異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 ザケヘルのウッカリで汚れた服は、「クリーン」の一言で解決した。
 ボサボサだった髪も綺麗に整えられ、跡は出掛けるだけになる。

 「先触れは出さなくていーのか?」と、馬車を準備してるザケヘルに聞いてみると、既に出したという返事が返ってきた。

 俺が服屋へ行った時に出していたようだ。

 地竜アニキを再び馬車と繋いで御者台に二人で座る。
 無言のまま走り出した馬車は、中央通りを抜けて真ん中の噴水の縁をなぞる様に走る。延々と続く路は石畳で、揺れる事も無くスムーズに進み、やがて領主の屋敷の屋根が見えて来ると、大きな門柱が並ぶ場所で止められた。

 「ザケヘルだ、主は居るか?」

 と、偉そうに衛兵に話しかけるザケヘルを見る。

 一介の商人風情が随分偉そうだなぁっと、思っていると顔に出たのか、「幼馴染なんだよ」と、言ってニヤリと笑った。

 悪徳商人のザケヘルと幼馴染じゃ、碌な領主じゃないのかもしれない。
 俺は油断しない様に心掛けて、気合を入れる。

 「ザケヘル様、申し訳けありません。主は王都へと出掛けていて、不在で御座います」

 先触れと入れ違いだったらしく、既に出て行ってから数刻経っている様だ。

 「王都か……行って帰っても最短で四ヶ月は会えないじゃないか! 何しに出掛けたのか聞いてないか?」

 そう門に立つ兵士に聞くと、「王都に現れた迷い人を見学しに行きました。何でも凄い魔力量と、見た事も無い大魔法を放つとか!私も機会があれば見に行きたいのに!本当に羨ましい!」

 そう言って興奮しながら話す。

 「王都にも出たのか、迷い人……しかも、そっちはアタリだった様だな……羨ましい……」

 コチラを見ながら呟くもんだから、何となく居た堪れない雰囲気になる。

 ーーハズレで悪かったな!

 俺が不貞腐れる横で、ザケヘルと兵士は話し合い、領主が帰ってきたら知らせると約束させると、来た道を引き返す。

 「んー、取り敢えず海人よ。お前……これからこの街で暮らす事になる訳だが、仕事とかどーすんだ?」

 領主が居れば斡旋何かもしてくれたらしいけど、不在な為にそれが出来ないと言われた。ザケヘルの店で店員として働く事は出来ないのか聞いたが、運ぶのがメインなので、売り物はそんなに無いらしく店番は必要としてないのだそうだ。

 Gランクが受けられる仕事は砂鉄集めくらいしか無く、薬草採取なんかはF~らしい。獣を捕まえて肉や皮を売ればそれなりに儲かるらしいが、腕に覚えが無いと厳しいと言われた。

 「まぁ、取り敢えず宿屋が先か……」

 ザケヘルはそう言うと、知り合いの比較的安い宿を紹介してくれたのだが、一日朝晩の飯が付いて銀貨五枚だと言われた。

 因みに砂鉄を集めて売ったとしても、銅貨一枚くらい何だそうだ。

 貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類あって、それぞれ100枚毎にランクアップしていくらしい。

 銅貨百枚で銀貨一枚
 銀貨百枚で金貨一枚
 金貨百枚で白金貨一枚といった感じ。

 ただそれだと嵩むので、邪魔だと思った当時の王が、銀貨から半分に切った物を流通させたらしい。

 銅貨50枚で半銀貨
 銀貨50枚で半金貨
 金貨50枚で半白金貨ってな具合で。
 それがそのまま浸透してしまい、現在でもそれを使っているらしい。

 金貨しかなくて、支払いが銀貨50枚だった場合でも、金貨を半分に切って渡せば商売が成り立つらしい。だが、銀貨25枚だった場合は、4分の一に硬貨を切ることは出来ないのだそうだ。理由は失くすからだそうで、余りにも小さく切ると失くす事が多く、禁止されたんだそうだ。

 「まぁ、最初の1ヶ月間は体力作りと諦めて、砂鉄集めを頑張れよ!」

 そう言って励まされた。
 1ヶ月真面目にGランクを熟せば、自然とFランクに昇格するからだ。

 仕方ないと諦めて、1ヶ月頑張ろう!と、思った。

 紹介された宿屋は小奇麗な二階建ての宿屋で、仲睦まじい夫婦と二人の娘達で営んでいた。

 1階が食堂兼住居で、2階から宿として貸してる様だ。
 2階には部屋が五部屋しか無く、泊まってる部屋も二つほど空き部屋だった。
 それで親子四人が暮らせて行けるのかと思ってたら、案の定苦しいらしい。
 なので、夜は酒場として食堂を使っていて、泊まるなら多少我慢が必要らしい。

 「それでも、飯は美味いし娘さんも可愛いんだから魔力無しには良いだろ?」

 と、ザケヘルは言っていた。

 意味が良く分からなかった。身体でも売っているのかと思えばそうでも無かったからだ。

 だが、その理由が朝になって分かった。

 「お水如何ですか?」

 と、朝になり目を覚ますとドア越しに言われたのだ。
 「お願いします」と言って返事をした後ドアを開けると、笑顔で両手を差し出しその掌に水を出して「どうぞ♪」と言うのだ。

 可愛い女の子が両掌に水を貯めて、そこで顔やら洗えと言ってくるのだ。
 人間洗面台である。
 鏡を見ながら歯を磨くのではなく、谷間を見ながら歯を磨くのだ。
 これを予約もせず、列に並ぶ事も無く(有料銅貨三枚)出来るのだから、お得とザケヘルは言ったのだ。

 可愛い女の子は人気らしく、クリーンの魔法や水を借りる時は並ぶらしい。
 家系ラーメンに並ぶ客の如く列を成すのが毎朝の恒例だそうで、この宿の出入り口には、既に人だかりが出来る程並んでいた。魔力が枯渇したら終了なので、徹夜組が出た時もあったらしい。

 泊り客は特別らしく、一番最初にこの施しを受ける権利があるのだという。
 だったら毎朝並ばずに、宿を取ればいーじゃんって思うだろうが、違うらしい。

 やはり人間誰しも、無料だからこそ魅力を感じるのだろう。

 まぁ、そもそも冒険者ランクが高ければ一回のクエストで稼げる賃金で泊まれるのだが、Dランク程度でこの宿を利用するにはコスパが悪いのだそうだ。

 ましてやGランクの俺では、稼げる金額はパン一つか二つ程度だった。



 Gランクの仕事は砂鉄集めなのだが、砂鉄を集める為の磁石は無料で貰えた。 これは、兵士が訓練で魔法を放つ時、的の代わりに鉄の棒を使って行っている為、定期的に磁石が手に入る為らしい。

 磁石を縛る縄にしても、毎年大量に出る藁から作るので、こちらも無料で貰えるのだが、問題は砂鉄が取れないのだ。

 何年も何十年も取り続けた路には、殆ど鉄は無い。誰かが通って削った土の上なら取れるかも知れないが、そこまで多くは無いという。

 鉱山が無いから鉄の買い取り価格も高いのだが、毎年の様に子供ガチャをしてる国民だ。子供の数は途轍もなく多い為、そこら中の道で磁石を引っ張る子供が居るのだ、そりゃ無くなるわ。

 魔力無しの子供が1日に稼げるのが、銅貨一枚程度なのだ。銅貨一枚なら黒パンが2個買える。朝晩の飯代分だけだ。

 そんな稼ぎで宿屋に泊まってりゃ金なんて直ぐに無くなるだろう。

 俺はどうにか金を稼げる方法は無いか、考えながら毎日磁石を引っ張った。
 畑仕事は1日に銅貨三枚貰えるらしいけど、成人した大人しか受けられないそうだ。なら、俺でも大丈夫かと思えばそうではなかった。成人して結婚してる男女しか受け付けてくれなかったのだ。
 畑仕事は諦めて狩りにでもと思ったが、扱える武器が無かった。
 辛うじて弓は前に飛ばせたが、鏃が高くマイナスにしかならなかった。

 それから全く体力も無かったので、単独で山に入る事は、生命の危険を間近に感じる事となった。

 薬草採取も同じ理由で頓挫した。

 あーでもないこーでもないと考えてる内に、1ヶ月はあっという間に過ぎ去って俺はFランクへと昇格した。

 だからといって、俺のできる仕事は限られていた。

 とある日、久し振りにザケヘルに会ったので何か稼げる仕事は無いが聞いてみた。

 「稼げる仕事なぁ……獣の肉でも狩って来たらどうだ?」と、軽く言われたので

 「俺に狩りは無理だ、師事できる知り合いも居ないしな」

 そう言うと少し考えてザケヘルはいう。

 「なら、良い師匠を紹介してやるよ」

 と、言って俺を厩へと連れ来た。

 厩には暇そうにしてる地竜アニキが居るだけで、他には誰も居ない。

 すると、ザケヘルは地竜アニキを指差して言う。

 「暫く行商には出ないからコイツの相手をしながら狩りの方法を学ばせて貰え」

 と言って、改めて地竜アニキを紹介した。

 
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