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しおりを挟む国枝が帰ったその日から俺の訓練は始まった。
基本の走り込みに加え、筋トレしながら走れと言う無茶振りも文句を言わず行った。
気持ちが前向きになったのが良かったのか、メキメキと力がついて行き、その成長速度は目を見張るものがあった。
地竜と俺との訓練中、変態は暇そうにしていたので、魔石の粉を作る道具を探して来るように頼んだところ、伝手があると言って出掛けていった。
その脚は速く、あっという間に城塞都市方向へと消えていった。
ーーあっちは崖が……と、思ったが多分変態なら大丈夫なんだろう。
なので、然程心配はしなかった。
寧ろ、城塞都市へと向かった事を心配するべきだったのだ。
その日の昼過ぎに変態は帰ってきた。
その背に背負子を背負い、誰かが乗っている様だ。
そして、其処に現れたのは……。
魔石工房の主で、ドワーフのアリサだった。
ーー伝手ってコイツかよっ!
魔石粉は欲しいが、アリサの工房に頼りたくなかったので避けていたのに、こんな所で会う羽目になるとは……。
「マキシム殿……魔石粉が欲しいと言ってたのはこの小僧ですか? ……最近見ないと思っていたがこんな場所に潜んでいたとはな……元気にしてたか? ロリコン」
会った瞬間そんな挨拶をしてきた。
「俺はロリコンじゃない! 海人って名前があるんだ! そっちで呼んでくれ!」
「分かった、海人だな? 理解したロリコン」鼻で笑いながら言う。
ーー馬鹿にしやがって! 戦い方を学び始めた俺を何時までもあの時(玉コリコリ)の俺だと思うなよっ!
「てめぇっ!」
「何だ? やんのか、おおん?」
そんな一触即発状態で対峙する俺とアリサの間に、割って入る者が現れた。
「ちょっ!アリサ⁉ なんで喧嘩になんの⁉ ほら、貴女もっ!……ん?貴女……男?」
そんな声が下から聞こえるので頭を少し下げてみた。
そこにはアリサよりかなり小さい男の子がいて、必死に俺達の間に入って止めようとしている。
身長で言えば俺が160センチくらいで、アリサが140センチ、それよりも更に小さい130センチくらいの身長で顔付きも幼い男の子だった。
「ん、君は? 息子? ていうか、どっからどう見ても俺は男だろ⁉ そうだよね?」
と、アリサの後ろに佇むマキシムを見る。が……。
ーーあっコイツ目線をそらしやがった⁉
何何⁉ マキシムには俺が(やっぱり)そう見えてんの⁉
俺は本当にマキシムが怖くなり、自身を抱きながら少しマキシムから遠ざかると、マキシムは言い訳を始めた。
「あ、いや!男だと思っているぞ⁉ 伴侶だとも思っているが……あ、いや、違うっ!あ、違く無いけど!違うんだっ!」
少し避けたのがショックだったのか、しどろもどろになりながら本音がチョロチョロと飛び出し始めた。
確かに今まで生きた中で、小中と女の子に思われていた時期もあったけど、此処まであからさまな感じの人は居なかった。
あの国枝すら、俺の前では親友のフリを貫き通そうとしていたんだから。
「ごめんなさい! 海人さん! 大丈夫です! ちゃんと貴方は男ですよ!」
俺とマキシムのやり取りを慌てる様に止めると、謝ってきた少年。
一瞬だけ間違えたと言って。
「自己紹介がまだでしたね! 僕はアリサの許嫁でマークと言います! 普通に人間です! 魔力はありませんけどね!」
許嫁? こんな年端も行かなそうな少年が許嫁⁉ そっちの方に驚いた俺は、アリサを指差して叫ぶ。
「お前の方がロリコンじゃねーか! 何歳に手を出してんだよ! どう見ても一桁だろ⁉ その子‼」
そう言うと憤慨して僕は十歳に成りました!と、訂正しろと怒るが、十も九も対して違わない。
「むっ! だから何じゃ! 可愛かったんだから仕方なかろう⁉ それに、許嫁であってまだ手は出しておらんぞ!」
「手を出してたら通報してるわ! この、ロリ婆っ!」
そう、このアリサとかいうドワーフの年齢はマキシムと、同じ年代くらいなのだ。 以前アリサの工房で(玉コリコリで)気を失った時に、お弟子さんが教えてくれた。
「誰がロリ婆ぁだっ⁉ その生意気な性格を玉と一緒に潰してやろうかっ⁉」
「やれるもんならやってみやがれ!」
「上等だ!小僧!後悔するなよ⁉」
と、再び喧嘩が始まりそうに成ったとき、俺の襟首を掴んで止めに入ったのは父竜だった。
『ヤメロ馬鹿者! 蹴り殺す気か!』
『アリサも! コイツの蹴りは既に遊び程度では収まらん! 許嫁がいるなら尚の事、喧嘩はお止めなさい!』
そう言ってアリサの顔面を掴みながら言う。
「なんと! いつの間にそんなに強くなって⁉ それじゃあもう夜這いは……」
父竜の言葉に一番驚いたのは、マキシムだった。そして、不穏な語尾を残しながら愕然としている。
どうやら本当にショックだったのか、自分が何を呟いたのか分かっていない様だ。
その呟きにドン引きしてるのは、俺以外にも居て、アリサと少年も引いてる事に気が付く。
ーー外で寝るのは辞めて、部屋を別けて鍵も付けよう。あと罠も……。
そう決意した。
その後マキシムの変態発言のお陰で場が収まり、何となく落ち着いた俺達はお互い謝って仲直りした。
取り敢えず暫くアリサは此処に滞在するらしく、滝壺の上ら辺でテントを張って過ごすという。
そして、その晩。
料理が出来るというマークに食材を提供して、共に食事をしているとアリサがいう。
「しかし魔石粉が欲しいなら素直に工房に来れば良かったのに」
そう呆れながら言われたので、此処に入り浸って居るから取りにいけないと誤魔化した。決して(玉コリコリが)怖かった訳ではない。
「だから水車を作って自分で作ろうとしてた」と、言い。その道具だけ欲しかったと言うと更に呆れたのか無理だと言ったあと教えてくれた。
「魔石というのは海人が考えているよりも固いんだよ、水車如きの力じゃ罅すら入らんぞ?」
そう言いながらアダマンタイトの鉄槌を見せる。
「ほれ、持ってみろ」
と、渡された鉄槌を握ると手を離された瞬間地面に腕ごとめり込んだ。
「なっ⁉ 重っ‼」
それを見てニヤニヤすると、片手でヒョイっと、軽々と持ち上げ再びしまう。
「今の鉄槌が魔石を唯一砕ける道具だよ。 そんな物を水車に取り付けたら水車が先に壊れるぞ?」
俺は納得した。確かにその通りだろう。
それ程鉄槌は重いものだった。
肩が少し外れたのか痛かったが、アリサがすかさず回復ポーションを呑ませてくれて治った。
「まぁ、工房は弟子に任せてきたから心配するな! 幾らでも欲しいだけ作ってやる!」
そう言って胸を叩く。
それにしても、何故そんなにやってくれるのか分からない。
聞けば料金も要らないというし?
寝床と食事だけあれば良いと言われた。
俺が首を傾げていると説明してきたのはマークだった。
「実は……僕達追われているんです!」
と、そんな事を言い出した。
何かの犯罪にでもあってるのかと思ったら。
マークに手を出して勝手に婚約してしまったアリサを、マークの両親が幼い息子を私達から奪って結婚するなら私達も養えと工房にお仕掛けて来たらしい。
その両親にはマーク以外にも子供が居て、とてもじゃないが無理だと断った。
すると、ならマークを返せ!と、言って今現在逃げ回ってる所だそうだ。
せめて成人するまで待てば両親は付いてこなかったらしいが、アリサが我慢出来なかったらしい。
「自業自得じゃねーのか?」と言うと、自覚はある様で目線を逸らした。
マキシムだけは、それは両親が悪いと頷いていたが……。
その数日後、工房をマークの家族に占拠されて仕事が続けてられないと泣きながら、街からアリサの弟子達がやって来た。
そして、アリサ達と同じ場所で良いからとテントを張ろうとしているのを止めて、国枝から貰った材木を全部渡すと、家を建てて良いよと伝える。
まぁ、何とかこれで魔石粉の目処が立ったのでホッとした。
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