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しおりを挟む族長の娘さんの水浴び中に、うっかり遭遇してしまった上に、怒らせてしまった海人達は、泉から少し森に入った場所にある、エルフの集落へと案内されてやって来た。
娘さんは其処で族長へ報告へ向かい。
海人と父竜は、一時客間へと通され待つ様に言われる。
そして父竜から軽く説教を貰う。
そこで海人は、泉で出会ったエルフは女性だと再確認させられた。が、半信半疑だった。
何故なら、集落へ入ってから出会う女性には胸がちゃんとあったからだ。
先程の女性と似たような年齢の人達にも胸があったので、彼女は男の娘だと思っていた。
まぁ、異世界に男の娘など、居ないのだが……。
なぜそんな勘違いをしたのかと言うと、男娼の存在があるからだった。
海人は男娼を見たことは無かったが、多分似たような存在だと思い込んでいた。
『これ以上失態すると、スライムすら貰えなくなる可能性もある。族長の前では大人しくしているのだぞ?』
そう言うと、父竜は海人を睨む。
「はい、分かりました。 所で、トイレに行きたくなったのですが、何処にあるか知りませんよね?」
ーーさっきからモゾモゾしてると思ったらトイレか……。
緊張感の無い海人に少し呆れながら、側で控えてる従者エルフに尋ねると、案内してくれるという。
『……変な事するなよ?』
と、海人に釘を刺す父竜。
たかがトイレに行くだけなのに、変な事も何も、出来る筈が無いと海人は笑い、案内してくれるという従者の跡を付いて行った。
道を歩けば厄介事を拾ってくると思っている父竜は、心配でならなかった。
ーーたかがスライムを貰いに来ただけで、族長と謁見にまでなってしまっているというのに……呑気な! 既に手一杯なんだからな⁉ 頼むぞ?これ以上は止めてくれよ⁉
歩き去った方向に手を合わせて祈る父竜だった。
☆
一方、族長へ先程起こった事を報告した族長の娘は、少し体が冷えたのか族長の部屋を出ると、トイレへと向かった。
エルフのトイレは和式トイレに様式が似ているのか、ドアを背にしてしゃがんで用を足す。
そして、彼女もまたトイレのドアを開けると、しゃがみ込んだ。
ーーそういえば人族と話すのは生まれて初めてだったわね……。軽い奴っぽいけど、人族って皆あんな感じなのかしら?
そう呟くと、先程の事を思い出す。
見た目的には、似たような年齢だろうか? 女性の様な顔立ちだったが、主様の愛し子は男性だと聴いていたので、女の子とは思っていなかった。
彼女の年齢は140歳。
エルフの中では若い方で、人族の年齢に当て嵌めると、14歳くらいの見た目をしている。
この世界の女性は、摂取する栄養が海人の居た世界よりも少ない為、発育はあまり良くなく、彼女の胸が平らなのは極普通の事だった。
人から見たら子供の様に思われるし、エルフの仲間内からも、男の子と間違われる事もあった。
エルフは精霊魔法を操る為、人族の使う魔力は持っていない。
なので、人族はエルフを魔力無しと同等の枠で括っていて、当然未成年の女性には、声を掛けたりはしないし、エルフの大人達も族長の娘という事もあり、無闇に話し掛けたりはしてこなかった。
エルフの世界でも、未成年の女性に話し掛けるのは、犯罪に等しい行為だったからだ。
因みにエルフの成人年齢は160歳で、成人するまでは、集落から外へ出る事は原則禁止されている。
泉へ行く事は許されているが、それ以上先へ行くと厳罰になる。
【閑話休題】
「ふぅ……緊張したせいか、出が悪いわねっ」
族長の娘ではあるが、あまり彼女は族長と話をした事は無かった。
今日も、海人に話し掛けられたりしなければ、挨拶すらしていなかった筈だった。
彼女は族長の三番目の婿の娘で、族長とはあまり似ていなかった。
故に、それが劣等感にもなっていて、余り目立ちたくは無かった。
だが今回海人のお陰で、変に目立つ事になってしまった。
だから怒ったのだ。
まさか自分が主様の愛し子と会話をするとは夢にも思っていなかったからだ。
世界樹の聖域に住む様になった愛し子様と、もしも会話等する様な事があれば、必ず報告するように取り決められたのは、ほんの数日前の事で、自分には直接関係ないと思っていたら、当事者になってしまった……。
だからつい怒ってしまった。
決して裸を見られたからではなかったが、怒る理由が必要だった。
★因みに、地竜を主様と呼んでいるのには、理由がある。
世界樹の化石を棲家にして、他の生き物が荒らせない様に護ってくれているから主様と呼んでいる。
地竜は聖域を侵したゴブリン共を蹂躙してくれたから、それなりに敬っているが、基本的にエルフには地竜の違いは分かっていない。族長の娘であるから、一度宴を開いた時に、愛し子の顔を見た事があったから知っていた★
「ふぅ……」と、今後起きる厄介事(海人の謁見)を思うと溜息しか出なかった。
そんな時、カチャリとトイレのドアが開いた。
普段エルフしかいない場所なので油断していたし、此処は女子トイレだ。
開けられても、同性の者しか居ないので恥ずかしくはない。
「ごめんなさい、まだ使用中なの……」
と、言いながら振り向くと……。
其処には海人が居た。
彼女の思考は停止した。
海人は無言でドアを閉めた。
裸を見られる事は多々ある事だったので、特に騒ぎはしなかったが、まともに男性から下半身を見られる事には馴れていなかった彼女は、声も出せないくらい驚き硬直したまま、その場から動けなくなってしまった。
☆
ドアを無言で閉めた海人は、後ろに控える従者に近付くと静かに怒る。
「あのっ!俺は男なので、男子トイレに案内してくださいっ!」
そう言うと、従者は吃驚して叫んでしまった。
「男性だったんですか⁉」
「はい!男性だったんです!」
「そ、それは失礼致しました! あ、もしや……誰か入ってました?」
恐る恐る尋ねてくる従者の耳に顔を近付けると、コソッと告げる。
「族長さんの娘さんが……」
そう言うと従者は青褪めて、女子トイレの外から声を掛けていた。
「ユーリお嬢様!申し訳ありません!間違って案内してしまいました!」
返事は返ってこなかったので不安になった従者は、ソッと中を覗く。
其処にはお嬢様が固まったまま動けなくなっているのか、ピクリともしていなかったので、焦った従者はドアを閉めると慌てて走り出し、何処かへ行ってしまった。
取り残された海人は、取り敢えず用を足すと、足早に元いた部屋へと戻った。
そして……
「師匠……ごめん!」
と謝った。手を合わせていた父竜はその言葉で全てを察したのか、青褪めながら涙ぐんだ。
ーーやっぱり、付いていけば良かった……。と、後悔したのだった。
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