異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 3回目の実験の日、国枝も来れたようで観覧席で拠点に移住してきた人達と祝杯をあげていた。

 国枝は俺が婚約したあと、王国の姫さんと婚約したらしく、学園が休みになると城に呼ばれて貴族教育を受ける事になった。
 「計画通りには中々行かなくてね……ゴメンだけど暫く来れないわ」っという手紙を貰っていた。

 なんの計画を立てていたのかは、教えてくれなかったが、その内話せる様になったら言うだろう。

 俺も呼ばれて少しの間実験体三号の馬車から離れて国枝の横に座って乾杯に付き合う。

 「それにしても海人よ……あれ……馬車なのか?」
 国枝は昆虫素材で作った馬車を指差して呆れ声で言う。
 確かにアレを馬車と呼んで良いのか俺も戸惑う所だが、一応中身は馬車なので頷く。

 その頷きを横目に見たあと再び馬車らしき物体を見て国枝は呟く。

 「でもアレって……その……○ームに似てね?」
 「はっきり言うな! 色々ヤバイんだ! この世界の者達には分からない! コレはダンゴムシだ!」




 3ヶ月前、森に入った俺達は巨大な抜け殻を発見した。
 それは成長すると全長三十mを超えるくらい育つ災害級に指定されてる大ダンゴムシの脱皮した抜け殻だった。
 幸いにもその抜け殻は、丁度マイクロバス程度の大きさで、幼生の物だと分かった。

 とても大人しい昆虫ではあるが、その大きさから災害級に指定されているのだ。

 その足跡は城塞都市へと伸びていた事から緊急案件だった為、ギルドに報告する前に倒す必要があった。
 昆虫は人は襲わない。
 だが、その大きさから街の周りを歩けば当然外街が滅ぶ事に成りかねない。

 なので、見つけ次第倒すか報告するかしないといけなかった。

 幸いな事に、昆虫採集に出た者はA級のアリサに同じくA級のムズガとB級のズドンとC級のガドンが居る。
 俺はランクは上げてないというか、冒険者家業は砂鉄集めしかやってないのでFランクだ。
 訓練はしているので、それなりに強い(筈)。
 ただ、父竜がマキシムと共に居なくなってから修行らしい修行はしていないので、鈍っているかも知れない。
 だが、強さだけなら地竜に届く域には到達している筈だ。
 とはいえ地竜は竜種の中でも最弱なのだと、アニキに言われた。
 人間如きに使役される種なのだから、最弱なのだそうだ。
 なので、強くなったと思って奢ってないで、精進して励めと諭された。
 地竜の次に強いのが通常種の飛竜らしい。炎帝グレンは、亜種なのでソコソコ強いが、本物の炎竜はもっと強いのだそうだ。その次が炎竜と同格の氷竜でその上を少し行くのが空竜と海竜らしい。最強種になると、エンシェントドラゴンや天竜等がいるらしいが、既に伝説の生き物扱いで、滅多に出てこないらしい。

 そして、父竜の言っていた竜脚拳という武術を極めるには、全ての竜から指南され技術を納めれば名乗れるれるという。

 ーー流石に其処までやってらんねって……。

 【閑話休題】

 そういう訳で、俺達は更に森の奥へと進んでいき、マイクロバスを一回り大きくしたダンゴムシを退治した。

 俺が横腹を蹴り上げてひっくり返すと、暴れる数十本の脚を避けながらA級の二人が大槌で叩き捲って腹の周りを柔らかくすると、トドメにズドンガドンの二人ではらわたを切り裂いて息絶えた。

 その帰りに抜け殻を持って帰ってきたのだ。

 その硬さはまぁまぁあり、昆虫の中でも中の上くらいで防御にも適しているらしい。なので、そのまま流用した。

 シャーシに被せると、タイヤ付きダンゴムシに成った。それをシャーシから外れない様にスライム液で囲い、蜘蛛の糸で縛って隙間をワームの体液で覆い、馬車の外構にしたのだ。 
 なので俺と国枝の知るアレによく似ているのは仕方ない話なのだ。
 尻尾は棘の様な針になっていたので、先っぽを蓋にして、充電するプラグが刺せるソケットになっている。
 「後ろの針を足すならキャタ○ラーだな」と、笑う。
 「キャタ○ラーってなんだっけ?」
 と聞くと確かドラ○エにそんなキャラが居たような?と、再び危ない事を口走り始めたので、口と鼻を塞いだ。
 なのになんで嬉しそうなんだ⁉
 本当に国枝が分からない。

 まぁ兎に角、その外構のお陰で弓矢や槍や剣先等は滑って弾く様になったので、防御力向上にも繋がった。
 そしてなりより軽いのだ!
 お陰で使う筈だった柱等が不要になり、軽さに拍車が掛かった。

 俺はまだ呑むという国枝に別れを告げて、馬車に乗り込む前のユーリと侍女ちゃんズに声を掛けて円陣を組む。

 「さあ! 晴れ舞台だぞ!」
 「「「はいっ!」」」
 「気合入れていこう!」
 「「「オーーっ!!」」」

 歓声を背に受けて乗り込んでいく。
 因みに昇降口は天井にある。
 最初口にしようとしたが、食べられてるみたいで嫌だと言われたので変えた。

 車輪の形も変えた。
 薄く輪切りにした様な車輪を五枚重ねて貼り付けて、細かい歯車を付けてスライム液でコーティングしたのだ。
 凸凹したトラックのタイヤに似てると思う。
 お陰で良く地面に食い付く車輪になった。
 車軸にはミスリルと鋼を混ぜた物を使用。
 少し値ははったが、惜しみなく使った。車輪軸も同じ素材だ。

 上から入ると直ぐに出し入れできる機銃が付いている。
 上から狙う方が守りやすいのと、物見台代わりらしい。
 走ってる間はこれで後ろを警戒しながら走る。
 其処に座るのは姉のカーニャが受け持つので、残りの三人は更に蓋を開いて中へと進む。
 運転座席にユーリが座ると、そのニ段下にある機銃室に妹のカーナが座る。
 俺が尻尾の部分に直接繋がっているペダル付きのシートに座ると準備完了た。

 「後方オールクリア!」
 と、カーニャから昆虫の脚で作った伝声管を使って返事を貰う。
 これがあれば外の声も直ぐに繋がるのだ。

 「前方オールクリア!」

 と、ユーリが応えると俺がペダルを踏み込み、魔法陣へと電力を送る。

 グルグルと足を回転させ勢いが増してくるとフワッという浮遊感を感じる。
 だがまだこれだと足りないので、更に回すと
 「浮遊良し!」とカーナが叫ぶ。
 カーナの機銃室からは、シャーシの上がり具合と車輪の地面との接着面が見えるのだ。

 「微速前進っ!」とユーリが叫び、アクセルをゆっくり踏んでいく。

 すると、ススっと音もなく魔石バッテリーから電力がモーターへと伝わる。
 そしてユックリと動き出すと、外から歓声があがった。
 地面を噛む様に車輪は回り、カーニャの後髪が風でなびく。
 さらに強くユーリがアクセルを踏むと、唸る音が少ししてから速度が上がる。

 「「「走ってる!止まらないで走ってるよ!やったよ!」」」という叫びが外から響く。
 横に付いてる窓を覗くと、イーチェもニーチェもサンチェスも馬車と並んで走っていた。

 その顔は涙と喜びに満ち溢れていた。

 そして馬車は三百mくらい走ったゴール先で止まる。
 アクセルから足を離し、下に座るカーナと握手をするユーリとそこに駆け寄りハグをする俺と、上から降りてきたカーニャがそんな三人に飛び付き抱きしめた。

 数カ月にも及ぶ実験が遂に成功した。

 この世界初の電動馬車の誕生であった。


 

 
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