異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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25 苦悩するマキシム・ゴッドイーター①

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 国枝慎吾くにえだしんご
 彼と出会ったのは随分昔になる。
 幼稚園児くらいの時だから、幼馴染といえる存在だろう。
 彼は常に人気者だった。
 男女の差別なく誰でも等しく扱うからだ。
 運動神経も良く、告白してる人数も指の数より多いだろう。
 手の指ではなく、全ての指の数ね?
 だが、振る数も同じ数だった。
 彼が誰かと付き合ったという話は、一度も聞いたことはなかった。
 小学も中学もクラスまでも常に一緒だったのにだ。

 そんな彼に俺は告白された。
 冗談かと思ったらマジだった。
 数年経つ頃には、性同一障害という言葉を聞くようになり、彼もそうなのかもと思い始めた。
 なら、仕方ない。
 彼にとっては、俺は異性なのだろうから。
 高校は違う学校へとお互い進み、社会人になった頃にも会う事は無かった。
 だからもし、再び会う機会があったら普通に接しよう。そう思ってたので、クラス会の話が出た時は少し楽しみだった。


 『海人くん知ってる? 慎吾ってバイなんだよ?』

 俺が彼を探していた事に気が付いたクラスメイトからそんなことを聞くまでは。

 当時こっそり付き合っていたとバラし始めた女は、中二くらいで彼と寝たそうだ。

 そして「俺他にも好きなやつ居るんだけど、そいつも混ぜてヤリたい」と、言い出したそうだ。
 別れた原因はそれだったらしい。

 二人の男子に廻されると最初思っていたが、違くて……。
 彼は自慰が趣味だったらしく、付き合い初めの頃から見せあいっこを強要されたそうだ。
 そして過剰な自慰をする内に、満たされなくなった彼は、とある雑誌をバイブルにし始めたそうだ。

 それが、ハード系のSM雑誌だったそうな……。

 その対象に奴は、あろう事が俺を選んだんだそうだ。
 全ッ然!性同一障害なんてものでは無かったのだ。

 なので、コイツは自他共に認める【変態】なのである。

 そんな奴がなぜここに居るのか……。

 他県とかで会うならまだしも、ここは異世界である。
 会いたいと思っても会いに来る事は普通は出来ない。そんな場所に居るのだから、驚愕して何も話せなくなるのは当然だろう?

 「あれ? もしかして忘れた? 姿形は中学の頃になってるから、憶えてると思ってたけど……印象薄かった?」

 何も言わない俺に構わず延々と話し続ける国枝はテンションが爆発しているのか、構わず話し掛ける。

 「最初聴いたときは驚いたぜ! まさか、お前がこっちにまで来てるとはな……まさか、俺を追い掛けて……とかじゃないよな? まぁ、そっちのが先だったみたいだし、それはないかっ まぁ再びこうして会えて俺は嬉しいぜ! しかも、中学の時のまんまのお前に会えるなんてさ! これはもう運命だよ! お前もそう思うだろう?」

 そう言ってどさくさに紛れて肩を抱いて来たので、取り敢えず首に手刀を落として黙らせた。

 

 ☆


 吾輩の名前はマキシム・ゴッドイーター
 元王国騎士団所属竜騎士第一部隊の隊長であった。
 引退後はとある森の中で使役した地竜と共に過ごしていたのだが、地竜の友人で炎帝殿に頼まれて、とある少年の世話を任された。

 その少年の訓練に付き合う為に、向かう途中でピンクコブリンに追い回された。
 どんな屈強な戦士も奴等に掛かれば赤子同然に扱われ、捻じ伏せられるから見つけ次第逃げろと教わった。
 災害ランクS級クラスの魔人なのだ。

 長い人生だったが、こんな場所で終わってたまるかと思い、必死で儂は逃げた。

 戦場跡地の大分近くに来ていたらしく、藪から飛び出した先にその少年は居た。

 少女の様な顔と華奢な体はとても男には見えなかったので、最初は少年ではないと思い、ピンクゴブリンを引き連れたまま近付いた。
 ピンクゴブリンは雄しか狙わない。
 そんな事は常識だったから、彼女が襲われる事は無いと思った。
 しかし近づくにつれて、違和感を感じた。
 数歩先から漂う香りを嗅いだ瞬間確信へと変わる。

 少女と思っていたこの子こそが、炎帝の言っていた少年なのだと!

 私は自他共に認める男色化である。
 この話は今となってはかなり有名な話である。
 元々武人には男色化は多い。
 私の父も祖父も趣味の一貫として、男色を嗜んでいた。
 父も祖父も結婚をして子供を作り終わると、男娼を囲って過ごしていたものだ。

 当然私もそうなる予定だった。
 だがしかし、私は筋金入りだったらしく政略結婚すら出来なかったのだ。
 女を見ると途端に蕁麻疹が出る始末。
 そんな私の元に娶らせる訳にも行かないと思い、当時婚約していた彼女とその家に断りを入れ、白紙に戻させてもらった。

 なので、この歳になっても独りであったし、これからも独りで有ろうとした。
 だからこその森住まいだったのだ。

 そんな私の鼻は臭いに敏感になっていたようで、その人の体臭を嗅げば性別が分かる様になっていた。

 その鼻が言うのだ!
 この子は少年だと!男だと!
 私は焦った!不味い!ピンクゴブリンを連れてきてしまった!
 こんな幼気な少年が襲われるかも知れないと思った私は、佇む少年に向かって叫んだ!
 逃げろと!
 だが、遅かった。
 彼の目の前にはピンクゴブリンが居た。
 終わった……。そう思っていたが、なんと少年はピンクゴブリンを倒したのだ!

 信じられない光景だった。
 私の先輩も私よりも遥かに強い同胞達が何人もピンクゴブリンの餌食にされたからだ。
 誰一人抵抗虚しくヤツの前で膝を付いたのに、華奢な少年が倒したのだ。

 流石は炎帝のお眼鏡に叶う御仁だ。
 そんな彼に私は指南するのかと思うと心が踊った。

 が……。いざ素振りをやらせてみれば全然駄目。細剣に変えても禄に振れない。
 災害級の魔人であるピンクゴブリンを倒したのは、夢だったのでは?と、疑うレベルだった。
 仕方なくその日は筋トレだけを行った。
 プルプルと震える彼を見てため息を吐く。

 私は頭を悩ませた。
 如何すれば良いのか分からなくなったのだ。
 だが、木剣ならどうじゃ?
 木剣ならひ弱な彼でも振れるのではないかと思い始めた。
 木剣など成人前の子供達に戯れで教える時に使う物だった。
 だがこの少年力量から考えると、そんな子供達よりも弱いかもしれないのだ。
 普通に生きるだけなら女性でも細剣くらい振るのがこの世界の常識なので、木剣の事は初めから私の訓練メニューには入っていなかった。

 その次の日、生木から作った木剣を持たせたらようやく素振りらしい形になった。
 それなのに、疲労が貯まっているのか動けず……、仕方ないので再び筋トレをさせればプルプルと震えたままだ。

 本当にどうしょうもない……。
 だが、胆力はある様で私を見上げながら怒鳴ってきた。休ませろと、涙声で……。

 そんな彼を見た私は……。
 プルプルと震える体に、小さなお尻……。ヤバイ!これはヤバイ!

 私は焦って休みの許可を出すと、素早く彼から距離を取る。

 「煩悩退散っ!煩悩退散っ!」
 呪文の様に唱えながら邪念を打ち払う如く素振りを繰り返す。

 流石に炎帝の囲う者に手を出す訳にはいかないのだ。

 だがあの尻は中々……。思い浮かべるだけで力がみなぎった。

 「くっ……!誘惑には負けぬぞっ! うおおおおおおおっ‼」

 この日私は現役時代を超える程の力で素振りをした。

    
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