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生まれは良かったのに➇
しおりを挟む休憩場所に付くと先客が出て行くところだった、出入り口の外に止まって先客が出る、此方に会釈すると僕達が向かう方向へと馬車を走らせていった。
もしかしたらまた何処かで会うかも知れない。
この先の道は次の宿場町まで一本道だというし、休憩場所も五つ程あるらしい。
ルカンが御者台に座って動かす馬車は、ゆっくりと休憩場所の奥へと進む。これは、他の馬車が来た時に邪魔にならないからだ。
入り口を塞がられると困る女性の旅人や徒歩の旅人は手前に居たりする。馬車に乗る人達はなるべく奥に行くのがマナーだと教えてくれた。
たまに居るのが馬車なのに手前に止める貴族だという。自慢の馬車なのか入ってくる人々に見える様に止めるので邪魔なんだそうだ。
馬車を止めると最初にする事は馬に水を与えてその辺に放し飼いにする。
馬車に繋げっぱなしにはしていない。放牧地は無いものの、それなりに草が生えているので休む時は留具を外す。
たまに盗もうとする奴もいるが、ほとんどバレる。
馬車を護衛する方々はプロなので、賊もあまり狙わないが、大所帯の盗賊なら狙うかも知れない気は張っておけと言われた。
どんな時でも油断は禁物ということだろう。
「そう言えばセダス様」
「ルカン、ここではまだ良いが街に入ったり人が多い所では偽名で呼びなさい」
「あ、申し訳ございません!ゼダス様」
「それで?」
「あ、はい。行商人という事でしたが何も積んでないのはおかしいかなと思いまして」
「ふむ、それはそうですね。それは迂闊でした……ぼ……マル、ちょっと森に入ってルカンと一緒に何か狩って来なさい」
「はい、ルカン行くぞ」
「あいよー」
そう言うと槍を担いで休憩場所から山に入って行った。
「坊っちゃんと危うく言ってしまう所でした……どうにも駄目ですね……ルカンも居るとはいえ、坊っちゃんと旅行は行ったことありましたが、遠くから拝見するだけでしたが、旅どころか寝食を共に出来るなんて……ぐす……」
誰も居なくなった場所で一人焚き火に火を点けながら涙ぐむ。
セダスはナラクと出会った頃の事を思い出す。
王妃と王との間には中々子供が出来なかった。
それは、ラヴァーベルド王が婚姻と同時に側室を招き入れたからだ。
ラヴァーベルドは帝国の第一王子として産まれたが側室との子供だった。
中々王女との間に子供が出来ずに居た帝国は、仕方なく側室を娶って授かった子供だった。
最初の頃は蝶よ花よと可愛がられていたラヴァーベルドだったが、一度王女が身篭り男子が産まれると手の平を返した様な扱いになった。
そして成人後第二王子が王太子になり、自分は隣国のハイランド王国へ政略結婚として婿養子に出された。
隣国とはこの国で、前王の名前は
バウディ・ガウガウェイン・ハイランド
王妃の名前は
ナターシャ・G・ハイランド
セダスの名はセダス・ガウガウェイン。セダスは前王に仕える執事一家で、家柄は王家の分家にあたる。
王女が産まれた後、守る様にバウディ王に命令された。
幼少の頃から王女に仕えていたセダスだったが、歳もいって産まれたのがナラクだった。余りの可愛さにセダスから仕える様に志願し認められて今日に至る。
「坊っちゃんもようやく無駄な肉も取れてすっかり逞しい青年になられた……後は王や兄君達の様にならぬ様しっかり教育せねばなるまい」
セダスは顔を両手で叩くと、晩御飯の準備をする為横に流れる小川から水を汲み鍋にいれて温めだした。
数刻が過ぎて、空も暗くなり始めると、森からナラクとルカンも帰ってきた。
ルカンの肩には狼が数匹担がれ、両手に猪を持っていた。後ろからナラクが簡易なソリに載せて更に山と積んだ狼を引き摺ってきた。
まるで群れを一つ潰してきた感じがした。数匹狩れば良いと言い忘れたと思ったが、それは口に出さず少し呆れ君に
「随分時間が掛かったのですね……」と言うと
「いえ、女性が山の中に居てソレを狼の群れが襲ってたんです」
と、小川の側に狼と猪を置くと捌き始めたルカンとその横にソリごと置いて、同じ様に狼を捌き始めたナラク。
「で、それを蹂躙してまして……」
そう言うと、積んでた狼の中から気を失った女性を取り出した。
「ぼっちゃん……気を失ってるとはいえ、女性を狩った獲物と同じ場所に積んでくるとは何事ですか?」
偽名を言うのも忘れてついうっかりそのまま叱ってしまった。
それを聞いてルカンは
「ほら、言っただろ?肩に担げって」と、呆れ気味に言う。
「寒かったら可愛そうだと思ったんだよ」と、少し顔を赤くして言い訳を始めたナラク。
その二人の会話を聞いていたセダスはあれ?っと、思ったのでルカンに話しかける。
「ルカンあなたは坊っちゃんと言った私の言葉に違和感は無いのですか?」
「セダ……あ、えと……ゼダス様」
「セダスでいいですよ今は、街中だけで偽名で呼びなさい」
いちいち言い直しさせるのも面倒と思ったので、街中だけにしようとセダスは決めた。
「ナラクとは随分長く付き合ってますから、色々事情は聞いています」
「待ちなさい、ナラクの名は外でも禁止します!もし理由が知りたければ……」
「あ!スイマセン!それも聞いています二人の時はそう呼んでいましたのでつい……」
そういって謝るルカンを見たセダスは、本当の理由もルカンだけに聞かせた方が良いのかと考える事になった。
「セダス……様、すまない……僕がそう呼んでくれと頼んだんだ……」
「セダスで良いですよ……坊っちゃん……」
「いや、しかし……」
セダスは、ナラクにも本当の事を言った方が良いのかと思ったが、ナターシャ王妃からも固く口止めされてるしと悩む事になる。
(一度テストしてみないと何とも言えないが……)
このまま偽りの主従契約を信じ込んでるナラクを見るのも自分が寂しくなるばかりで良い事など一つもなかった、どうしようかと本気で悩んだが、側で眠る女性が居た事に気が付いて慌てふためいた。
「と、取り敢えず、今から偽名で呼び合うことにします」
「「え⁉」」
話をぶった切って言われた事に二人は困惑しながらも了承し、皮と内臓を取った猪をセダスに渡すと、狼の毛皮を剥ぐ作業に没頭することした。
鍋の蓋を取るとふわっとイノシシと香草の肉鍋が完成する。
その匂いで起きた女性は助けてくれたナラクとルカンに頭を下げる。
「ナラク様助けて頂き感謝致します!ルカンもありがとう!」
二人は照れながら気にするなと言って顔を赤くしている。
確かにこの女性の見た目は可愛かったし、スタイルも良さそうだった。
が、セダスを腰からナイフを抜いて女性に近づくと首に刃を向ける。
「な、何をしているのだ!セダス!」
その行動に驚いたナラクは昔の様に呼び叫ぶ。
ルカスもまた驚き止めようとするが、セダスの一睨みで動けなくなった。
「それで、貴女は誰の差し金で此処に?」
静かに冷たく言ったセダスによく分からないのか困惑するナラクと、周りを警戒し始め短剣を抜いたルカン。
だが、周りから人の気配はしない。
少し落ち着き短剣を仕舞ったが、気を緩めず短剣の柄から手は離さなかった。
それを横目で確認して少し関心したセダス。
困惑したままだったが、横で警戒するルカンに習うように槍を持つナラクは、セダスと女性を交互に見る。
セダスは固まり身動きしない女性の胸元を見ると、ナイフを仕舞って言う。
「逃げずに話をしなさい」
そう言うと女性は抗えないのか素直に言葉を発した。
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