異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 ザケヘルのあとに付いて扉を潜ると、左壁に沿って直ぐに階段があった。階段の上を見ると吹き抜けになっていて、柵越しに人が並んでいるのが目に入った。

 どうやら受付は2階に有る様だ。
 階段の下の1階はホールに成っていて、壁一面に紙が貼られている、その上にA・B・Ꮯ・D・E・FGと書かれているプレートを見るに、各ランク毎に貼られている場所が違うのが分かる。
 FとGは同じ場所に貼られている様だ。
 左から奥の壁のAのプレートがある場所には、数枚しか貼られておらず、Aランク冒険者が少ない事を伺わせている。
 BとᏟランクの壁はAランクの壁より少し多く貼られているが、そんなに多くは無いようだ。
 ザケヘルの話では、Ꮯランクから転職する人が多いからだそうだ。
 DからEの壁を見ると、壁から溢れる程貼られている。
 この街で一番多いのがこのランクなんだろう。

 俺が1階の壁を眺めていると、「こっちだ」と、言って2階を指差して促される。

 2階に上がると、1階の半分くらいの広さのホールに出た。
 小さな机と椅子が数脚あるくらいで、他にはカウンター意外何もない。
 右奥には受付なのか、カウンター越しに綺麗な顔をしたお姉さんが座っていた。
 昔の銀行みたいといえば分かるだろうか? 受付は五つ程あるみたいだが、その内の4つは塞がっていた。時間的に閑散としている時間らしく、受付に並ぶ人も少ない。
 数脚ある机にも人は居るが、何かの書類を書いてるだけだ。
 どうやら飲食は禁止らしい。
 なので、酒を呑んで絡んでくる輩も居ない。
 少し拍子抜けしたが、実際はこんなもんなのかも知れない。
 一応役所みたいな場所なのだから、酒場の様な作りになってる方がおかしいのだ。 
 なんでラノベでは酒場を兼任してるんだろうな? 本当に不思議だ。

 左奥には廊下があり、その突き当りら辺に扉が見える。

 ザケヘルは奥の扉を指差して「俺は報告を先にしてくるから、少し此処らで待ってろ」と言って、机を指差したので素直に従って椅子に座った。

 暫くすると、奥からザケヘルが一人の厳つい顔のオバサンを従えて戻ってきた。
 胸があるから多分オバサンだろう……。
 筋肉には見えないから、きっと間違えではない。

 少し不安になりながらオバサンとして扱う事を決め、椅子から立ち上がる。

 「奥で話すから付いて来い」

 立ち上がった俺にザケヘルが手招きするので、付いていく。
 ザケヘルの後ろに立つオバサンは無言で俺をジーッと見てるだけで、特に何も話さない。紹介もされてないので会釈だけして前を通り過ぎ、手前から2番目の部屋の扉へ入ったザケヘルの後ろから、俺もその部屋へと向かう。

 その後ろをオバサンも続いて入ってきた。
 始終無言のままオバサンと向かい合って座ると、ザケヘルは俺とオバサンの横に立ち、俺の首にある首輪を外した。
 そして、その首輪をオバサンに渡すとザケヘルは俺の横に座って、1枚の書類を出してそれも渡す。

 何がなんだか分からなかったが、暫くその様子を眺めていたら不意にオバサンから話しかけられた。

 「まずは始めまして、私はこのギルドを任せられているギルドマスターのシャウナという。 よろしくな、少年」

 なんの脈絡もなく自己紹介を始められたので、俺は立ち上がって胸に左手を充てながら軽く会釈し「始めまして、シャウナ様。私は海人かいとと申します、宜しくお願いいたします」

 そう返すと、ザケヘルに脇腹を小突かれた。

 「そんな貴族みたいな固い挨拶はしなくていーんだよ」と、しかめっ面で言われた。

 取り敢えず座れというので、座り直すとシャウナが懐から珠を取り出して机に置いて言う。

 「これから君の魔力検査をする、それと冒険者として登録するにあたっていくつか確認したい事がある。 素直にコチラの質問に答えてくれればいいから」

 そう言って、いつだったかザケヘルに触らされた珠と似たような色をした珠に手を置いた。

 前と同じでヒンヤリとした触り心地しかしない珠をニギニギしていると、その様子を見ていたシャウナが、質問してきた。

 「君はこことは異なる世界から来た。間違いないね?」
 「はい」
 「その世界で過去10年の間に人殺しや盗み等はした事はあるかね?」
 「ありません」

 質問の内容は全て犯罪に関わる事柄を聞かれる。
 強盗、強姦、殺しにテロから戦争に参加した事があるかも聞かれた。戦争で殺したのなら犯罪じゃないだろうと思ったが、違うらしい。

 後で聞かされた話になるが、過去にも俺と似たような迷い人が現れた際、犯罪歴は無かったが戦争で民間人を殺した事のある奴が来たそうだ。
 その男は空から爆弾を落として民家を焼き払ったそうだ。なのでコチラの世界に来てから、犯罪奴隷として生涯を過ごしたらしい。

 閑話休題



 淡々と答える俺の顔を見ながらチラチラと珠を確認するシャウナ。

 この跡も当たり障りの無い質問をされ、特に変化がない事が分かったのか、質問はこれで終わりだと告げられた。

 「よし、悪い反応は無いようだな。 一応隷属されてる人間に対して行うのが決まりになってるから」
 そう言いながら首輪を握り、何か呟いた。
 すると、首輪が光ったあとボロボロと崩れて消えた。

 隷属されると、首輪を外されても完全な開放には成らず、もし万が一暴れられた時、すぐ首輪を元の首に戻す術が施されているらしい。

 中には犯罪歴を巧妙に隠して開放されようとする輩もいるらしく、この様な仕様になったらしい。
 普段は安全を高める為に隠匿されてる事なのだそうだ。

 珠をしまった跡は、登録する為の書類を書かされた。

 「本名は書かなくていーからな」

 そう言われたが俺は【海人】と書いた。
 苗字を書かなきゃ良いだけだろう?と、思ったがそうでは無く、偽名を書いた方が安全なんだと言われた。

 偽名で良いのは、本名を知られると名前から縛る魔法が存在するそうで、無理矢理隷属させる事が出来るそうだ。

 その場合、首輪の様な開放は困難な上に複雑な呪文を唱えねば成らず、金も掛かるらしい。死刑囚に行う特別な魔法なのだそうだ。

 余りやり方を知ってる人は居ないが、過去に罪の無い冒険者に向かって執行した奴がいたそうで、偽名を推奨される様になったんだそうだ。


 ☆


 そんなこんなで無事に登録を終えた俺は、Gランクからスタートした。

 ギルドを跡にした俺達は、ザケヘルの店へと移動した。
 ザケヘルの店は2階を住居にしてるらしく、一度帰って着替えてから領主の屋敷へと向かいたいらしい。

 「街の中なら比較的安全だから、海人も身奇麗な服を買って来たらどうだ?」

 と言われて送り出された。

 ザケヘルが急に名前で呼んできたので不思議そうな顔をしていると、開放されてじゃ無くなったからだそうだ。

 取り敢えず服屋の場所は地図を渡されたので、行けない事はない。が、遠かった。

 乗合馬車とか無いのかと聞いたら、馬車から地竜アニキを放して「面倒みてやれ」と、1言。

 不思議にそうに見てる俺に地竜アニキが近付いてくると、肩を掴まれてグイッと持ち上げられ……。
 そのまま腹にある袋へと突っ込まれた。

 俺が驚き過ぎて言葉を詰まらせて無言で居るのを良い事に、地竜アニキはそのまま走り出した。

 揺れる腹袋の中で何とか叫ぼうとしたが、上手く言葉が出せず、舌を思いっきり噛んでしまい悶絶した。




その数分後に目的地に着いたのか、ドサッと腹袋から投げ出された俺は、髪をボッサボサにしながら恨みがましく地竜アニキを見上げた。

 「……せめて一言教えてから中に入れてくれよアニキ……」

 そう文句を言ったが、何を言われたのか理解してない素振りでクビを傾げるだけだった。

 「……帰りはゆっくりでお願いね?」

 乱れた髪を手ぐしで整えながら言うと、「キュッ」と、返事をしたので完全に俺の言う事を理解してるのだと確信した。

 取り敢えず此処まで運んでくれた礼だけ言うと、俺は店へと入る。

 既製品は売ってなく、新品は全てオーダーメイドだというので、俺のサイズに合った服を適当に選んでもらい古着を買った。
 後で着替えるのも億劫だったので、着ていた服は自分のアイテムバックにしまって、買ったばかりの服を着て店を跡にした。

 店を出ると、道の端っこで見ず知らずの子供と戯れてる地竜アニキが楽しそうにしていた。

 街の人達は魔獣である地竜アニキに恐怖する事も無く、普通に受け入れているみたいだった。

 初めて見た時に俺は気絶したから、戯れてる子供達に地竜アニキが怖くないのか尋ねると、使役されてる獣には顔に入れ墨の様な印があり、直ぐに分かるのだそうだ。

 結構常識的な事らしく、子供達に馬鹿にされた。
 ーーザケヘルには教わってない事がまだまだある様だな……帰ったらもっと聞かなければ!
 っと、思っていると待ち疲れていたのか、再び無操作に肩を掴まれて袋の中に放り込まれ、ザケヘルの店に着いて直ぐに道に転がされた。

 そんな俺を見たザケヘルは何かに気付いた様な声を出した

 「あっ!すまんっ!馬車意外で運んでくれた場合はお礼に食い物をあげるんだよ!わりぃー言い忘れてたわ!」



 ーーそう言う事はちゃんと言えっ!

 
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