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しおりを挟む「王に献上するんだろ?」
そんな言葉を聞いて全員の動きが止まる。
ザケヘルも遅くなったと言いながら少しお高い酒を手土産にやって来た。
勿論アニキも一緒だ。
今回は急いできたのか背中の箱を背負ったアニキに乗って来たらしい。
余りにも早く着いたので戸惑っていた。
腹の袋に入ってくるより快適だったらしく、ちょっとした届け物とか此方に持ってくる食料なんかは今後その箱に入って来るようだ。時間の有効活用に成りそうだと喜んでいた。
そんなザケヘルと酒をちびちびやりながら電動馬車のお披露目をしていると、いきなり言い出した言葉が『王に献上しないのか?』という言葉だった。
当然の様に言うもんだから皆は戸惑ってしまった。そもそも当初予定していた予算よりも大幅にオーバーしてしまった馬車だ。おいそれと他人に売るつもりが無かった。
ましてや献上など、予算が無く次が作れないというのに渡す筈が無いだろう。
なので「そんな予定はないよ?」
と、言うと驚かれた。
「せっかく作った魔導具だろう? 登録をしたら当然その噂は王国にも拡がるし、寄越せと言われて取り上げられるのがオチだぞ? だったら快く先に渡した方がその後の商売の利益にも繋がるだろう?」
「いや、売る気が無いのよ。そもそも魔力を充電なんてしたら、何人の魔力持ちが必要かわからんよ?」
そうなのだ。
一応魔石粉を使っているから魔導具として、登録は出来る。
だがしかし、試しに電力以外で充電しようと試みたところ、国枝がダウンした。
勿論全快で全魔力を注いでそれだ。
王国一魔力を保持してる国枝が満タンにすら出来なかったのだ。
その後にアリサや他の魔力持ちにも充電してもらったが、結局満タンには程遠い半分を少し超えたくらいしか埋まらなかったのだ。
半分程度じゃ城塞都市との往復にも足りない。
それ程燃費の悪い代物なのだ。
下手に売っても使い物にならないというレッテルが貼られるだけである。
俺がそう説明すると、ザケヘルは苦そうな顔に成って言う。
「……そんなもの作るなよ」
ザケヘルにとって、採算の合わない物作りは人生の無駄と思っているのだろう。
こんな使い道のない魔導具は久し振りに見たらしく、時間を無駄にしたなと言われた。
当然そんな事を聞かされた制作陣はムカッとしたのか、ザケヘルの席から離れて行ってしまった。
「ちょっと……口悪くね? 祝の席で言う言葉じゃねーぞ?」
「だってそうだろう? 何ヶ月掛かったんだよ? これを作るのによ? んで、燃費が悪くて使えないんだろう? 1回1回何週間掛けて充電するつもりだ? こんなのに時間かけるくらいなら時計の制作を手伝ってほしかったわ」
そう言って悪びれもせず吐き出す。
「充電にかかる時間は1日だな」
電圧は其処まで高くないので、急速充電は出来ない。
寧ろ如何やるのかも分からないのだ。
それを考えると、手軽に行けるスーパーでも買い物してる間に急速充電して満タンにしてくれたあちらの技術は凄いのだと実感する。
「はぁ⁉ 1日だと⁉ 王国一の魔道士すら魔力枯渇してぶっ倒れる程の無駄飯食いの魔導具に⁉ 何処で見付けた⁉ そんな魔力持ち!」
そう言うと、周りに居た住民に手当り次第魔力検査用の水晶を当てだした。
他の住民さんは迷惑そうな顔をして、ザケヘルから離れていく。
いつの間にかザケヘルの座る席には俺しか居なくなっていた。
「まさかお前! 発現したのか⁉ 魔道士級の魔力を⁉」
そう言って俺にも水晶を当てだすので、振り払って全否定した。
「じゃあ誰だ‼ まさかお前の嫁か⁉ エルフで魔力持ちだと言うのか⁉」
あまりにも煩いので首に軽く手刀を落として落ち着かせる。
うめき声を残して倒れたので、回復ポーションを飲ませてやった。
「何しやがる! この野郎! 殺す気かっ⁉」
意識が戻った瞬間喚き出したが、無理矢理酒を呑ませた。
「ごふっ⁉ ゲホ⁉ゲホッゴホッ! おまっ……溺れさすなっ! 酒で溺れて死ぬのは老後にしてくれっ!」
ようやく落ち着いたのか、老後の願望を聞いた所で説明する。
「これに使う動力は電力だ。 魔力じゃない」
そう言うと固まった。
「ちょっと待て……電力だと⁉ 何処かで聞いたことあるなその言葉……電力……風車?……あ!小麦粉屋の亭主かっ⁉」
そう言って席の後ろの屋上でクルクルと今も軽々と回ってる風車を見た。
何時だったか海人が馬鹿な買い物をしたと聞いたあの時だ。
骨董品は俺もよく買うが、歴史物で全く使えない代物を買う程酔狂ではない。
なので、金貨五百枚も使って手に入れたのが小汚い風車だったので、呆れたものだった。
それなのにアレが電力を生み出す機械だったとは……。
あれを作ったのは魔王との戦争時代に現れた迷い人だと聞いた。
兵糧を素早く確保し、前線へと送るのに誰よりも早く小麦の選別をしなくてはならなかった。
当時は魔力持ちが風の魔法を唱えて吹き飛ばし、手前の重い麦だけを回収するやり方だった。
だが、安定しない風の威力で度々混ざってしまう。そこで手間取り時間だけが過ぎていたのを、風車なる物を作って均等に吹く風を送り出す装置を作り出したのが、その迷い人だった。
戦争が終わると無用の長物になりそうだったが、小麦屋を開いて家庭を持ち血を繋いだと……。
ザケヘルは立ち上がると、アデルの山で幸せそうに食してるアニキを呼び付けると、用ができたといって帰っていった。
アニキの目には涙が伝っていた。
可哀想なので、今度来た時にアデルの山をもう一度見せて食べささてやろう。
俺はそんな事を思いながら、哀愁漂わせるアニキの後ろ姿を見送るのだった。
☆
打って変わって翌日の朝、死屍累々と倒れる国枝と住民達を道の横に避けると、俺達は試運転兼ねて城塞都市へと向かう事になった。
取り敢えず献上はしないにしろ、魔導具として登録をして置かないと、間違って攻撃する輩が出るかもと言われたからだ。
パット見モンスターそのものだからなこの馬車……。
幼生の抜け殻とはいえ、災害級の昆虫の為、街に近づいたら警戒されるとは思っている。
なので誰もがこれを見て、何あれ?っと、不思議がる風貌にしたら警戒心は薄まり、突然攻撃してくる奴等も出ないのでは? っという俺の案が通ることになった。
フロントガラスの真下。
前方機銃室の真横に設置されたソレは金色に塗り固められた箱に、ワームの液体を塗って固めてスライム液でコーティングしたコイン型の大きな車輪入れだった。が、見た目的には何処かの車会社の印にクリソツだった。
これで目を引けば取り敢えずは攻撃されないだろうと踏んたのだ。
出かける直前、目が覚めたのか国枝がフロントに付いてるマークを見て
「あれ……?ベン……」
最後の文字は言えずに、そのまま眠りに付いた。
その横には海人が手刀を落とした姿だけが残っていた。
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