異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 二回目の走行実験が開始されたのは、各家を建てて田畑を整備し、共同トイレと共同風呂等を作り終えてから、二ヶ月後だった。

 城塞都市からもチラホラ住民が移動して来てくれたお陰で、弟子ちゃんズの三人の手が空いたのだ。

 で、今回は念入りに準備した。
 第一回目の走行実験の時、アクセルをベタ踏みしたユーリは、五段階に別けて踏めるようになった。
 双子の侍女ちゃんズも同じ様に練習した為、アクセルワークは上手くなっているし、ハンドル操作も既に俺よりも上手い。

 俺は俺でペダルで漕ぐ側の歯車を小さくして、回転を上げる事で電力供給を魔法陣に注げる様にしたので、問題なく浮かせる事が出来た。
 推進力はあくまでもタイヤ(車輪)なので、完全に宙に浮いてる訳ではない為、車輪と車軸も頑丈に改造した。

 そして皆が見守る中、手を振って座席に乗り込むユーリは、少し緊張しているのか顔が強張っていた。

 「落ち着けユーリ! 大丈夫! 練習した成果を見せてやれ!」

 俺は座席の後ろでペダルを漕ぎつつ声援を送る。

 「はいっ!」という返事をしてユックリとアクセルを踏むと、魔石バッテリーからモーターへと電力が伝わる。

 しかし、ググっと少し前に進んだと思った瞬間『バキッ』という音と共に車輪が割れてしまった。
 今回、車軸は無事だった様だが、やはり馬車が重いようだ。
 前回何も積んでいなかった馬車は、四人で住む様になった事で、箪笥や椅子や机、それとベッド等を新たに積んだ。
 それに寄ってかなり重くなってしまった。

 「車中泊は辞めるしか無いのか……」

 と、半ば諦めた様な言葉を出すが、弟子ちゃんズは頑なに拒む。
 「諦めたらそれで終わりじゃないですか!」
 と、まるで何処かの監督の様なセリフを吐き出しては、必ず成功させましょう!と、逆に励まされる。

 「とはいえ、重さを何とかしないとなぁ……素材自体が木材だから重たすぎるんだよなぁ」

 そう言って、家具は減らす方向にするか?と、言うと侍女ちゃんズが反対する。

 「お嬢様にはちゃんとした物が必要です! これ以上減らすなら馬車で過ごす事はさせられません!」

 と、まぁ……。あっちをたてればこっちは立たず状態で、正直お手上げだった。

 「壁や屋根を軽くしたいなら、攻撃されたら紙の如く弱いが、雨風なら凌げる方法ならあるぞ?」

 と、アリサがいう。

 それを聞いた弟子ちゃんズの一人、イーチェは考え込みながら
 「昆虫素材ですか……」
 と、知ってた風にいう。
 他の二人もそれは知っていた様だが、提案しなかったのには理由があった。

 昆虫素材は確かに軽くて丈夫で、人が乗ったり跳ねたりする分には、問題なく使えるのだが、防御面で考えるなら紙装甲なのだそうな。
 弓矢なら弾けるが、剣なら刺さるし貫通するそうだ。
 突進してくる獣等にも弱く、大猪に似たビッグボアという獣は牙もあり、一旦怒らせると手が付けられない程暴れるらしい。
 鉄板すらも貫く牙は大変危険なのだそうだ。ただ、幸いな事にビッグボアは街道には滅多に出てくる事は無いので、そこまで警戒する事は無いが、一番の懸念は盗賊の存在だという。
 ザケヘルは賄賂を通してるので、襲われなかっただけで、普通にエルフの森を過ぎれば襲ってくる可能性は高いという。

 ただ、昆虫素材で馬車を作った場合、速さは馬車には出せない程の速度は出せそうなので、盗賊に襲われる前に逃げれば助かるかも知れないという。

 「うーん。一度昆虫素材で作ってみて、可能なら武器でも載せるか?」
 と、言うとサンチェスが首を振って否定する。

 「武器と言っても、乗ってる状態ですので、積めるとしたらバリスタくらいですかね……それだと、初動が遅いかも知れないので間に合わないかも知れませんよ?」

 「電動ガトリングガンでも作れれば良いのになぁ……流石に製造方法が分からんし」
 そう言うと、イーチェが食い込んだ。

 「ガトリングガンとはどんな武器ですか?」
 そう聞かれたので、先に銃の話をした。

 「細い筒状の鉄の棒に、火を点けると爆発する粉を積めて、鉄の玉を発射し攻撃する武器があるんだけど」

 と、説明しだしたらニーチェが手を上げる。
 「それ知ってますよ! 魔力銃ですよね?」
 そう言うとアイテムバッグからライフルによく似た銃身を取り出して見せてくれた。

 ーーあんの⁉

 と、驚くと共に使い方の説明を受けた。

 数百年前に迷い人から伝わった物で、火薬の代わりに魔力を使って鉄の玉を飛ばす武器らしい。が、残念な事に威力は出せないのだそうだ。

 「これだと、ビッグボア等のA級クラスは倒せないんですよ」
 連発も出来るが魔力を使うので乱発は出来ないのだという。
 これは趣味で持っているコレクションなのだという。

 「電力で魔力を補えるんなら、盗賊相手になら有効なんじゃ?」と、言うと

 「「「確かにっ‼」」」と、声を揃えて合意した。

 Cランク冒険者になると、強い獣を狩るためにパーティを組んで行動するらしく、銃で攻撃するという選択肢が無かったのだという。
 ニーチェの得物は槍だったし、イーチェは大剣で、サンチェスは鞭だった。

 ーー鞭を見たらピクリと何か反応したが、何でだろう? まぁ、気にせずに今は武器の事だ。

 銃なら直ぐにでも改造して、動力を電力に変えられるとの事なので、備え付きに成るからと少し威力を上げるそうだ。
 ただ、間違って盗賊以外にも当たった場合死んでしまうので、玉は木材をスライム液でコーティングした物を使う事に決まった。まぁ、ゴム弾だね。
 当たれば死ぬ事はないが、骨くらいなら折れそうだし、盗賊相手ならこれで十分戦える。
 強い獣が出ても威嚇には成るだろう。

 銃は前に1丁、後ろに1丁付ける事になった。横から来たら、ハンドルを切って廻りながら打てば当たるだろ(多分)

 車輪や車軸に車輪軸とシャーシは木材に軽めの金属を部分で使う事になった。そのお陰で室内の床部分は、ワームみたいな昆虫の体液と蜘蛛みたいな生き物の糸を絡み合わせて作るそうだ。
 元の昆虫の地球バージョンを知ってると、気持ち悪いの一言に尽きるのだが、乾いてしまえば気にならないらしい。

 シャーシを土台に蜘蛛の糸を巻き付けて、その上からワームの体液を人口樹脂の様に塗りたくるそうだ。
 それが乾くと、モルタルみたいな質感の床になった。
 それを重ねて塗る事で厚みを出し、強度を上げるそうだ。
 その上にタイルの様に板を貼れば見栄えの良い床になるそうな。

 材料が昆虫なだけに中々グロかったので、作業は弟子ちゃんズに任せて、俺とアリサにドワーフのムズガ達を連れて昆虫採集へと森に入っていった。

 ユーリと侍女ちゃんズは、マークと共に飯炊きを任せた。

 人数が増えた事で食事を作る量も増えたのだ。流石にマークだけに任せるのは酷いだろ⁉っと、アリサから苦情を貰ったので花嫁修業も兼ねて手伝ってもらっている。

 こうして皆の協力を経て、その後半年程過ぎた頃、3回目の実験を行える事になる。
 
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