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しおりを挟む腹が減って目を覚ます。
夢の中で美味しそうな干し葡萄パンを食べていたので、涎が溢れて一筋の線が流れていた。
アニキがいた時は肉と野菜しか食べれなかったが、毎日腹いっぱい食べれていた。
まだ訓練が始まって二日くらいしか経っていないが、食べた物と言えば干し肉だけである。
変態も似たような物しか囓っていなかった。父竜に関してはアニキと同じで生食なのか、食事の時間になると姿を見たことが無かったから、森へと狩りに行ってそのまま丸呑みだと思う。
ーーこれはマズい……気がする。
確かに山の様に食材は買ってあるが、野菜と果物に小麦粉だ。肉は現地調達すると思っていたので買ってない。
あるのは干し肉だけだ。
しかも野営用だから数量としてはそんなに無い。
ーーあ、詰んだ?……いや!作ろう!てか!作らなきゃ!
夜中なのか明け方なのか時間は分からないが、訓練ばかりに気を取られている場合では無い事に、今更気が付いた俺はガバリと起きると掛けていた藁を跳ね除ける。
隣に縛って転がして置いた変態の姿も父竜の姿も見えなかったが、気にせず俺は玄関脇の瓦礫の山を漁り始めた。
相変わらず外に寝てるので、瓦礫もすぐ側にある。適当に形の合う瓦礫を積んで竈の様な形を作ると、そこに川の底にある粘土質の土に寝藁をそのまま練りこんで、踏みしめながら混ぜ合わせた。
生コンの代わりにして、瓦礫の間の隙間を埋めようと思ったのだ。
それを焼けば、そのまま乾燥も出来るので一石二鳥である。
深夜何時かまったく分からないが、そんな時間にやる事ではない気もするが、俺の頭の中には夢で見た葡萄パンがまだ残っていた。
それを作って焼いて食べたいという願望が、今の行動の動力源に成っていた。
一心不乱に作り続けた焼窯風瓦礫竈は、結構直ぐに出来上がった。
会社で芋煮会をやる事になり、場所を確保すると言っていた先輩が、まさかのインフルエンザで寝込み、その跡まったく場所を抑える作業をしていなかった為に、いざ食材を集めて、さあっ!来週から出掛けるけど場所は何処になったの?という、部長の言葉で何処も予約を取っていないことが判明。その跡、家族に芋煮会するって言っちゃんたんだからどうにかしろ!っていう、無茶振りの様な業務命令が下り大勢の人数が入れる場所など1週間前じゃ取れるはずもなく、急遽会社の屋上で簡易的だが竈やバーベキュー様の囲炉裏?を、作って凌いだ過去がある。
その時培った技術が今ここで遺憾なく発揮されているようだ。
何とも皮肉な話である。
向こうの世界で、まるで役に立たなかったスキルが、こんな世界にやってきた事で役に立つ事になるとは……。
因みにパンも屋上で焼いた。
河原で釣りをしたかったと泣いて部長に縋った馬鹿息子の期待に応えようと、芋煮会をやってる最中に言い出した部長の「何とかしろ!」という業務命令に従い、釣りとはまったく関係無かったが、注意は引けたようで楽しくパン作りに混ぜて有耶無耶にした事があったのだ。
本当にあの芋煮会のお陰で、俺は二度とキャンプをやりたくないと言わしめる程のトラウマを俺に植え付けてくれた。
キャンプ自体は楽しかったのだが、病気になったから俺は無関係と言って放り出したのに、しれっと当日家族で現れて参加してた先輩と、「ワシの可愛い息子ちゃんの為にお前が責任取れ!」と、全て丸投げの万年無能ハゲ部長の無茶振りのお陰で俺はキャンプが大ッキライになったのだ。
無理矢理竈の造り方を徹夜してSNSの動画サイトを見まくって覚え、石ころで小さな模型を作ってテストしたあの日……。
ようやく完成した俺の汗と苦労の結晶的な竈を、その日の内に破壊しやがって……。
少し涙ぐむ。
鼻水を啜って顔を叩く。
ーー忘れよう。
もう、戻れない筈の世界の話はきっぱりサッパリ忘れて今を楽しもう。
取り敢えず過去のお陰で今こうして竈が作れた事を素直に喜ぶことにして、竈の水分を少し飛ばす為にも他の事をし始める。
燃やして乾かそうと思っているが、流石にそのまま焼けば、生コン代わりの泥が固まる前に弾け飛ぶ。
そうなったらすべての作業が水の泡だ。
なのでふっくら焼くために必要な物を作って置く。
小麦粉と水だけで作る天然酵母。
出来上がるまでに1週間は掛かる……。
仕方ない……。取り敢えず今日は仕込みだけでもやって置こう。
松葉で炭酸を作ろうと思って買っておいた壺に、小麦粉と水を入れたらそのまま蓋をして陽のあたる場所に置いて放置した。
その跡、水と小麦粉と塩を混ぜて捏ね繰り回して種を作り、干し肉を水で少し戻して野菜を適当な大きさに切れば下準備終了。
いつも使ってる焚き火にフライパンを乗せて温めてる間に、種を平たくして戻した干し肉を乗せながら焼けば、簡易パンの出来上がりだ。
ちょっとチヂミに似てしまったが、一応料理と言える物だ。
ソーセージの様な腸詰め肉なんかは作らなきゃ無いし、日持ちしないのか店にも売っていなかった。寧ろ、見た事すらないから存在してないのかも知れない。
造り方を教えればこの地の職人でも作れるんじゃないだろうか……。
要検討だな。
街に行ける日があったら宿屋の親父さんにでも作ってもらって、ステラちゃん達と一緒に食べよう。
そんな夢の様な想像をしつつあまり美味くない飯を食べる。
結構時間が経っていたのか、空にはすっかり昇った太陽が東の空から顔を出していた。
そして気が付く。
地面に書いた手紙の様な文字と半分程踏みしめてしまって消えていた事に……。
「何か伝えたい時は起こせよっ‼ せめて紙に書いて残していけっ‼」
縛っていた縄の破片と、地面に残る消えずに残る一部を読み解くと『王都………帰る』としか、読めなかった。
まさか関係を拒んだから帰ったのか⁉
さすが変態男らしい……かは、定かではないが……。潔いとは思う。
まぁ、これで俺は訓練をしなくても良くなった……。と思ったが、鍛え上げた足腰が少しでも衰えていたら、アニキが帰ってきた時見るのは地獄である。
そう思った俺は、自己鍛錬するべくいつもの場所へと向かい、足元に転がる木剣を握ると素振りを始める。
やる気になったのはそれだけが理由ではない。
身の危険を感じたからだ。
己を守れるのは己だけ!
そう思ったらヤル気も沸々と湧いてきた。
実験もしたいが材料が足りない今は、出来る事をしよう!
竈を作り過去を思い出し、決意を新たにした俺は、いつも以上に頑張って素振りをするのだった。
素振りを一通りやってると昼を過ぎていた。
簡単に干し肉とアデルの実を数個噛って済ませると、走り込みを始める。
至る所がブレスでボッコボコになった走り辛い場所も、今ではすっかり慣れて普通に走れる程に成長。
校庭でマラソンをするかの如く走れるのだ。
勿論足場は悪いし、瓦礫も転がっている。
そんな障害物は気にならない。
その場所をいつも以上に走っていたら、夕方に成っていた。
茜色の空を見上げて、そろそろ切り上げるかと判断していたら変態達が、帰ってきた。
「……っち!」
ーー二度と帰ってこないと思っていたのに……。
父竜に跨る変態を睨むと、ふとその後に見慣れない人が増えていた。
遠目で性別は分かり辛いが、黒髪の様だ。
段々速くなる地竜の脚は、やがて土煙を舞わせて近付いてくる。
ヒョイッと軽快に父竜から飛び降りた変態が、両手を広げて迫って来た。
「おおっ!迎えに出ていてくれたのか⁉」
そんな気持ちの悪いセリフを吐きながら近付くので、玉を蹴り上げて威嚇した。
そんな俺に眉根を下げて「まだ、怒っているのかい? ほんの冗談だったのに……」と、寂しそうに言う。
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そう、あの目はガチな変態の目だ。
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その変態は目の前に現れた。
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