異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 無言で俯く海人を見ながら、ザケヘルは懐から煙管キセルを出すと、煙草みたいなピンク色の草を丸めて、火皿に押し込み指に火を付けて吸い始めた。

 それを見て海人は眉根を寄せながら文句を言う。

 「ちょっと、煙草は……」

 遠慮して欲しかった。真面目な話を今からするのにと、思ったからだ。
 だがしかし、返ってきた言葉は違っていて、これは甘味だと宣うのだ。

 確かに中には煙を舌で味わう吸い方をする奴もある。葉巻とかパイプがそれに当たるだろう。まぁ、煙管もそれの類ではあるが、母方の祖父は吸い込んでいた様で、肺癌にもなっていたらしい。
 そんな昔話を、俺が大学生時代の成人式の日に初めて買った煙草を発見して「アンタも肺癌に成りたいの⁉」と怒り、嫌悪していたのか握り潰してゴミ箱に捨ててしまったのを思い出す。

 まぁ、二十歳になってまで隠れて吸う羽目になるとは、思っていなかったが……。
 双子が生まれてからは俺も辞めたが……。

 閑話休題

 「これは帝国で結構流行ってる【煙飴】ってやつでな? 舌で甘みを感じるだけの飴なんだよ。体内に糖分を入れないから太らないしな、周りをよく見てみな? 似たような物を吸ってるご婦人が居るだろ?」

 そう言われて周りを見てみると、俺と変わらない(推定未成年)年齢の少しふくよかな貴族風の少女が、紫色の煙を吐き出していた。

 「あれはグルプ(葡萄)味だな。 俺のはアデル味だ、吸ってみるか?」

 そう言うので興味を持った俺は、もう一本の煙管を懐から出したのを受け取り、ザケヘルと同じ色の草を指で丸めた。

 丸めてる感触は少しベタついていて、煙草のような草の感触は無かった。似てる物といえば、中国の砂糖菓子の蜂蜜と水飴に小麦粉等を混ぜた龍の髭飴に似ている。

 其処に火を付けて貰い、溶けた時に出る煙を頬の力だけで吸い込み、舌で転がす様に舐めるという。

 「確かにこれは甘味だな」

 凄く甘いが、舐めきれる物では無いのか、喋りながら残りの煙は口から出ていった。
 しかしこれは依存度で考えると高い気がする。体に良い(?)のかも知れないが……。現にコレを好んで吸っている方々は誰一人として痩せている人は居ないのだ。
 まぁ、この店の中だけで確認しただけだから、統計として見るなら違うのかも知れないが……。

 「あんまり吸わない方が良いと思うぞ?」

 煙管を返しながら言うと、ザケヘルは苦笑いを浮かべながら「分かってるよ」と頷くが……。
 この反応は絶対辞めないパターンだ。
 何かに依存してる奴の「分かってる」は「分かってないのが分かった」と判断するきっかけになる言葉なのだ。
 これは俺の実体験から分かった事だ。

 俺の場合は妹達に「お兄ちゃんお口と体臭い!」と言われて、隠れて煙草を吸っていた事がバレ、週末に実家に帰った日の楽しみを取り上げられたのが、始まりだった。

 俺の唯一の楽しみ……。
 妹達と一緒にお風呂タイムが出来なくなった俺は落ち込んだ。それはもう大学へ通う元気すら無くなる程落ち込んだ。
 今までは母親に怒られても「分かってる、もう辞めるよ」と、言い続けて特に禁煙らしい事はして来なかった。
 だがその時は違った!可愛い双子の妹達に言われた瞬間、避けられた瞬間、俺の頭に落ちて来た衝撃は凄まじかった。

 その日から、パッタリと辞めて煙臭くなくなった俺だったが、匂いが完全に取れるまで、妹達は俺に近付いては来なかった……。

 閑話休題

 「何でニヤけてるんだお前……」

 妹達とのお風呂タイムを思い出してニヘラと笑っていたのか、ザケヘルは煙管を吸って頭がおかしくなったと思ったのか、自分の煙管を捨てた。

 「……俺もそんな気持ちの悪い顔になってるのかと思うと、もうコイツは吸えない。俺は辞めるっ」

 キッパリとそう言うと、持っていた物を全て隣に座って居た子達にあげた。

 「そう言えばお前、リンカの娘達を見る時もそんな顔をしていたな……」

 宿屋の食堂でステラちゃん達と談笑していた時の事を言っているのだろうか?突然ザケヘルは眉間に皺を寄せて怒りだした。

 「リンカの娘達に手を出したら、お前の玉を握り潰してスライムの餌にするからな!」

 そう言って何かを握り潰す仕草をして、俺に見せる。

 「何を言ってるか分からんが、俺の妹達の事を思い出してたんだ!」

 そう言って弁解すると、ザケヘルは更に顔を紅くすると、握り拳を作って俺を威嚇する。

 「お前の世界では未成年に手を出しても許されるかも知れないが、この世界じゃ極刑になるからなっ⁉ ましてや、俺の孫とも思ってるリンカの娘達に何かしやがったら、本気で殺りに行くから覚悟しろっ!」

 この世界では成人に至らない娘達に手を出したら死刑(股間が)になるらしい。
 俺の世界では、二三年務所で暮せば許されるというのに……。

 思ったが、異世界って色んな意味で甘くないよな……。

 そんなことを思っていると、いつの間にかヒートアップしたのか、俺の胸倉を掴んでいた事に気が付き、「絶対に手は出しません!」と、誓わせる羽目になっていた。

 周りの客達も、そんな俺達を見ていたのか、大人達は自分の娘を背に囲い、俺から遠ざける様にしているし、娘達も見を縮こませて居るのが見えた。

 「……店を変えるぞ」

 そんな視線に気が付いたのか、ザケヘルは俺を促してカフェを出ると、裏通りの居酒屋みたいな店に入っていった。

 「あそこの店にはもう行けないな……」

 俺は少し寂しく感じながら、何故か変態ロリコン野郎と思われてしまったカフェを跡にしてザケヘルの跡を追った。

 もう二度と人前で妹達の事は思い出さないと誓いながら。



 「で?」

 居酒屋に付くと早々に席に座りながら俺を睨むザケヘル。

 「だから、勘違いだっつってんだろ⁉ 俺は変態じゃない!」

 「違うわっ! その話じゃねーよっ! そして、お前は予備軍だ! 自覚しろっ!」

 何度言っても信じてくれないもどかしさから、あーだこーだと言い争いをしていたが、この話は平行線しか辿らないと理解して、俺は席に座ると本題の話をする事にした。

 「2ヶ月前、俺は地竜アニキに拐われて、森にある滝壺の横にある変な建物に行ったんだ」

 その場所が何処にあるかも分からなかったのでそう言うと、ザケヘルは知っていたようだ。

 「何だお前、そこまで地竜に信用されてんのか……」

 そう言うので、なんの事か分からない俺は首を傾げた。

 「あの森にある滝壺は昔、エルフの集落だったんだ……」

 そう言って昔話を始めた。

 数十年前、世界樹の化石がある森にはエルフの集落が有った。
 世界樹は、エルフの古い神様的なものらしく、既に泉周辺の森に新しく生えようとしている若木の世界樹があるのだが、化石も大事なのだと言って、住んでいたそうだ。

 ーー神様の中に住み着くのって、まるで寄生虫の様なんだが……、そこは良いらしい。

 結構な数のエルフは、やがて繁殖して世界樹の中では暮らせない人達が出る程増え、世界樹の周りにも住み着き街を作っていた様だ。
 そんな集落に目を付けたのが、レッドキャップを筆頭にしたゴブリン族だった。

 「ゴブリンってのは、雌は産まれないんだ。子供を作るには他種族の雌が必要で、何年も長生きするエルフは、奴等の格好の的だったのよ、で……そこを狙われた」

 数十万匹ものゴブリンが集落を襲い、数万人居たエルフ達は、少数人だけ森の奥へと逃れられたが残りは取り残され、男は一部を除いて全てゴブリンの胃袋へ、雌は散々弄ばれて死んだ者や子供を生む為の道具とされたそうだ。

 男の一部は、ゴブリンから希に生まれる亜種【ピンクゴブリン】に貰われたらしい。

 「何だピンクゴブリンて……」

 「男しか狙わない変態ゴブリンだよ……」

 そして、俺を可哀想な子でも見るような顔をすると言った。

 「……お前も可愛い顔をしているし、方面には大人気だから、気を付けろよ?」と、同情された。


 ーーそっち方面て、どっち方面⁉

 俺は、身を縮こませて慄いた。

 

 
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