異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 私は小麦粉を製粉する仕事を代々続けている農家。
 名前はファン・デン・プエルク
 皆には親しみを込めてプエルと呼ばれている。
 御先祖様はファン・デン・ベルクという。赤い髪質に大きな鼻が特徴的だったと歴史の書には書かれている。
 私の御先祖様は風車という風で廻る機械という、魔導具とは理の違う力で動く物を作って、国に貢献したからと数百年前の王族から騎士爵を受け賜ったらしい。
 御先祖様以外からは爵位を賜ることは無かったのだが、今でも誇りにして生きている。

 ご先祖様の残した機械はその後も残り続けていたが、昨今の暴風雨の日に8割が壊れた。
 直し方や製造方法等のやり方は伝わっておらず、残された書物も誰も解読出来なかった。
 そして、最後に残った一対も数ヶ月前に新たに現れた迷い人が書物と共に直すと言ったっきり、なんの音沙汰も無い。

 多分失敗したんだ。いや、でもしかし!
 と、そんな不安な日々を送っていた。

 そんなある日、巷で知る人ぞ知る的な悪徳商人のザケヘルがうちの店を訪れて、妙な事を尋ねてきた。

 「風車はあるか? あるなら1式売ってくれ 金貨五百枚でいいんだよな?」っと。

 明らかに迷い人の関係者だろう。

 なので私は断った。
 そもそもあれは売ったのではなく、修理に出したのだ。
 勿論保険の為に金貨は受け取ったが、あくまでも保険であって、風車の値段ではない。大体、風車に使われてる銅だけでも金貨五百枚では赤字だろう。

 その事をザケヘルに説明すると、
 「あの野郎……」と呟き私に教えてくれた。それはなんとも憤慨する話だった。

 「風車は直っていて、理を知り得た職人が電力を利用して金儲けをしていると⁉」

 「そうだ! それは魔導具も手軽に充電出来るスグレモノだった! それをアイツは情報の開示を拒み、独り占めしているんだ! こんな事許される筈がねーだろう? 風車はこの国の財産なんだからな!」

 何という事だ……。
 私はいても立っても居られずに、ザケヘルに頼んで迷い人の滞在してる馬車へと連れて行ってもらう。

 しかし、既に彼等は居なかった。
 足跡を追って魔導具ギルドへと向かう。
 と、そこに職員が歩いていたので行方を知らないか尋ねた所、ギルドマスターを乗せて何処かへ走って行ったと聞いた。
 私は「酒場で待ってようぜ」というザケヘルを追い立てて、馬車を移動させると門の先の街道に昆虫みたいな物体を発見した。そこに魔導具ギルドのギルマスも居たので、「あれだ!」と、思いザケヘルを急がせる。

 だが、少し遅かったのかギルマスに手を振って挨拶をしているではないか!

 「こら!サッサと向かわぬか!この蜥蜴め!急がせろザケヘル!」

 焦るあまりつい怒鳴ってしまった。
 地竜は其処で足が止まり、ザケヘルが幾ら声を掛けようと1歩も前には進まなくなってしまった。

 仕方なく私は馬車を飛び降りて昆虫みたいな馬車を追いかけた。

 あとちょっとでって、所で逃げられてしまった。

 さっきまで目の前にあった馬車は、遥か遠くに砂煙を巻き上げて消えてしまった。

 ーーなんて速いんだ……。

 膝を付く私に手を貸してくれたのはギルマスだった。 コイツは仕事柄色々と手を尽してくれた風車仲間だ。親友といっても過言では無い奴で、よく壊れた風車を眺めながら語ったもんだ。
 いつか俺達の手で直して、風車で作った電力とやらを肴に呑もうと!

 「プエルか? 何してんだ?」
 「風車を渡したのはアイツなんだよ!」

 「ああ、聞いたぜ? あの馬車も電力で動いてるらしいな? まぁ魔力でも充電出来るから一応魔導具として認めたがな!」

 と、ガハハハと呑気に笑うので私は怒る。

 「何呑気に笑ってんだ⁉ なんで捕まえなかったんだ⁉」
 それを聞いて驚くギルマス。
 「なんで捕まえないといけなかったんだ⁉ 盗んだ訳でも無いだろう⁉」

 それを聞いて我にかえるプエル。

 ーーあれ? そう言えば別に悪い事はして……ないのか?

 「お前が依頼して、直せるかも分からない物に金貨五百枚も払い、尚且つ更に金をつぎ込んで、実験を繰り返した結果出来たのがあの馬車だ! そこになんの不満があるんだ⁉」

 そう言われて納得する。

 ギルマスは引き返そうとしてるザケヘルをチラリと見て、ため息を吐く。

 「プエル……ザケヘルに乗せられたのか? 言っただろう? アイツは腹黒いと! 帝国のダークエルフに仲間と認識されてる様な奴だぞ⁉」

 【※帝国に住んでるエルフは、肌が褐色な訳でも、胸が巨乳でもなく、姿形はエルフと変わらないが、商魂逞しいのか悪徳商人が多い事で有名。過去にも帝国を揺るがす悪事の裏には必ず件のエルフが関わっていた事から、それを揶揄してダーク(闇)エルフと呼ばれている】

 「あ、ああ……すまない。どうやら私は口車に載せられていたようだ……、だが、お前も気になるだろう⁉」

 「そう言うだろうと思って見学する許可は取っといたぜ! 明後日に出発する!お前も誘おうと思ってたんだ、一緒に来るだろ?」

 「ああ、行くけど……情報の開示はしてくれるんだろうか……」
 私が不安そうにそう言うと、まだ騙されてるのか?と、呆れながら1冊の写本を受け取った。

 「訳せた分だけだが解読されて翻訳してくれた本だ。直し方や修繕に適した素材の事も書かれている。 ちゃんと仕事してくれてるじゃねーか」

 そう言って俺の肩を叩く。
 そして言うのだ、この本を肴に一杯やろうと。

 「俺達の手で……って、わけじゃねーけどよ? 約束の酒を酌み交わしてもよくねーか?」と、笑う。

 「そうだな……そうだよな! これは歴史的偉業だよな! ずっと隠し持ってた三十年物を出そう!」
 「そりゃすげぇな! 今夜は朝まで呑み明かすぞ!」

 その後私達は、肩を組んで壊れて修理待ちの風車で朝まで呑んだのだった。





 「……っち。うまく言ったと思ったんだがなぁ……」

 ザケヘルは舌打ちをして、家へと向かう。

 如何にかしてあの風車を手中に収められないか考えながら……。

 領主の力を借りる事は容易だった。だが、そうなると自分の取り分は少なくなるだろう。ガッツリ全部頂くには……と、考える。
 いつか嵌めた帝国の貴族の様に、ギャンブルに誘って根こそぎ奪い取る方法も考えたが、海人は迷い人で自称三十四歳とか言っていた。

 「って事は、純粋じゃねーな……嵌めるのは無理か……」

 そう思ったザケヘルは、仕方なく幼馴染の屋敷へ迎えと支持を出した。

 領主はザケヘルに負けず劣らずの腹黒である。

 話を詰めればきっと、良い方向に転がるだろうと期待して、ザケヘルはほくそ笑む。

 ☆

 一方その頃、海人達は街道脇に馬車を止めて必死に人を呼び集めていた。

 「この棒を五百回廻す度に銅貨一枚だ!やるかい?」
 「おおっ!ヤルヤルやります!」

 魔力無しの少年は手にツバを付けると勢い良く回し始める。

 反対側ではユーリを筆頭に魔力持ちの子供達を集め「このポッチに魔力を充電してね? 倒れそうになったら止めて、この銅貨を二十枚受け取ってね?」

 「「「任せてくださいお姉さん‼」」」


 大勢の子供達が馬車を囲んで魔石バッテリーへと充電を開始した。

 行きに盗賊達とやり合ったお陰で、帰りの電力が足りなくなり、止まってしまったのだった。なので、急遽そこらで砂鉄集めや田畑の水やりをしていた子供達に声を掛けて、充電して貰っている所だ。

 これも今後の課題として、ノートに書き記す海人。

 「中々うまく行かないなぁ……」
 と、頭を悩ます。

 「それでも頑張りましょうね!」
 それを励ますユーリ。
 二人は仲睦まじく、それを見ていた周りも和み、目を細めるのだった。





 
  
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