楽部へとお誘い下さいました!
 勿論魔道士様に私の事を紹介して頂けるという言質も取りましたので、ご安心ください!

 そしてな、なんと!私は剣の才能が多少あり、毎日朝から晩まで手取り足取り腰取り教えて下さると仰られました!

 そして私を強く抱きしめて包容してくれました!
 頬が少しマキシム様の唇に触れたのか濡れて居ましたが、それ程私に出会えた事が嬉しかった様です!
 腰を抱いて中々放してくれませんでしたし、何故か腰を動かしておいででしたが、うっかり喜びを表したと仰っていました!

 私は確かに頭の出来は良くありませんでしたが、コレからはマキシム様の元で頑張ろうと思っております!

 ついては、お父上様。
 マキシム様に更なるご懇意を承る為にも資金が足りませぬ。

 金貨を融通して頂きたく、筆を執りました。
 勿論、金額が金額ですので一度此方へいらっしゃって下さい。
 その時は、マキシム様を御紹介出来るかと存じます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 その手紙を読んだ瞬間立ち上がり、従者を呼び付けると馬車の用意をさせる。

 「息子よ!よくやった!」

 そう叫ぶと、執務室から飛び出して旅行の準備をするのだった。

          

 
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