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しおりを挟む「まぁ、この話は極一部の話だからよ」
そう言って眉間にシワを寄せる俺を宥める。
「普通に生活してる奴は魔力が五歳で現れなくても成人するまで育てるのが基本だよ」
「成人しても魔力が現れなかったら森に捨てられるのか?」
俺が吐き捨てる様に言うと首を横に振って教えてくれた。
五歳で魔力が現れなくても、十歳と十五歳で現れる例もあるから育てるし、その間に剣を使ったりする武術をその子供に教えるらしい。どの道、生活魔法が現れ無かったとしても冒険者等になり、生活できるからだ。
では、何故街で暮らせないのかと疑問に思い聞いてみると
「衣・食・住には何が必要か分かるか?」
と、逆に聞かれた。
「衣は服、食は食い物で住は住む家だ」
何言ってんだ?という顔をしたのか、ザケヘルは数回頷くと、薪を手にしながら竈に入れながら答える。
「今はこうして野営をしているから魔法が無くても薪に火がつく。 だがな? 街の中はそうじゃない」
そう言うと竈の横に四角い石製の箱を取り出した。その箱の横には角の様な物が取り付けられていた。
まるで四角い顔のバッファローマンの様だ。
「これが街にある家に取り付けられている竈だよ。 見てわかる通り穴は無いだろう?」
俺は立ち上がって変な角が付いた四角い箱をぐるぐる廻りながら眺めると、確かにある筈の窯口が無かった。
その代わりに角の付け根辺りに縦に溝がありレバーの様な物が付けられていた。
「どうやって薪を付け足すんだ?」
と、聞くと。
ザケヘルは薪を掴んで立ち上がり、角の先を持つと、蓋になっていたようでパカリと開けた。
そしてその中へ薪を横にして入れていった。
まるで自販機のジュースを補充するかのようにゴトゴトと入れて行き、面まで入れると蓋を閉じた。
その反対側も同じ様にゴトゴトと入れて蓋を閉じる。
そして両端に付いていたレバーを下げた。
すると、“ゴト”と音がした。
「これで設置完了だ、後は……ファイヤ!」
そう言うと轟々と石の中で炎が燃えだした。
煙突の様な物もないのに火は消えずに燃えている。
その疑問も聞くと、クリーンの魔法陣が刻まれていて、煙は出ない仕組みになってるのだという。
何故この様な形になったのかというと、火の不始末が原因で、大昔に一度街が燃えたのだという。
穴があるから炎が広がるんだと当時の人々は考え、ならば塞げば解決と考えたのだとか。
なので街の中にある家屋に、穴の開いた竈を造ったら重罪となったらしい。
そして困ったのが生活魔法を使えない人々だった。
普通に調理が出来なくなったので、料理をする為には壁の向こう側に出て行かなければ成らず、いちいち移動するのが面倒臭くなった魔力無しの住民達は、自然と壁の外側に家を作り住み始めてしまった。
そしてそれが長い年月により常識として捉えられ、魔力の使えない者は街の中で暮らす事が出来なくなったのだという。
壁の外で暮らすのにはメリットもあった。壁の中で暮らす場合は、身の安全を守って貰えるので税金が掛かるのだが、外側で暮らすなら税金は無かったのだ。
デメリットは夜になると活発化する獣や野盗に恐怖する事だった。が、それも冒険者が外で暮らす様になったのと、地域住民が自警団を組織する様になってから減ったので、目立ったデメリットは無いらしい。
敢えて探すなら、自分の物はみんなの物というのが暗黙のルールになった事だろうとザケヘルはいう。
皆で共存する様になった事で、助け合いの精神から外側に住む人々は赤の他人も皆家族であるらしい。
嫁さんの貞操や産まれてくる子供の生活費等は個人に委ねるが、食料や衣服等は着回すらしい。
俺は良く分からなかったので首を傾げた。俺の住んでた街でも服の着回しこそ無かったが、助け合いはしていた。というか、何処の町内でもしている事だろう?
そう言うと、ザケヘルは少し考えて答える。
「例えば……兄ちゃんが森で獲物を獲って肉を持ち帰るとするだろう?そうすると、ゾロゾロと周辺住民が集まってきて勝手に家に入ってきて、肉を捌いてその場で焼いて食っちまうのよ」
「まるで自分ちの台所で飯を食うようにな」
ザケヘルも駆け出しの頃は税金に払う金が勿体無くて外に住んで居た事もあったが、その精神について行けず、2週間程で街に戻ったらしい。
「当時の俺はまだ貧乏でよ?アイテムバッグも持ってなかったから稼いだ金は家に置いていたんだよ。そしたら、勝手に家に入って来た奴等が酒に変えて呑んでやがってな?いくら稼いでも金が貯まらねーんだよ。これなら税金払って街に住んだほうが良いだろ?」
当時の事を思い出したのかイライラしながら寝酒の酒を煽ると、今日の話はここ迄と言って俺は馬車の荷台で寝るからと言って行ってしまった。
見張りは地竜が居るから必要無いと言っていた。地竜の匂いで獣は襲ってこないし、野盗も賄賂を渡してる地域なのでザケヘルは襲われないらしい。
俺はどこで寝れば?と聞こうとしたが、地竜が俺の側まで来て俺を巻き込む様に横になった、地竜の首から腹に掛けて白い体毛が生えていて暖かそうだったので、地竜の首を枕にして横になった。
「異世界か……渾名のお陰かねぇ……」
俺は残してきた祖父や義父や母や妹達を思いだし、もう二度と会う事は出来ないと思うと、年甲斐も無く泣いてしまった。
何時の間にか寝ていたのか朝になっていた。
地竜が起きると同時に俺も起きた。というか、起こされた。
地竜がノソリと起きると、当然首に乗っけていた俺の頭も地面に落ちたからだ。
朝日はまだ昇っていなかった。
月明かりの中小さく地竜は鳴いて俺を見る。
「すまん、流石に言葉は分からねーよ」
地竜に向かってそう言うと、枝を咥えて俺に見せると森の方へ歩き、振り返る。
ーー薪を拾うから手伝えって事だろうか……。
付いて行くと俺の歩調に合わせて歩き始めたので、多分当りだろう。
昨日の様に枯れ枝がある木をバキバキと折り雨の様に振る枝を俺が拾う。
集めた枝を一纏めにして、火が消えそうな竈に放り込んで、鍋を温める。
昨晩のスープが煮える頃、地竜は猪の様な生き物を口に咥えて戻ってきた。
そのまま荷台に持っていくので積むのかと思い、手伝う為に俺も荷台へと行くとザケヘルが起きていた。
猪を地竜から受け取ると、足元に穴が開いた。そこに変な形で組み込んだ木材を出すと、猪の後ろ足を縛り吊し上げた。
何をしているのかと見ていたら、俺に気がついたのか振り向いて言う。
「何だお前のその顔……泣いてたのか?」そう言って笑う。
そう言えばと思い出し、川か水辺は無いか聞いた。顔を洗いたかったからだが、ザケヘルは両手を出せと命令した。
俺は隷属されているからか逆らう事が出来ず、両手を出すとザケヘルの指から水が出てきた。
その水を両手で貯めて顔を洗って口も濯ぐ。
タオルは無かったのでシャツで顔を拭こうとしたら、「クリーン」とザケヘルが呟いた。
クルクルと廻る風が俺を包み込むと、風呂に入ったように身体がサッパリし、服も下着も洗い立ての様に綺麗になった。心無しか口の中もサッパリした。
「そうそう、いい忘れていたが水も生活魔法で補ってるから街で少しの間でも滞在するなら毎日こうして誰かに頼むか、壁の外へ行かないと川もないぞ」
そう言うと猪の解体を始めた。
俺は、不自由過ぎる未来に少し泣けてきた。
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