異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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26苦悩するマキシム・ゴッドイーター②短めです

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 その日の夜、私は高ぶる気持ちを抑えながら彼と話をした。

 私の中で、彼は既に教え子ではなくなっていたのかも知れない。

 プルンとした唇が開いたと思ったら、信じられない話が飛び出してきた。

 「エルフが来たんです」

 この場所はエルフの森からたしかに近いが、戦場となり炎帝があの棲家を燃やし尽くした跡は毛嫌いして近づいてさえ来なかったエルフが来たのか?
 感謝こそすれ恨む事など許されないのに、世界樹とはいえ石化してその力を失った場所を燃やしたからと炎帝を恨み、見かける度に矢を射って、炎帝に憤怒の民と言わしめたあのエルフが?
 此処に?
 何故?

 「何か出来る事は無いかと聞いてきたので、木を切って良いか聴きました。それから……」

 なんとっ彼はエルフに喧嘩を売っていた。木を切るという事は、戦争を仕掛けるぞと言っているような物なのだ。

 そして、更に木を切る道具を寄越せと⁉それは、仲間を裏切りコチラ側に付けと誘ってるようなものだぞ……。
 いやいや、この子は常識が欠落しているのか、若しくは胆力があるのか……。
 多分前者だろう。
 力は弱いというのに、この非常識ぶり……。

 私は暫し唖然としてしまった。

 そんな思いが顔に出たのだろう。
 彼は可愛い頬を膨らませながら
 「自分は迷い人だから常識が無い」と言った。

 私はそれを聞いて納得した。
 王都に現れた迷い人も最初は華奢な体躯をしていたからな。常識も吹き飛んでいるのか、いきなり魔法をぶっ放してギルドの荒くれ者をぶっ飛ばしたらしいし。
 しかも、見た事のない魔法で……。
 しかし……。彼は異常な魔力を有していたのに、この子は魔力無しとは……。何とも不憫な……。

 そんな思いが顔に出てしまったのだろう。彼は更に怒り出し、夢物語を本気で語りだした。

 成人した後なのに、魔力が宿ると思っているのか、魔導具を使うんだと言い出したのだ。
 世界の常識として皆が知ってる事だが、成人する十五歳を超えてしまうと、何をやっても魔力は増えないし、ましてや宿る事も無いのだ。

 願望が妄想へと変わり、それが現実だと思い始めてる⁉
 まさか、そこまで追い込まれていたのか……。
 ここで私のたがが外れたのだと思う。

 私は震える小さな肩を抱きしめ、耳元で囁くように口説いていた。
 ほぼ無意識だった。
 彼の汗混じりの薫りが鼻孔をくすぐる。
 私の鼻息はジワジワと勢いを増し……。

 興奮しすぎたのか、私の視界は暗転した。

 しかし目を覚したときに気が付いたのだが、首筋が痛かった事から彼に倒されたのだと思った。

 兵士に志願して騎士に成ってから数十年。
 新米兵士の時ならいざ知らず、騎士になってからは負けた事など1度たりとも無かったこの私が……。
 剣も禄に振れない様な華奢な体躯、腕力も無いのか、プルプルと全身を震わせてしまうような少年に、私は倒されたのだ。

 「……まったく意味がわからない」

 私の手足を縄で縛って拘束したから安心したのか、少年は私の真横で寝息を立てていた。

 私はブチブチと縄を引き千切ると、スヤスヤと眠る彼の頬を撫でる。

 ーー如何すれば良い?

 少し呻いて寝返りをうち、無防備にも腹を見せながら眠る少年。
 訓練が始まって二日しか経っていないが、私は彼の虜になりつつあった。

 ーー彼の笑顔が見たくなった。

 私はアイテムバッグからグレプの実を一粒出し、眠る彼の唇にあてる。
 すると、甘味に飢えているのかチュウチュウと吸い出した。

 それを暫く眺め、彼の甘美な唇から雫が一筋流れる。ソッと頬に手を触れて……ハッと気が付いて我にかえる。

 ーーあぶなっ!襲いかかるところだったわっ!

 笑顔が見たいという傍から、涙で濡れるかも知れない行為に及ぶところだった。

 ーーもっと彼に信頼されなければ。

 何が出来るか
 何をするべきか
 何をしたら彼を喜ばせられるか考えた。

 その時の集中力と思考速度は、隣国との小競り合いの中、獅子奮迅の作戦を思い付き、我が国に完全勝利をもたらした時よりも深く思考する事になった。

 そこで一つの妙案が浮かんだ。

 「そうだ! 友人を作らせよう! ちょうど同郷の者が王都に居るではないか! アレを使おう!」

 無二の親友を紹介してくれた私を彼はきっと信頼して頼ってくれる筈だと確信した私は、地竜を起こすとそのまま王都へと向かった。

 彼が心配しない様に手紙も残した。
 起きて直ぐに確認出来るように地面にしたためて。

 地竜の脚は速い。
 油断していると振り落とされてしまう程に。普段の私なら落竜落馬する事など無かったが、彼との逢瀬を妄想する度に落ちた。

 『主様? 具合が悪いなら何も無理する事など無いのでは?』

 心配してか、地竜は私に助言してくれる。
 だが、今でないと駄目なのだ。
 信用を失ってしまった私を救うには、今すぐ行動に移し、信頼を取り戻さなければ!

 「構わぬっ! 急げっ! 今夜には連れて帰るのだ!」

 そう急かして地竜の背に再び跨る。
 その後数回落ちたが、その都度気合を入れた。


 全ては彼と私のめくるめく堪能な日々の為に。

 

 
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