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しおりを挟む滝壺の拠点を目指す馬車は、北東にそびえる山を迂回しながら二日程野営を行った先にあると言う。
山を迂回すると、エルフの住む森を突っ切って行く為、地竜は避けて行く方法を選んだんじゃないかというのが、ザケヘルの見解だった。
地竜に恩のあるエルフが、アニキを見つけた場合、必ず捕まって歓迎される様だ。
今現在、二日目の野営場所で巡回していたエルフの戦士達に囲まれて、歓迎の宴を開かれている最中だ。
当然、主賓席にはアニキが座らされ、主人であるザケヘルは蚊帳の外にされている。
使役されてる側からすれば、あまり居心地は良く無いのか、珍しくアニキはソワソワと落ち着かない様子で、チラチラとザケヘルの様子を伺っているようだ。
そして、何故か俺はアニキの横に座らされている。
歓待の宴が始まる寸前、俺の入った箱毎主賓席に座らされたアニキは、座るのに邪魔な背負子を降ろし、横に置いた。
当然俺は、拠点に着いたのかと思って箱の中から顔を出した。
そして、目が合う俺とエルフ達。
当初戸惑った態度をしていたエルフ達だったが、風の噂で地竜が愛玩具を手に入れたという話を聞いた事があると、そこに居た一人のエルフが呟いた。
そして、俺を見て『なるほど! この子がそうか!』と、納得したらしく。
俺を箱の中から取り出すと、アニキの横に鎮座させた。
ザケヘルの方へと行こうとする度に止められるので、俺も諦めてアニキと共に歓待を受けている最中なのだ。
ーー確かにこれは面倒臭い。
まず始めに、過去の功績をつらつらと述べられた跡、お祈りの儀式なのかシャーマンぽい方々が現れて、踊りだした。
その時亡くなった同胞達を弔う為の踊りらしい。
それが終わると、人間相手だったら呑めや唄えやが始まると思うのだが、地竜相手では違うらしい。
ほぼ神という様な立ち位置なのか、お供え物の果物以外は俺達の前には置かれておらず、目の前で飲み食いしてる彼等を眺めて居るだけなのだ。
横に居るアニキを見ると、シャリシャリと一つ二つ果物を食べた跡は、横になって寝てしまっているし。俺は俺で、移動しようとする度に「動かないでください、主様が寂しがります」と、厳かに言われて引き止められるのだ。
ザケヘルはどうしてるのかと見てみると、見目麗しいエルフの方々にお酌されて、いい感じに酔ってやがるし。
これがすぐ終わるならまだ許せるが、2時間である。2時間座りっぱなしの中、飯も食えずに鎮座させられる身としては、苦痛でしかなかった。
ーーアニキと二人で移動する時は、必ずこの箱を背負ってもらって、山越えの道を行ってもらおう。
そう思ったのは当然の事だろう。
二日酔いなのか、中々起きて来ないザケヘルを叩き起こすと、出発の準備をさせた。俺は箱の中へと自ら入り、アニキに背負ってもらう。
因みに、御者台にザケヘルと共に座っていた男は、ドワーフで細細工を生業としている男だそうだ。
何でもザケヘルから俺が売った腕時計を作る依頼を受けたのだが、細か過ぎる部品を作る事は出来ないと、一度は断ったらしい。
だが、どうしてもと頼まれた男は、帝国の街に細かい作業が出来る知り合いが居るから説得してみると言って、一人で出掛けようとしたのだが、其処にザケヘルがどうせ行くなら俺も行くと言って、共に馬車で向かう事になったそうだ。
当然馬車で行くとなると、荷車を引くアニキが必要になる。
するとアニキは反抗したそうだ。
アニキが言うには、『やっと基礎体力を付けたのに、ここで辞めたら最初からやり直しになる!』
だから残ると駄々をこねたらしい。
それでも、ザケヘルは折れなかったようで(良いぞ!)なら、修行を頼める相手と連絡を取って、任せたら良いだろう?と、なったらしい。
そんな話をモタモタと鈍い動きで出立の準備に手間取るザケヘルを眺めている時に、ドワーフの男に話し掛けられて聞いた今回の経緯である。
ドワーフは酒を浴びる程呑んでも酔わないのか、シャンとしていた。
その事を褒めると、「儂は誘われてねーよ?」と不機嫌になった。
昨晩の宴で呑まなかったのかと聞くと、どうやらワザと呑まなかった訳ではなく、振る舞われなかった様だ。
男が言うにはドワーフとエルフは仲は昔から頗る悪く、会えば必ず喧嘩になっていたのだそうだ、それが悪化した数十年前、お互いを空気として扱う様になったそうだ。
なので、今回の宴でも空気として扱われ、その場に男の席は初めから無かったそうな。
だが、ドワーフも酒を目の前にして黙っている訳もなく、空気の様に振る舞って勝手に摘みの肉と酒樽毎掻っ攫って別の場所で呑んでいたそうだ。
ーー何とも逞しい……。
そうこうしてる間に、準備が整ったようで、馬車は動き出した。
森を抜けると泉から流れる川沿いを、城塞都市の方向へと戻る様に走る。
2キロほど下ると、川は途切れて滝壺へと落ちていく場所に出る。
そこから眺める景色から、俺が走り込んでいた場所が一望出来た。
その手前というか、崖になってる目の前には、化石となった世界樹の切り株の屋上へと続く橋が掛けられていて、馬車毎移動出来た。
こんなに安全に来れた事に愕然と眺める俺の横で、馬車から降りたザケヘルは屋上の真ん中付近を探っていた。
何をしてるのかと聞こうとしたら、目の前の床部分が持ち上がり、階段が現れた。
つまりそこが、出入り口だったのだ。
2ヶ月間住んでいて何故気が付かなかったのか、それはアニキの寝てる部屋と俺が寝てる場所が違ったから。
アニキの拠点には灯りが無いのだ。
当然、昼間なのにアニキの部屋は暗い。
そして、夜目の効くアニキならいざ知らず、俺は普通の人間なので暗がりは当然見えない。
なので俺は、せめて日の当たる場所で過ごしたいと言ったところ、充てがわれた場所は、この住処のエントランスだった。
つまり、玄関である。
玄関と言っても、扉は無い。
無いというか、吹き飛んだらしく蝶番らしき物体しかなかった。
其処に瓦礫を集めて壁を作り、藁を敷いて寝ていたのだ。
なので、アニキの部屋から他の部屋へと続く階段の存在など知る由もなかった。
ーーそう言えば材木……買い忘れたな……。
待ちに行ったら買おうと思っていた建材を忘れていた事を思い出した。
瓦礫で作った壁には隙間風が多く、雨の降る夜には少し肌寒いのだ。
失敗したなぁと思っていたが、そういえばと思い出す。
ーーアニキ達はこれから帝国へと向かうんだったな⁉
なんだよ、そうだよ! だからこそ、道案内も兼ねてのここ迄の旅だったんじゃないか!
そう思うと、一気に心も体も軽くなる気分になった。
「一応魔導具のランタンは置いていくからな? 階段は暗いだろう?」
そう言って二三個のランタンを置いていった。
ザケヘル達に礼と旅路を祈ると伝えると、「お前も修行、頑張れな? 死ぬなよ?」そう言って旅立った。
俺は何のことかよく分からなかったが、一人でこの場に残る俺を心配していると捉えたので、ありがとう!といって、送り出した。
遠くへ消えるまで見送った俺は、ランタンを片手に鼻歌を歌いながら足取りも軽く、地上へと向かう階段を降りていく。
屋上から降りて直ぐに部屋があった。
其処は焼け焦げてはおらず、大量の埃だけが積み重なり、放置されていた年月を思い起こさせる。
此処を寝床にすれば良さそうだ。
少し掃除は大変かも知れないが、時間はある。
此処から帝国までは片道で三ヶ月は掛かるらしい。
そういえば四ヶ月かそこらで領主に会うんじゃないのか?と、思っていたのだが。
この2日間の間に聞いた話によると、王都に現れた迷い人は、魔法学園へと通う事になり、そこへ領主の息子を通わせ、迷い人と同級生になり、この街に滞在出来ないか説得する計画を立てたそうだ。なので、当分帰ってこない事が判明したそうだ。
父親だけでも戻る事はできるだろうけど、息子が跡取りなのか子煩悩なのか定かではないが、離れたく無いらしい。
領地経営は執事に一任したそうだ。
まぁ、それで帝国への旅に行こうと決意したというのだから、俺にとっても良かった。
取り敢えず、掃除用具を取りに元いた寝床へと向かうと、玄関から出た先で俺は捕まった。
ガシっと何かに両肩を掴まれた俺は、空を飛んでいた。
声も出せずに何が起こっているのか分からず混乱し、いつものように視界が暗転したのだった。
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