異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

文字の大きさ
上 下
26 / 77

26苦悩するマキシム・ゴッドイーター②短めです

しおりを挟む


 その日の夜、私は高ぶる気持ちを抑えながら彼と話をした。

 私の中で、彼は既に教え子ではなくなっていたのかも知れない。

 プルンとした唇が開いたと思ったら、信じられない話が飛び出してきた。

 「エルフが来たんです」

 この場所はエルフの森からたしかに近いが、戦場となり炎帝があの棲家を燃やし尽くした跡は毛嫌いして近づいてさえ来なかったエルフが来たのか?
 感謝こそすれ恨む事など許されないのに、世界樹とはいえ石化してその力を失った場所を燃やしたからと炎帝を恨み、見かける度に矢を射って、炎帝に憤怒の民と言わしめたあのエルフが?
 此処に?
 何故?

 「何か出来る事は無いかと聞いてきたので、木を切って良いか聴きました。それから……」

 なんとっ彼はエルフに喧嘩を売っていた。木を切るという事は、戦争を仕掛けるぞと言っているような物なのだ。

 そして、更に木を切る道具を寄越せと⁉それは、仲間を裏切りコチラ側に付けと誘ってるようなものだぞ……。
 いやいや、この子は常識が欠落しているのか、若しくは胆力があるのか……。
 多分前者だろう。
 力は弱いというのに、この非常識ぶり……。

 私は暫し唖然としてしまった。

 そんな思いが顔に出たのだろう。
 彼は可愛い頬を膨らませながら
 「自分は迷い人だから常識が無い」と言った。

 私はそれを聞いて納得した。
 王都に現れた迷い人も最初は華奢な体躯をしていたからな。常識も吹き飛んでいるのか、いきなり魔法をぶっ放してギルドの荒くれ者をぶっ飛ばしたらしいし。
 しかも、見た事のない魔法で……。
 しかし……。彼は異常な魔力を有していたのに、この子は魔力無しとは……。何とも不憫な……。

 そんな思いが顔に出てしまったのだろう。彼は更に怒り出し、夢物語を本気で語りだした。

 成人した後なのに、魔力が宿ると思っているのか、魔導具を使うんだと言い出したのだ。
 世界の常識として皆が知ってる事だが、成人する十五歳を超えてしまうと、何をやっても魔力は増えないし、ましてや宿る事も無いのだ。

 願望が妄想へと変わり、それが現実だと思い始めてる⁉
 まさか、そこまで追い込まれていたのか……。
 ここで私のたがが外れたのだと思う。

 私は震える小さな肩を抱きしめ、耳元で囁くように口説いていた。
 ほぼ無意識だった。
 彼の汗混じりの薫りが鼻孔をくすぐる。
 私の鼻息はジワジワと勢いを増し……。

 興奮しすぎたのか、私の視界は暗転した。

 しかし目を覚したときに気が付いたのだが、首筋が痛かった事から彼に倒されたのだと思った。

 兵士に志願して騎士に成ってから数十年。
 新米兵士の時ならいざ知らず、騎士になってからは負けた事など1度たりとも無かったこの私が……。
 剣も禄に振れない様な華奢な体躯、腕力も無いのか、プルプルと全身を震わせてしまうような少年に、私は倒されたのだ。

 「……まったく意味がわからない」

 私の手足を縄で縛って拘束したから安心したのか、少年は私の真横で寝息を立てていた。

 私はブチブチと縄を引き千切ると、スヤスヤと眠る彼の頬を撫でる。

 ーー如何すれば良い?

 少し呻いて寝返りをうち、無防備にも腹を見せながら眠る少年。
 訓練が始まって二日しか経っていないが、私は彼の虜になりつつあった。

 ーー彼の笑顔が見たくなった。

 私はアイテムバッグからグレプの実を一粒出し、眠る彼の唇にあてる。
 すると、甘味に飢えているのかチュウチュウと吸い出した。

 それを暫く眺め、彼の甘美な唇から雫が一筋流れる。ソッと頬に手を触れて……ハッと気が付いて我にかえる。

 ーーあぶなっ!襲いかかるところだったわっ!

 笑顔が見たいという傍から、涙で濡れるかも知れない行為に及ぶところだった。

 ーーもっと彼に信頼されなければ。

 何が出来るか
 何をするべきか
 何をしたら彼を喜ばせられるか考えた。

 その時の集中力と思考速度は、隣国との小競り合いの中、獅子奮迅の作戦を思い付き、我が国に完全勝利をもたらした時よりも深く思考する事になった。

 そこで一つの妙案が浮かんだ。

 「そうだ! 友人を作らせよう! ちょうど同郷の者が王都に居るではないか! アレを使おう!」

 無二の親友を紹介してくれた私を彼はきっと信頼して頼ってくれる筈だと確信した私は、地竜を起こすとそのまま王都へと向かった。

 彼が心配しない様に手紙も残した。
 起きて直ぐに確認出来るように地面にしたためて。

 地竜の脚は速い。
 油断していると振り落とされてしまう程に。普段の私なら落竜落馬する事など無かったが、彼との逢瀬を妄想する度に落ちた。

 『主様? 具合が悪いなら何も無理する事など無いのでは?』

 心配してか、地竜は私に助言してくれる。
 だが、今でないと駄目なのだ。
 信用を失ってしまった私を救うには、今すぐ行動に移し、信頼を取り戻さなければ!

 「構わぬっ! 急げっ! 今夜には連れて帰るのだ!」

 そう急かして地竜の背に再び跨る。
 その後数回落ちたが、その都度気合を入れた。


 全ては彼と私のめくるめく堪能な日々の為に。

 

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...