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しおりを挟む「このアイテムバッグの未契約というのはどういう意味なんだ?」
箱から取り出した玉をコロコロと掌で転がしながら聞く。
「何だ知らないのか? お前の世界じゃ仕様が異なるのか?」
なので俺の世界のアイテムバッグの使用方法を教えてやった。ゲームの事を伏せて言うのは中々大変だった。
「ふーん。随分不便なんだな……。まぁ、いーや。こっちの世界じゃアイテムバッグは魂に刻むんだよ、だから生まれ変わった赤子でも持ってる。魔力の無い奴は大概売ってしまうから持ってない奴も居るし、元から大した容量も無い物を引き継いでるので、幾らにもならないんだけどな。俺も生まれた時は持ってなかった。前世の俺が多分売り払ったんだろう」
そう言うと肩を竦めながら首を横に振り、考え無しだった前世の自分に呆れていた。
「しかし、この世界……前世とか信じるんだな……。死んだら無に帰ると俺の世界じゃ言ってる奴も多かったのに」
俺がそう言うと
「そりゃ昔は俺達の世界も信じちゃ居なかったが、とある王様が前世からの手紙の入ったアイテムバッグを受け継いでな? そこに書かれていた文章から前世があると分かったんだよ」
そう言うと俺のアイテムバッグを指差しながら、出処を話しだした。
「そのアイテムバッグは貧乏貴族の持ち物だが、結構良い物の筈だ。 そいつの前世は裕福な家だったらしく、かなりの財産が入っていてな? そのお陰で働く事はせず、勉強もしないでギャンブルに嵌って散財してな? 俺から金を借りたんだよ」
そう言うとニシシ♪と嗤う。
貸した金に3日で2割の利子を付けて、利息の代わりにぶんどって来たらしい。
「後先を考えられない馬鹿で大儲けだぜ!」
してやったりと嗤うこの男はどうやら悪徳商人の様だ、俺も油断しない様に気を付けよう……。
取り敢えず、如何やって使うのか聞いたら、胸に押し付ければ勝手に体の中に入って行くと言うので、試しに押し当ててみたらスーッと入って行った。
食パンを切るナイフよりもすんなりスーッと入って行った。
「これで使えるのか?」
「ああ、中に何か入ってるか?」
「如何やって確かめるんだ?」
「思い浮かべればいんだよ」
そう言うので頭の中でアイテムバッグの中身を見る!っと、念じたら頭の中に何やら出て来た。
「……魔石ってのが大量に入ってるんだが何だこれ?」
「あー、やっぱり入ってるか。 定かではないが魔王との争い中は、魔石は貨幣に変えられたらしいんだわ」
魔石とは魔獣の心臓の横にある結晶で、魔族と戦争していた時代には、魔石と貨幣を交換するシステムがあったらしい。
魔王の手下を倒した証だった様で、御先祖様達は、せっせと魔石を拾い集めたらしい。
「魔王がいるのか?」
「いや、既に倒された」
それを聞いて安心した。
異世界行く奴は無理矢理勇者にされて、言葉巧みに持ち上げられて奴隷の様に扱き使われる未来しか無いからな。
しかも、その後は暗殺か女を使って籠絡された上に、死ぬ迄子作りとかやらされるんだよ。
本当に恐ろしい……。
……まぁ、魔力も無いから俺が勇者になる事は無かったからいーんだけどさ。
「今はこの魔石に貨幣価値はねーよ。 魔石を潰して粉にした奴を魔導具に使うくらいしか、利用されてない。まぁ、魔石は異常に固くて潰すにしても専用のハンマーで叩かないと砕けないんだがな」
そう言って懐からランタンの様な物を取り出して、灯りをつけた。
なんでも、魔力を貯めて使える物らしい。 その他にも街頭なんかにも使われたりしてるそうだ。
街頭の魔力充填は、魔力持ちの子供の仕事らしい。
「魔力ってのは使えば使うほど魔力量が増えるんだ。 成人する十五歳までは、至るところで魔力持ちの子供が活躍してるよ」
その後も色々この世界の常識を教えられながら進んだ。まぁ、常識については然程俺の世界と変わらなかったが、どちらかと言うと海外の様な感じで過ごせば良い様だ。 例えば落ちてる物は拾った者勝ちみたいな……。
逆に届けると不審がられるそうだ。
その辺は気を付ければ良いか……。
俺は領主に会ったあとの生活が気になったので聞いてみる事にした。
「魔力が無くて外に住むのは分かったが、街の外にも井戸とか無いのか?」
「街の中……っていうか、領主の住む屋敷に大きな噴水があってな? 其処から街の地下を通って水が四方に流れてるが、街の中には目立った物はねーな。外は少し遠いが森にある湖が水源の川くらいだな」
湖の周りの森にはエルフが住んでるらしく、近寄るなと言われた。
領主屋敷の噴水も、元は湖の水を利用してるらしい。
「その川から水を汲むのか?」
それはそれで面倒臭そうだな……。
そのまま飲む事は出来ないだろうし、最悪濾過装置みたいな物を作るか……。
なんて事を考えていたら
「さっきも言ったが魔力持ちの子供が街の外でも活躍するんだ」
ザケヘルの話だと、魔力の底を上げる為に毎朝街に住む子供が外壁の外へと向かい、各家の水瓶に水を足して歩くんだそうな……。そればかりか、街の外には銭湯の様な役割を持つ施設があり、クリーンの魔法を練習する街の子供と、それを利用する魔力無しの住民がいて、お互いwinwinの関係を築いてるらしい。
貴族や商家の子供には護衛も付くが、その護衛役は街の外に住む低ランク冒険者が無料で請け負うらしい。
Dランクになると、護衛クエストを中心に請け負う事になるので、その練習を兼ねているらしく、これもまたwinwinの関係らしい。
街全体で助け合いながら魔力持ちも魔力無しも助け合って生きてるんだよと、ザケヘルは言う。
「この世界に慣れるまでは宿屋で暮らす事も出来るからな? 領主に気にいって貰えれば囲われるかも知れんしな」
と、明るくザケヘルは言うが……。
金は有限だし、領主の屋敷で囲われる意味は深く考えないでおいた。
きっと珍しい迷い人をコレクションする趣味でもあるんだろう……。
変な趣味だが居ない事は無い。
身近な所では祖父があっち系だったっけ……。祖母に顔を足で踏まれて頬染めてたし……。
そもそも、馬用の短い鞭なんて乗馬もしない一般人が持ってる方がおかしいんだ……。【閑話休題】
昔の事は忘れようと頭を振った俺は、再び思考する。
ーー壁の向こう側で暮らすには、
ある程度のコミュ力が必要だ。俺にとっては、かなりハードルが高い気がする……。
田舎ならコミュニケーションは必須だが、都会は違ったからな。特に隣人と関わらずとも生きていられたし……。
他人を家族として見なきゃいけない外街の事を思い浮かべると憂鬱になった。
その日の話はこれで終わり、腕時計をニコニコ顔で見詰めながら荷馬車へと向かったザケヘルを見送る。
話し合いが終わったと気が付いた地竜は、俺の側まで来ると横に寝そべり俺を見あげ、『今日はもう寝ようぜ?』と言ってる様に感じて、クビを枕にして横になるが、なかなか寝付けなかった。
憂鬱な俺の感情を読み取ったのか、優しく俺の腹を短い手で撫で、俺を慰めてくれた地竜の優しさに少し泣いた。
安心したのか俺はいつの間にか眠っていた。
☆
城塞都市【ナルタルーカ】に着いたのは、その日から二日後の昼近く、小高い丘に着いた俺達の馬車はまるで的の様に形作られた街を見下ろす。
真ん中に小さめの湖の様な噴水がある場所を中心にして拡がる街は、二つの城壁に囲まれた街だった。
昔は中心にある壁が外壁だったが、毎年ガチャガチャの様に産まれてくる子供のお陰か、人口はみるみる内に増えていき、その外側にも外壁を作って街が大きくなっていったらしい。
一つ目の内壁の中は、貴族や大店の商家が昔から住んでいて、外にある家は一般人の魔力無しから、魔力を持つ子供を授かった家族が住んでいるらしい。
「魔力ありの子供さえ授かれば、その子供に寄生する形で街に住めるからな、毎年子供は多く産まれるんだよ」
俺は唖然とした顔で口を少し開けながらその街を見下ろした。
街というより都市と言っても過言じゃない程、家が放射状に拡がっていたからだ。
外街の路は舗装されていないのか、砂埃が舞っている。
「随分と外の街は埃っぽそうだな……」
俺がそんな事を呟くと、「アレは魔力の無い子供が砂鉄を採ってるからさ。 この辺には鉱山は無いが、土に含まれる鉄分が多いのか、ああやって磁力のある鉄に紐を付けて歩き回るのさ。まぁ、夜寝る頃には収まるから安心しろ」
そう言うと地竜に向かって一言二言命令する。
馬車はゆっくりと坂を降って街を目指して走る。
「魔力のある子供は魔力を提供して力を付け、魔力が無く冒険者としても登録出来ない成人前の幼い子供は、砂鉄を集めながら体力を上げるのさ」
「お前も領主に挨拶した跡は、砂鉄を集める事になるかもな」
剣など扱った事が無いと聞いていたザケヘルは、暗い顔をして俯く俺を笑いながら
「まぁ、頑張れよ!」っと、背中を叩いて励ますのだった。
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