異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 ーーゴトゴトと揺れる床とガンガンと頭に当たる硬い何かで意識が戻る。

 ふと目を開けると薄暗い板の間で横になっている自分に気が付く。

 一瞬地震かと思えるような振動がして、ガバリと起き上がり周りを見渡すと、薄暗い小屋の中にで転がっているようだ。
 体の節々が痛い。

 薄暗い部屋の中を目を凝らして見てみるが、見覚えの無い場所だった。
 揺れる床にビクビクしながら寝る前の記憶を思い起こす。
 ……大きな蜥蜴に驚き意識が飛んだ事を思い出し、テーマパークでしか見たことの無い馬車があったのを思い出す。
 想像と憶測で自分が馬車の荷台に居るような気がして来たので、取り敢えず周りの箱等を調べてみた。見た事も無いが何故か名前のわかる果物が木の箱に山盛りになって入っていたり、何の肉か知らないのに、なんの生物の干し肉なのか分かる物が重なり山になってる。

 そして、始終ガタゴトと揺れる床と何か硬いものに乗り上げて跳ね回り、尾てい骨を打ち付けてる状況を考えて。

 「……馬車の荷台か?」

 と、呟いた。
 奥のカーテンらしき布がめくり上がり、誰かのシルエットが自分に向かって話しかける。

 「兄ちゃん? 目が覚めたのか? だったらこっちに来て話し相手にでもなってくれ、暇なんだよ」

 そう言うと男は俺に向かって手を伸ばす。俺もその手を握ると引っ張られた。

 直ぐに瞼に刺さる様な陽の光を手を翳して遮り、よーく足元を確認しながら御者台へと移動した。

 なんせ動いてる馬車の上だ、移動するのに手間取った。流石に落ちたら骨折くらいはするだろうし、結構な重さの荷物を積んでいる様なので轢かれたら死ぬかもしれない。

 何とか御者台に座ると前を見る。
 体長2mは有りそうな大きな蜥蜴が二足歩行で走ってる背中が見えた。
 さっきは倒れたが、精神的に慣れたのかもう怖くはなかった。が、まるで夢を見ている様だ。
 右隣りの男を見てみると、やはりトル○コの様な服装をしている。青いチョッキみたいなのを羽織り、白っぽい生地のモンペみたいなズボンに先が尖って一見ヨーロピアンみたいな革の靴を履いているが、先っぽは上を向いている。まるで、シンドバットに出てくる魔人みたいな靴だ。

 そして、その男の奥というか御者台の角には羅針盤が取り付けられていて、それは何か聞いてみたら時計だという。

 キョロキョロと馬車を眺めている俺を見て男は楽しげに笑う。

 「兄ちゃん馬車は初めてかい? そこまで珍しい乗り物じゃねー筈なんだけど」

 そう言って笑うので目の前を走る蜥蜴を指差しながら俺は答える。

 「いや、その生き物に驚いたんだよ。馬車は乗った事は無いが知ってはいるよ」

 そう言うと男は再び笑いながら自慢し始めた。

 「この生き物は最近使役出来る様になった地竜っていう魔獣でな? 俺が新緑の森で捕まえたんだよ!こう見えて冒険者ランクはBだからよ!余裕だったぜ!」

 そう言うと胸を張る。だが俺は贅肉で良い感じに膨らんだ胸が、プルンプルンと揺れるのを眺めて(女だったらなぁ)とか考えていた。そして疑問点を聞いてみることにした。

 「あんたは商人じゃないのか?」
 「ん? 商人だよ? 見てのとおりさ」

 そう言うと胸の谷間から革で出来た首紐を引っ張りだし、その先についてる札を取り出した。
 ほれ、とばかりに見せられたその札には天秤のマークが彫り込まれている。

 それを元のように服の中へとしまうと、「脇に寄れ!」と目の前を走る地竜へと支持を出した。

 使役した生き物に鞭は必要ないらしく、行き先を支持するだけで真っ直ぐ走ってくれるのだとか説明しながら脇道へと進む。

 脇道かと思ったらテニスコートを2面か3面並べた様な広さがある広場に入る。休憩場所なのだそうで、馬車を見晴らしの良い場所に停める。
 薄暗くなって来たから野営するのだそうな。

 男は馬車を停めて地竜の留具を外しながら俺に向かって支持を飛ばす。

 「薪用の枝とかを探して来い」

 そう言うと食材などを何処からか取り出し、どうやって切ってるのか見えないが、いつの間にか有った鍋へと切った食材を放り込んでいた。

 馬車を外された地竜は側にある林の中へと歩き去った。
 地竜は肉食らしく、自分の餌は自分で獲って食べるらしい。
 馬などはエサ代が高く、相当頑張って商売しないと赤字になるのだそうだ。
 それに比べて地竜は、使役するのは大変だが少食で、都市部近郊でも餌は自分で狩り捕る為、エサ代が浮いて経済的にも助かるのだと話してくれた。

 地竜が森へと入る中、枝をバキバキと折りながら進んだ為に、俺が拾う予定だった枯れ枝は直ぐに集まった。

 落ちて散らばった枝を1か所に纏めるとと一抱え以上の枝が集まったので、運ぶのに苦労した。

 もう少し太い木の破片か丸太でも無いかと探していると、地竜がウサギの様な生き物を口に咥え、短く小さな両手で器用に丸太を抱えて戻ってきた。

 もしかしたら俺が小枝を集めるのも手伝ってくれたのかと思ってたら、俺に丸太を渡してきたので多分想像の通りなのかも知れない。
 思った以上に知力は高かった様だ。

 その様子を眺めてたら、俺を見て丸太を受け取ってほしそうな雰囲気になる。何となく手を差し出すと、グイッと寄こして来て、その重さを持てきれなかった俺は丸太を自分に立て掛けた。地竜は口に咥えていた獲物を両手でリスの様に持ち替えると、開いた口でバリバリと俺が持つ丸太に齧り付き、細かく砕いて薪くらいの大きさにし始めた。薪が出来ると蜥蜴は手に持ったウサギみたいな死骸を俺に手渡すと、再び森へと走っていった。

 本当に頭の良い蜥蜴だ。
 人間様に肉まで提供してくれるとはなぁ。と、感心していると

 何処から出してるのか謎だが、既に簡易的な竈が出来ていて、そこに鍋を乗せた男は、その鍋に水を注ぎながら言う。

 「ははは、子分だと思われてるぞお前」

 地竜の習性で自分より立場が下の者に自ら獲った糧を施すのだそうで……。

 ーー仲間ですら無かったようだ。
 面倒見の良いアニキが出来たと思えば苦じゃないだろと男は笑うと、地竜から貰った獣を解体してやるから竈に火を熾しておけと言い残し、荷馬車の裏へと消えた。

 火を熾すと言ってもマッチも無いし如何しようかと悩み、昔見た動画サイトを思い出しながら果物ナイフで枯れ枝に刃を当てる。薄暗く削りながら木屑を集め、木と木を擦り付けて火を熾そうと奮闘していると、男が肉と皮に解体した物を持って帰ってきた。

 「なにやってんのお前……」
 「見ての! 通り! 火を! つけてます!」

 汗水流し力を入れながら答える。
 それを見て男は言う。

 「お前まさか……魔力無しの忌み子か⁉」

 そう言うとショックからか、持っていた肉と皮を落として額に手をやり顔を空に向けながら「やられた」と呟いた。

 
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