異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 「何だそのへっぴり腰は! もっと力を込めろ!」

 そう言いながら俺の尻を容赦なく蹴り上げる御老体。
 名をマキシム・ゴッドイーターと名乗ったこの男は、竜騎士部隊の元隊長で数年前に引退し、隠居していたらしい。

 そしてこの男に使役されていた地竜の自称アニキの父親も、主の余生を看取るべく、共に過ごしていたそうな。




 小一時間ほど続いた説教がようやく終わり、俺達は今後の予定を話し合うべくその場に車座になって座る。

 だが、納得出来ない俺は何故俺が見ず知らずの方々達に教わらなければ成らないのか聞き始めると、困惑し始めた。

 「……何だ? それなら海人は儂らの事を炎帝から何も聞いていなかったというのか?」

 マキシムの話を聞く限りでは、炎帝から依頼されこの地に来たという。

 まず……「炎帝って誰ですか?」

 全く知らない名前が出てきたので聞くと、地竜がすかさず答えた。

 『今はグレンと名乗っていた様に思われます。主様』

 「ん? なんじゃ地竜よ。 ……あっ! そうか失念していたわ。 今はグレンと名乗っていたな。はっはっは! 教えてくれて感謝する!」

 そう言い直して、俺に向き直る。

 ーーあれ?この人地竜の言葉を理解してる……のか?

 そんな事を思いながら、俺は聞いた名前に心当たりが有ると告げる。

 「あー……グレンね。会ってないし何も聞いてないよ?(寝てたし……)」

 だが、肩を掴んだのは間違いなくグレンだろう事は予想出来た。
 確かアニキを説得するのに友人を頼れと言っていたが……。

 ーーアニキの交友関係狭過ぎだろっ……。


 アニキに俺を託されたグレンは、困った。
 『次の段階へ進む為に格闘技を教えてやってくれ』そう頼まれたからだ。

 しかし飛竜にとって攻撃手段とは限られていて、噛み付きか爪で引っ掻くかブレスで消し炭にするかの3つしかないのだ。

 とても人間に教えられる事では無い。
 だが、過保護な程に扱ってる少年を無下に出来ず、古い友人を尋ねる事にした。
 その友人と言うのがアニキの父親だった。

 アニキの母竜は、突入部隊に配属されていて、敵のど真ん中で命を落としたという。
 地竜はその最後の瞬間に子を成すと云われていて、アニキの母竜も漏れなくその場で産んだらしい。

 だがそこは戦場だった。
 当然産み落とされた卵は、敵も味方も入り交えての混戦中だ。
 いつ踏まれて潰れてしまうかも分からない状況だった。

 そこをマキシムが前線を突っ切り、敵に包囲されてまで救ったのだ。
 その感謝を込めてアニキの父竜は、マキシムに服従し完全に使役されたという。


 完全使役というのは、両方の意思が合わないと契約されないのだとか。
 片方が使役したと思い込んでいたとしても、言葉は片道通行で使役した側はその言葉を理解出来ない。
 だが、完全使役になると、お互いの言ってる言葉を理解出来るのだそうだ。

 つまり、ザケヘルは未だに片道切符の使役しか出来てないって事になる。

 使役された生き物は、己の寿命が主より長い場合、主の命が尽きない限りその使役術は解けないのだという。

 ただし、主の寿命より短命な上に力も弱い場合は異なり、数人の主を持つ事で自分の身を守るのだとか……。

 つまり俺だ。
 俺の現在の状況が多数の竜種を主に持ち、言葉を交わしてる状態なのだ。

 マキシムに何故俺が、地竜と言葉を交わせているのかと聞かれたので、(認めたくないが)俺はアニキに使役されていて、言葉を理解しているのだと伝えたら、使役術の事を少し教えてくれたのだ。

 「つまり何か? えん……グレンの言葉も理解しているのか? 儂にはこの地竜を介してじゃないと、分からんというのに?」

 亜種とはいえ、使役もされてない飛竜と話が出来るのは珍しいようで、俺を特別な何かだと勘違いしたマキシムは

 「やはりお前は見どころがあるなっ! ならば早速始めようとするかっ!」

 そう言うと重そうな両手剣を取り出すと俺に放り投げ、何とか受け止めると素振りを始めろ!と、いきなり訓練を始めてしまった。

 俺はヤル気は無かったのに、体が勝手に動いて重い両手剣を握りしめ、ヨロヨロしながら素振りを始める。

 いつの間にか使役されていたようだ……。

 当然、鉄の塊である両手剣など振れる筈もなく、2回程持ち上げたあとは横にしか振れなくなっていた。

 それを見ていたマキシムは呆れ返り、両手剣をしまうと細剣を取り出した。
 それでも鉄の塊で有る事には変わらなかったので、兎に角重いのだ。

 だが俺の口は文句すら言えず……。

 ーーおいおい……隷属じゃないよね⁉

 俺は最初に出会った頃のザケヘルに嵌められた鉄の首輪の事を思い出して青くなる。

 だがそれは、思い過ごしだったようだ。
 不甲斐ない姿で倒れ込む俺を見て、取り敢えず筋力から鍛える事にしたのか、腕立て伏せを始めろ!と命令した時、俺の口からは「巫山戯るな!少しは休ませろクソ爺!」という、悪態が発せられたからな。

 まぁ、そんな事を言ったところで休む間もなく腕立て伏せを始めやがったんだが……。

 「俺の背中に重しを乗せるのは止めろっ‼ 幾ら何でもやり過ぎだろっ⁉ 何でこの世界の奴等はスパルタばっかりなんだよっ⁉」

 学習しない俺はそう叫ぶと、更に重量のある重しを乗せられるのだった。


 ☆


 腕立て伏せを無理矢理命令で限界までやった俺の腕はパンパンで、箸も持ち上げられないほどになり、ようやくマキシムのスパルタ教育が終わった。と言っても、今日は!だが……。

 意識も朦朧とする中、言われた言葉は
 「次は明朝からすぐ始めるからな!よく身体を休める様に!」だ。

 ーー休めるも何も、もうピクリとも動かないっての……。

 今度の悪態は口からは出て来なかった。
 疲れすぎて口を開けるのも億劫だったからだ。

 寝るにはまだ日は高く、取り敢えず何か口にしなきゃと思ったので、アイテムバッグから干し肉を出して口に咥える。

 ーー駄目だ……噛めん。

 疲労で朦朧としていたのか、白昼夢を見た。

 その子は白い毛皮を身に纏い、倒れる俺の口の干し肉を奪うと、その口で咀嚼し始めた。そして何と口移しで食べさせてくれるではないか!

 まるでもの○け姫のサ○の如く……。

 ーー夢でも覚めないで……っ!

 ッと、思ったのも束の間……。その現実はやって来た。

 白い毛皮と思っていたのは地竜の胸毛で、口移しをしてるのはアニキの父竜だった。

 だが、悲しい事に俺には抵抗する力も無かったのだ。
 されるがままにその噛み砕かれた干し肉を飲み込まなければならないこの悲劇……。

 ーーなんの罰なのっ⁉

 俺は涙目になると、そのまま意識を手放した。


 気絶じゃないです!
 寝たんです!




 変な時間に寝たからなのか、その日の夜に目が覚めた。

 体は筋肉痛なのか、重く感じる。
 だが、喉が乾いていた俺は何とか歩いて川岸へと向かった。

 ゴクゴクと喉を鳴らせながら乾いた体に命の水を流し終わると、一息吐く。

 外はいつの間にか夜になっていた。
 その横では、鼾をかいて寝ているマキシムの姿がある。

 俺達は建物の中では寝ていなかった様だ。

 「随分豪快な御仁だな……先が思いやられる」

 そんな事を呟いていると、聞こえたのか無意識なのか蹴りが飛んで来て俺は吹き飛んだ。

 「寝相もここまで来ると悪意を感じるな……」

 俺は脇腹を抑えて、マキシムから遠ざかると、横になった。

 そして目を瞑ると直ぐに寝息を立て始めた。

 だから俺は気が付かなかったのだ。

 そこに寝ている筈のもう一匹が居ない事に。
 

 

 
 
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