異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

文字の大きさ
上 下
16 / 77

16

しおりを挟む


 鍛冶屋通りに入ると直ぐに、金物屋が軒を連ねる場所に出る。
 売り物を物色しながらテクテクと歩むが、パッと見た感じだと剣や大鎌、盾に短剣ととても剣と魔法の世界感らしくファンタジーで溢れていた。

 杖は無いのかと、少し浮かれて聞いた見たら無かった。というか、御老人が使う杖ならあったが、俺の思うハリーでポッターな短杖や、キラキラと光の粒が舞散る中を、体のラインをいやらしく魅せながら小学生が変身しちゃう星型ステッキは無いそうだ。
 確かに散々ラノベで読んだ魔法の使える異世界には来たが、ファイヤーボールやらアイスウォールやら、メラやらザキと言った類の魔法は無い様だ。

 せいぜい使えるのは、生活魔法に使う魔力を増大させて攻撃に使ってる感がある。

 例えば炎なら、火炎放射器並の威力で魔力を出して攻撃。
 当たれば5分くらいで消し炭だ。
 水や風も似たような使い方をする。
 それと、複合魔法。
 風と土を混ぜて竜巻の様にしながら雷を作り、それで攻撃する。
 炎と風を混ぜて炎の柱も作れる様だ。
 まぁ、それなりの攻撃力はあるらしいが、兎に角使う魔力の燃費も悪くて放っても二発が限度らしい。

 そして、そんな魔力を持つ奴はあまり多く無い。つまり、魔法で攻撃出来る奴は巷に居らず、杖を扱う奴も皆無。
 なので発明されて来なかったらしい。

 なので、剣だけの世界と言っても過言では無い。まぁ、冒険者に限るけど。

 そして、剣や盾は武器屋や防具屋にある物だと普通に俺も思っていたが、武器屋とか防具屋といった類の店もこの世界には無いらしく、殆どの物は同じ金物屋で並べられていた。

 人が多いのだから、店を分けて作れば良いのにと、俺ですら思っていたのだが、そもそもな話で商人に成れる人間が少なすぎるのだ。

 冒険者ランクが最低でもCランク無いと商人に転職出来ないというのだから、その数は数えなくとも想像出来る。

 ハードルが高過ぎて、商才があっても物を売る資格すら持てない世界なのだ。
 そりゃ、店だって減るという物だ。
 それでも田舎の電気屋さんの様に、テレビの横で野菜は売ってなかったがな。
 野菜や食べ物はちゃんと市場で売られていたし、小麦やなんかも……。

 「あ、小麦粉忘れたな……後で買いに戻ろう」

 金物屋に並ぶ物を眺めながらツラツラと誰かに説明する様にブツフツと独り言を呟いていた俺は、森に唯一無かった食材の1つ。
 炭水化物の存在を思い出した。
 しかし、粉物はこの鍛冶屋通りの反対側にある、高台に立ち並ぶ風車まで行かないと無いのだ。
 市場にあるのは脱穀してない小麦なら売っていたが、種籾として売っているので、農業に準じる者にしか、卸せないと断られたのだ。

 一般人と農業家との違いは何だろう……。見た目で分かるものなのか? 頑なに俺には種籾を売らない店主に聞いたが、長年の感としか言われなかった。

 取り敢えず、小麦粉を買うと心のメモ帳に印した後、俺は目当ての物が店先に並べられていないのを確認したので、金物屋群の裏に並ぶ鍛冶屋の工房へと足を向けた。

 鍛冶屋から出る音は非常に煩く、街中まちなかに工房は有るが、壁の近くだったし風の通りの良い一角だけに纏められて居るそうだ。
 一応音を遮る結界が施されているらしいが、街の壁が拡がる度に金物屋の店毎引っ越しになるので、結界の細かい設定をされる訳もなく、せめてもの足掻きで風通りの良い場所で鍛冶屋から出る音も吹き流そうと思ってるらしい。
 その効果はあった様で、裏通りに足を一本入った瞬間、耳の鼓膜を破ろうとしているかの様な凄まじい音が鼓膜を貫いた。

 トンテンカンテンと耳にも心地よい音が鳴るのは木材問屋だが、鍛冶屋通りはガンガンドゴンと鳴っている。

 最後のドゴンが、何をしたら出る音なのか想像出来なかったので、その音がする工房へと頭を突っ込んだ。

 するとそこには、可愛らしい顔で華奢な感じの少女が、大人でも片手で持ち上げられないと思われる大きな金槌で、石のような物を砕いている姿だった。

 俺が唖然と見ている事に気が付いたのか、その石を叩いていた少女が手を止めて砕いた石の破片が付いた掌を叩く様な仕草をしながら、俺の側まで来ると

 「魔石の買い取りかい? キロ単価銅貨1枚だけど良いか?」

 と、聞いてきた。
 どうやら此処は、魔石を加工する工房だったらしい。

 俺は両手と頭を振って「違います!見学をしていただけです!」と、言った。その後続ける様に少女に質問をする。

 「君は未成年では無いの? 魔力無しでも働けるの?」と、聞いた。もし、これでそうだと言われたら、俺も此処で雇って貰いたかったからだ。魔力も無く、戦わずとも良い仕事場があるなら、何も修行などする事は無いのだ。地竜アニキを説得という命令をしながら御土産という賄賂を駆使して師弟関係を解除してもらおう。
 そう思った俺だったが、少女の可愛らしい顔は横に揺れていた。

 「私は魔力持ちだよ、それに未成年でもない! アンタこの街の人間じゃ無いね? 
 こんななりだから偶に間違われるが、私はドワーフだよ! 攫いに来たのならそう言いな! その玉握り潰してスライムの餌にしてやるよ!」

 そう怒鳴って両手で俺の股間を掴むと、コリコリと玉を握られた。

 俺はその痛みに耐えながら顔を白くさせると消え入りそうな声で違うと言って勘違いを正そうとしたが、俺の言葉はガンガンと鳴る音に描き消されて口をパクパクと動かしてるだけだった。

 今にも潰されるかも知れないと思った瞬間失禁してしまい、泡を吹いて俺の視界は暗転した。


 ☆


 私はこの魔石工房の主で、ドワーフのアリサ。今日も鉄より硬い魔石を専用のアダマンタイトの鉄槌を使って砕いていると、見慣れない子供が裏口に立ってこちらを見ていた。
 外街の人間だろう。服は小奇麗にしているが、所々破けているし呆けた顔をしている。見るからに筋肉さえも無い華奢な体躯で一見女の様な顔をしている事から、男娼でもしているのかもしれない。
 男娼と言えば、ついこの間も地竜に見染められた少年が居たのを思い出した。
 まさか、ソイツか?

 私は取り敢えず作業を止めて、その少年に声を掛けると、あろう事か私を未成年者と思ったらしい。
 この瞬間、この少年がこの街の人間では無い事が分かる。
 外街に住む人間なら誰でもドワーフの女と分かるし、この国に住む人間ならと思ってる見ず知らずの魔力無しに声を掛ける事はしない。
 それをするのは、ひと握りの変態だけだ。
 私は年端も逝かぬ少年の行動を窘める意味と、今後間違いを起こさせない為の教育の意味を込めて、その少年のモノを掴むと脅す様に言った。

 すると少年の顔はみるみるうちに白くなり、口をパクパクとしたあと直ぐに漏らしながら気絶してしまった。

 「あ……」やり過ぎた。
 そう思ったが遅かった。
 力無く倒れる少年を片手で掴むと、奥に居るで有ろう他の従業員を呼んだ。

 すると直ぐに数人が駆け寄ってきたので、少年を掴みながら手渡す。

 「すまん、またやっちまった!」
 「またですか⁉ 見境なく声を掛けてきた客を脅すのは止めてくださいと言ってますよね⁉」
 「いや、今回はその少年が悪い。 私を魔力無しと思ったのに声を掛けてきたロリコン野郎だぞ? そんなの見たら性根を叩きつぶ……正しい方向へ導いてやるのが大人の対応だろう?」

 「今、叩き潰すと言うつもりでしたね⁉」

 そう言って私を怒ろうとする従業員達に少年を押し付けて、無理矢理黙らすと二階で介抱する様に言い付けた。



 ーーまったく人間てのは、なんでこうも弱いかのかねぇ?

 私は掌に付いた小便をクリーンで綺麗に消すと、鉄槌を握り直して再び魔石を砕く作業へと戻るのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...