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しおりを挟む婚約したエルフ族のユーリが拠点にやって来た。
そして身の回りの世話をする侍女が二人付いて来た。
名前はカーニャとカーナと言うらしい。
双子の姉妹で二人とも百六十歳だという。
族長パウェルから手紙を預かってきたというので受け取ると、其処には……。
『エルフは子供が出来にくい。娘だけでは子は残せないかも知れぬ。それに人族は歳を取るのが早いから、弱る前に子種を二人の侍女に授けてくれ。子供が出来たら連れてこい、楽しみにしている』と、書かれていた。
読んでいる内に顔が熱くなるのを感じる。
ーー側室付きで嫁を寄越すのか? エルフって……。っていうか……。先に侍女に子種を付けろとか頭イカれてんのか?
双子の侍女で、長女のカーニャに手紙の内容を知っているか聞いたところ、書いてる横で見ていたそうで、内容も把握しているらしい。
「い、いいのか? それで……」
と、聞くと問題ないらしい。
産まれた子は、ユーリお嬢様のお子様より少し上にして、侍女として仕えさせるのだという。
「私達も同じ様に生まれて育てられましたから」と、妹のカーナも頷いている。
ーーマジかー……いやまぁ、嬉しいけどね? 男としては。
ユーリ的には如何なんだろうと思い、聞き辛かったが大事な事かと思って聞いてみると、不思議そうな顔をされた。
「エルフ族の世界では普通の事ですが、人族は違うのですか?」と、逆に聞かれた。
こちらの世界では知らんのだが……。
知ってそうなのはドワーフ辺りかと周りを見ると三人の弟子ちゃんズは視線を逸らしたので、知ってそうなアリサに聞いてみる。
「如何なの? アリサさん」
「知るかっ! こっちに振るな!」
と、顔を赤くしながら快い返事を貰えた。どうやらエルフ族の特別ルールらしい事は分かった。
ーーあ、でも部屋如何しよう……。
流石に建築中の馬車の大きさでは、四人で住むには狭い。というか、二人でも狭いのだが、密着性が如何たらアリサに言われ、大きさは軽バンくらいなのだ。
それ以上大きくする場合、重さが半端無くなり、その分電力を大幅に食ってしまう恐れがある。
一回の充電で往復を走れないと、途中で止まり身動きが取れない可能性がある。
ニーチェとサンチェスとを呼び、大きさを如何するか会議を行った結果、二階建てにしようと言う話になったのだが。
「いや、流石に重いでしょ?」
「いえ、風の魔法陣を組み込めば重さは羽根のように軽くはなります」
その魔法陣は最近流行りの物らしく、大型馬車を持つ方々にも好評で、王都の方では既に殆どの馬車がそれを描いてるらしい。
ただその場合、魔法陣へ送る電力が別途必要になるので、そこを如何やって補うかを考えてくれと言われた。
魔石粉で陣を描くので、簡易的なバッテリーと同じ働きをするらしく、常に電力を送る必要は無いから、バッテリーを通さずに直接電力を送る方法が魔石バッテリーの負担にも成らなくて良いと言われた。
イーチェは屋根に風力発電機を取り付け、走ってる間だけ魔法陣に電力を送る様にしたら如何かと提案してきたが、今の所屋上に取付けてる風車意外に無く、それを作るにしても銅線が足りず、作れる資金も材料も無いと却下された。
他には、バッテリーにする為の魔石粉を更に増やす案も出されたが、これ以上増やすと更に重くなり、街道を走れなくなるからと却下された。
「一応他にも有るっちゃあるんだけど……」と、俺がそう言うと一応参考までに聞かせてくださいと言われた。
風車の仕組みとモーターの仕組みをいち早く理解したイーチェニーチェサンチェスは、今では俺よりも詳しく成っている。
なので俺の意見はあまり通らない。
逆にダメ出しを食らう始末……。
まぁ、今回は参考にはしてくれる様だし言ってみた。
「車内に風車の代わりに足で漕ぐ物を作って、それを動力にして魔法陣に送り込めば良いかなって……。ハンドルは四人も乗るんだし、誰かが握れば前には進むかなって……思ったんです……けど……」
三人の険しい目つきで最後は尻すぼみになっていく。
「足で漕ぐって事は力が必要になりますよね? それだと海人くんが漕ぐんですね?」
「え?……あ、うん。そうなるね」
そうなると、ハンドリングを学ばせる必要がありますね。っとなり、カーニャとカーナに運転方法を学ばせる事になった。
ハンドルを付けた板だけの車に、座席を取り付けて、俺が後ろから押す事で動く人力車をパパっと作ってしまったサンチェス。それに乗るカーナとカーニャと……。
一人では暇だからと見学の為だけにユーリが乗る。
ーー女性が三人とはいえ、流石におも……くないです。ハイ、ゴメンナサイ頑張ります。
三人の目が細くなり、睨まれたので感想は止めて、取り敢えず押す。
舗装などされていない場所を、木の車輪が付いただけの簡易人力車を押しながら、ハンドリングまで教えるのは正直キツかった。
急ハンドルなどされた日には、俺だけ吹っ飛んだりもした。
生傷を作りながら数日間教えると、覚えが良いのか二人とも良い感じに運転が出来るようになった。
これで安心と思っていたら、楽しそうに見えたのかユーリまでやってみたいと言い出した。
断るわけにも行かないので、教える事にしたのだが、安全の為に両脇をカーニャとカーナが支えると言って聞かないので、仕方なく引き続き同じ重さで押した。
お陰で筋力が上がったのか、更に走る速さが速くなった。
ユーリは憶えは遅かったが、完璧に覚えるとカーブをドリフトしながら曲がれる様になった。
その都度俺は吹っ飛んだ。
それが楽しかったのか何度もやられた。
きっと下りがある山道は、最高速度で下ってくれるに違いない。
だれとタイムを競うのかは謎だが……。
取り敢えず、改装した馬車が出来上がったのは、それから三ヶ月後だった。
☆
屋上に置かれた二階建て電動自動馬車は拍手喝采されながらお披露目された。
大きさ的にはマイクロバスと言えば分かりやすいだろう。
正面の車幅は二m五十cm
横からの車幅は、八m
車高は三mと三十cm
かなり大きくなった。
多分世界一大きな馬車でも、これの半分だと思われる。
もはや、城塞都市の外街にあるどんな家より大きい気がする……。
バッテリーとなる魔石粉は天井から後ろへと平らに引き伸ばして、スライム粘液でコーティングされた後、薄い鉄板がそれを支えている。
スライムの粘液は結構かんたんに作れた。核を取り出し鉄板に薄く粘液を塗り、天日干しで二日干した後、水で埃を洗い流したら捏ねる。
粘り気が出て来たら、コーティングしたい物を潜らせて乾かすと、まるでゴムを纏わせた物の様になるのだ。
取り出した核は、別のスライムに植え付けると、2つに分離して勝手に大きくなるらしい。
再生可能資源としてこれからも使えることが分かった。
これで銅線も上手く作れる様になったので、風車から作られた電力を魔石バッテリーへと充電する事に成功した。
馬車の後方に尻尾の様な突起物があり、
電気を送る送電線が、下の階から伸びているので、それを繋ぐと馬車へと電力が流れ充電される。
屋上の下の部屋全体をスライムコーティングで塗りたくり、大型魔石バッテリーにした。
扇風機を回すモーターはそのまま馬車に取り付けて、タイヤを回す前輪駆動になった。
決して、ドリフトを防止するためでは無い。
車体を浮かせているとはいえ、かなり重いので引っ張りながら走る方が都合が良かったのだ。
大きさ的にはマイクロバスだが、形的にはウナギイヌ(古)を太らせた感じ……(分かり難いねごめんね~)
途中で止まった時用に、外部からネジ巻きの様な物を刺して、それを回す事で充電出来る様にもした。電力的には小さいが、じっと動かなければそのうち貯まるだろう。
中はまだ何も無いので、その内作るつもりだ。
せっかく完成したのだからと運転したくなったのか、ユーリが座席に座る。
俺もスタンバって風の魔法陣に電力を送る為に漕ぎだす。
これが意外と大変で、自転車の様なチェーンがある訳ではなく、歯車を回す感じなので、かなり力が必要な事が判明した。
要改善だな……。
取り敢えず少し送れた様なので、車体がフワリと浮かんだ感じがした。
アクセルは右足のフットレバーだ。
運転に集中出来ないらしく、ブレーキも脚の下にある。
クラッチは無い。というか、ギアが無い。
取り敢えず走れば良いのさって事で、スピードも馬車より少し速いくらいだ。
皆がワクワク期待する中ユーリは、緊張したのかアクセルをベタ踏み。
急発進した馬車は前に走らず、車輪が壊れた。
どうやら原因は俺が魔法陣に送った電力が少なすぎて、ちゃんと浮いていなかったようだ。
……取り敢えず前途多難という事は分かったので良しとしよう?
それにアクセルの踏み方も教えた方が良いと思うんだ。
いや、俺も悪かったけどね?
「言い訳はいいから、取り敢えず弟子達を慰めて来い」と、アリサに背中を押されて三人の前に行くと……。
膝を付いて落ち込んでいた。
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