異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 「……見慣れない星座だ」

 何度となく気絶する俺は、起きた時の景色を楽しむ程の余裕が生まれていた。

 その余裕があるならいい加減慣れて気絶はするな!と、自分自身に言い聞かせたいが、俺は自他ともに認めるほどのビビリねのだ。
 怖い物は怖いし、慣れろという方が無理なのだ。

 そんな事をキラキラと光り輝く星を眺めながら考えているが、一向に誰も声もかけて来ない。何時もだったら意識が戻った俺を気絶させた当事者か関係者が気付いて話し掛けて来るのに……。

 不思議に思った俺は上半身を起こして自分の周りに誰もいない事を察する。

 月明かりが眩しく、夜目が効かない俺でも周りを確認出来た。
 どうやら此処は、いつも走り込んでる広場らしい。
 てっきり俺は、肩を掴まれて空を飛んだので、赤い鱗のどっかの無茶振り野郎が、問答無用で自分の巣穴にでも連れて行ったのかもと想像していたんだが……違ったようだ。

 寧ろなんで態々数分でたどり着ける場所に、いちいち空中に運んだんだボケナスっ!と、憤っても良さそうな筈なのだが、言う相手が側にいないと、人間無言になるものだ。

 普段陽気な奴が「俺……一人になると余り喋らないんだ」等と寂し気にナンパした相手に呟く輩が居たが、当たり前である。
 寧ろ一人なのに陽気に喋ってたら何かのヤバイ薬をやってる奴としか思われねーだろう。

 なので、俺も文句を言う相手が居ないので、無言で誰か居ないかキョロキョロと見回した。だが、聞こえるのは虫の声や何かの鳥の鳴き声くらいで、特に……あれ?

 この世界の虫といえば、生態がおかしいのか大気が濃いのか理由は分からないが、かなり巨大なのだ。

 なので、虫の声は寧ろ虫の叫び的な感じで響き渡るのだが、夜行性では無いのか昼間しか叫び声は聞こえないのだ。

 それなのに聞こえるのは何故……?

 俺は異常を感じ取って(今更)立ち上がる。

 武器は無い。
 魔法も使えない。
 攻撃手段が無い。
 逃げなければっ!

 脳味噌をフル稼働させて出た答えがこれである。

 普通のこの世界の住民ならば、起き上がった瞬間。というか、意識が戻った瞬間から、走り出して逃げているのだが、危機感が薄れた国出身で、平和ボケをボケてると感じてさえいなかったのが祟って逃げ遅れてしまった。

 因みに大型の虫でも肉食では無いので、性格は温厚なのが、この世界の虫だ。
 襲われれば当然抵抗して襲い掛かってくるが、普段は大人しく側を歩いてるだけでは襲われる心配が無いのだ。
 でないと街で農作業などに出かける度に襲われて、今頃は人類が絶滅危惧種に成っているかも知れないのだ。
 それだけ多く生息しているのが、この世界の虫である。

 つまり、夜行性でもない虫が鳴く状況とは、寝込みを襲った者が居るか、その他の原因だろう。

 虫の声と勘違いしてしまった事から考えても、此処からだいぶ遠い場所で鳴いているのが分かる。

 つまりそこまで焦って逃げる必要も無いという事だ。
 決して平和ボケしてるからでは無い。

 俺は虫の声が聞こえた方向を一応警戒しながら身構えていると、目の前の藪から地竜が現れた。

 一瞬アニキと勘違いしてしまったが、よく見るとその地竜は月明かりにゴツゴツとした肌をしていた。
 月灯りに照らされているので、質感までよく見えたのだ。
 アニキもゴツゴツとしているが、どことなく滑らかなので、その違いは見慣れてる俺にはよく分かった。

 そしてキラリと光る甲冑を着ているのだ。アニキは生肌派なのか、甲冑を嫌って着けない。
 偶に着てても革製を好むのだ。

 尚且つ、目の前から迫り来る地竜の背には騎士っぽい人が乗っていた。

 それだけ見ても、アニキとは違う個体だと分かるだろう。

 俺がのんびりそんな事を考えていると、俺に気がついたのか、竜騎士が叫ぶ。

 「何を突っ立ている⁉ 逃げろ! ピンクゴブリンが出たんだ!」

 通り過ぎながらそう言ってきた。

 だがしかし、考えてみてほしい。

 すれ違いざまに言うってことは、先ず『何を突っ立ている』←此処で俺の横か少し手前で言っているのだ。

 そして『逃げろ!ピンクゴブリンが出たんだ』←此処で既に俺を追い越し、後ろから叫んでいる。

 つまり……。

 屈強な竜騎士を追いかけ回している件のピンゴブリンは、今現在標的を俺に変えて目の前に立っている事が分かるだろう。

 「つまり詰みって事だ‼ バカーー!」

 そんな俺の叫びが心地良いのかピンクゴブリンは舌なめずりを……していなかった。

 しきりに首を傾げて、一向に襲われる気配がしなかった。

 俺の顔を見ては首を傾げ、ヒクヒクと匂いを嗅ぐ仕草をする。

 なので、俺に心と体に余裕が生まれた。
 一向に襲っては来ないのだが、匂いを嗅ぐ度にジリジリと寄って来てはいるのだ。

 俺を観察するように、俺ピンクゴブリンを観察する。

 体躯は普通のゴブリンと同じ小柄で腹だけデカイ餓鬼の様な感じだ。
 そして、顔は鬼の子の様な厳つい顔に牙も見えている。
 そして、ガニ股で……そこにぶら下がるブツは、異常な程の大きさだった。
 こんなモノで刺されたら切れ痔どころか避けてしまうだろう。
 そしてもう一つ、尋常じゃないのは腕の力瘤だろうか?

 屈強な体で、肉体こそこの世のすべて!とか、普通に叫び出しそうな筋肉達磨きんにくだるま達を赤子の様に扱ってきただけはある様で、腕の筋肉だけが以上に発達しているのか、アンバランスな体躯をしていた。

 たが、ガニ股である!
 つまり、弱点を隠しもしないでプラプラとぶら下げているのだ!

 俺は虎視眈々とチャンスを伺い、狙いを気取られ無い様に時期を待つ。

 匂いを嗅いでようやく俺が男だと思い始めたのか、ピンクゴブリンは首を傾げつつも手をゆっくりと伸ばし始めた。

 服を脱がせば分かるとでも思っているのか、俺の顔から視線を落として服だけを見ている。

 『チャンスだ!』

 俺は心の中で叫ぶと、奴の玉袋目掛けて2ヶ月間鍛えに鍛えた脚を鋭くかち上げた!

 油断して俺から目線を下げたピンクゴブリンの玉袋は、俺の脚をモロに食い込ませ、一瞬で中の玉がひしゃげる。
 その脚の勢いは止まることなく、ゴブリンの恥骨との間に挟まれた玉は『プチ』っと、いう音を置き去りに、ゴブリンの小さな体躯を持ち上げた。

 落ちてきたタイミングを合わせながら、手を緩めることなく俺は、次の行動に移す!
 ゴブリンの細い首に手刀を両手で叩き込んだのだ!

 首にはどんな生き物にも頸動脈が付いている。そこを絞めれば気絶するのは、柔道技にもあるだろう。
 そして、そこを軽く叩いても気絶するのだ!(動画にあった)

 それを思い出した俺はゴブリンで試したのだ。

 そしてそれは見事に決まり、既に玉を潰されて半死半生だったかも知れないピンクゴブリンは、泡を吹いて白目になりながら倒れた。

 そこで手を緩めない俺!(褒めていいのよ?)
 恐怖からか腰に下げてた解体用のナイフを抜くと、ゴブリンの首に突き立てトドメを刺したのだ!



 この一連の動きを、目と口とを大きく開けて唖然と佇む竜騎士は、呆然としたのか暫く動けなかった。


 ☆


 その後俺は、初めて倒した獲物を埋める為に穴を掘っている。
 そして、その横では……

 「貴殿は中々見所がある様にお見受けする!歴戦の勇者たる吾輩が特別に其方の剣の師匠になってやろう!」

 と、一人の御老体が宣っていた。

 「何でも良いから穴掘り手伝ってくれませんか?」

 だが、俺の言葉は聞こえていないようだ。

 そしてそのご老体の横でも、器用に短い手を交差させて腕を組みながら俺を見下ろしながら言う。

 『我が愛娘を籠絡するだけの事はある様だ!気に入った!我が祖先が編み出した竜脚拳を特別に指南してやろう! 我をこれから師匠と呼ぶ事を許す!』

 そんな事を宣う御老体の方々に俺は無視するかの様に振る舞う。

 「何でも良いから、ゴブリン埋めるの手伝ってくださいよぅ。あんたらが連れてきた魔物でしょー?」

 そんな俺の言葉を全く聞いていないのか、ふんぞり返って高笑いをしていた御老体達は、俺が埋め終わるのを見計らって何か質問はあるか?と、聞いてきた。

 「見てたんなら手伝ってくれたって……はぁ、まぁ良いですけど……てか、質問ですか? そうですねぇ……あ、娘って誰の事ですか?」

 そう聞いたのが不味かったのか、思っていた質問が違ったのか、顔を赤くして怒り出した地竜とたわわに実らせた白髭を揺らしながらフルフルと握り拳を作る御老体に、小一時間ほど説教をされたのだった。


 

 






 

 
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