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しおりを挟む国枝がこの拠点に滞在していた期間は一泊ニ日で、また来ると言って帰っていった。
何でも王都の魔法学園に入ったが、ザッと魔法の概念を教わっただけで、すべて使える様に成ったばかりか、もう教えてもらう事が無くなったとかで、講師になったそうだ。で、稼働日数は週3日で残りの4日は休みなのだそうだ。
それで金貨数枚の稼ぎになるらしい。
4日中の1日は王国に彼女が出来たらしく、その子の為に使いたいんだそうだ。
残りの一日は、土地を買ったとかでスローライフを満喫してるらしい。
ーー何だこの違い……。
方や魔力が豊富でチートでリア充。
方や魔力無しで同性に言い寄られる日々。
毎日訓練して地獄の様な日々を送ってる俺は、苦労ライフを満喫中だってのに……。
「魔力ないのか? じゃあ俺がいる間は頼っていいぜ! 何でもしてやるよ! ナンでもな?」
そう言うので、遠慮なく使わせて貰おうじゃないか。
俺は国枝を使って木を切る。
風魔法でスパンッと、一発で巨木が倒れた。
そのまま邪魔な枝を払って貰って、細かく刻んで貰う。薪にするためだ。
その跡加工させて、水分を板が割れない様にさせながら、抜いてもらう。
「え、ちょっと難しいんだけど⁉ 魔力の操作が……ちょ……割ったら駄目?え、罅も?」
そんな事を言っていたが割と簡単そうに抜いていく。
その後は、加工した板を鉋がけするかの様に滑らかになる様に削らせる。
「え、薄く削るの⁉ まぁ、やれない事は無いけど……」
風の刃を薄くするのに手間どっているのか、中々薄く削れずに何本か板を駄目にしたので、新しく丸太を数十本切らせ、水分を抜く作業と加工する作業を延々とさせた。
「あ……ちょっと魔力枯渇したっぽい……こんな風になるのか……こっち来て初めての体験かも……」
そう言って倒れ、そのまま寝た。
変態が言うには、寝ると魔力は回復するらしい。
ーーじゃ、放っといていいな。
俺は国枝が寝る横で設計図を書く。
晩飯用の肉は、暇そうにしていた変態に頼んだら、喜んで狩りに行った。
頼られるのが嬉しかったらしい。
なら、これからガンガン行こう。
朝が来ると、国枝はすっかり回復したのか、他にする事は無いかと聞いてきたので馬車の車輪を予備も含めて五つ作らせる。
「え、木を曲げるの? あ、水蒸気で湿らせながら? ちょ、きつ……。複合魔法に力技を追加しろ? マジで?」
若干青くなる顔色は見ない様に心掛け、父竜の力も借りて、丸い車輪を作ってもらう。
変態には、狩りとった獣の皮を鞣して貰い、皮を数十枚加工する様に伝える。
足りない場合は肉を確保する序で良いといったが、嬉々として出掛けていった。
獣の皮は風車の羽にも使えるし、俺の毛布や敷ふとんにも使うので、沢山あっても困らない。
王国から国枝を連れてきてから変態は、まるで尻尾を振る犬の様に従順に従う様になった。
まぁ、理由はわからないが便利なので悩まず使おう。
変態に作業を言い渡し、出来上がった車輪の仕上げを始めた国枝の横で、暇そうに見守る父竜に声をかけると、走り込みをしている場所まで連れてきた。
「秘伝の拳法を教えてください」
俺は頭を深々と下げてお願いした。
一度は尻尾が無いからと断ったのたが、変態二人にタッグを組まれたら、抵抗出来ずに俺の日常は終わる。
其れを阻止する為には自分自身が強くならなければならない。
だから、尻尾が無いハンデなんて、苦にしちゃ駄目なんだ。
☆
父竜は困惑していた。
尻尾が無い海人には、とてもじゃないが、覚えられないと思っていたからだ。
『あの技はお前には無理だ』
だから言った。だから断った。
だが海人の決心は固く、その目は真剣そのもので、尻尾が無いなんてハンデにすらならないと一笑した。
確かに過去を振り返れば、この技を習得した人間の武人も歴史に残ってはいる。
たが、彼等は他の武術も習得した強い戦士だったのだ。
そんな彼等が尻尾が無いのはハンデにすらならないと笑うなら納得もする。
現に竜種の中でも達人と呼ばれる域にまで到達した者の中には、生まれ付き短い尻尾の者もいたと聴く。
だが、彼は人間だ。
それも街の子供達よりもひ弱なのだ。
訓練にすらならないだろう。
そう思ったので、食い下がる海人を更に突き放した。
それでも海人は必死に俺の前に回り込み、土下座をして願い出た。
「頼みます! 俺は、強くなりたいんです! お願いしますっ! 師匠っ!」
その言葉で俺と海人の間に得も言えぬ感覚が宿った。
ーーこれはなんだ? 彼との間に深い繋がりを感じる。
そして、彼の考えている感情が大量に自分の頭の中に流れ込んできた。
そして、俺は気付く。
これは、俺と主様との繋がりに等しい物だと。
こうなってしまってはもう、後には引けなくなっていた。
『……キツイぞ?』
「望むところです!」
そう言うと、ニヤリと口角を上げる海人。
それを確認した俺は、遠く旅に出てる愛娘の事を想う。
『娘よ……これで良いのだろう?』
いつか帰ってくる愛娘の驚く顔を想像しながらほくそ笑み、必ず海人を強くしよう。そう心に誓った。
☆
その日の夜、疲弊したのかグッタリとしている国枝に、屋上の真下にある部屋の掃除を頼んだ。
「え……流石に今日は無理だ……疲れちゃって……それに明日は講義が……」と言い淀むので、何時から始まるのか聞いたら昼からだという。
そういえば俺が仕事で疲れて遊べないと断る時、必ずやっていた妹達の仕草を思い出す。
ーーそうそう、確か……
「お願いっ!」と言いながら、首をコテンと倒してうるっと瞳を輝かせながら国枝の目を見つめる。
「……うっ!」
胸を抑えながら何かが刺さった様な仕草をしたと思ったら、サムズアップしながら「任かせとけっ!」と、応えたのでサクッとやってもらった。
まぁ、クリーン一発で綺麗になるのだが、思いの外車輪を作るのに魔力を使ったらしく、クリーンの魔法を放つのに暫く時間がかかっていた。
更に青い顔をし始めたので、今日は少し休んでから帰りなね?っと、優しく言ってやると嬉しかったのか涙目になっていた。
「そういえば、馬車の車輪なんか作って如何するんだ? 馬車にでも乗るのか?」
そう聞いてきたので、水車を作るんだよと伝えると、困惑した顔になる。
「水車って馬車の車輪を重ねて作るんだろ?」
俺は真顔でそう言うと、頭を振って違うと否定し、次に来たときに作ってやると言ってきた。
その日の明け方近くに国枝は王都へと帰っていった。青い顔をしながら手を振るので、返してやると嬉しそうに笑っていた。
まぁ、彼は毎週末来るようなことを言っていたので、存分に利よ……手伝ってもらおうと思う。
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