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生まれは良かったのに
しおりを挟む十五歳まではハッピーブラボーな王族生活を満喫。
第36王子だった為まったく次の王には成れないけど、王族だったので小さいながらも領地を貰って其処でゆるゆる暮らしてた。
勉強はそれなりに頑張った。
目標が無かったからそれなりで終わった。
十五歳の誕生日にして卒業式で成人式だった為一同揃って教会へ。
卒業式と成人式同時にやって、終わってからスキル検査やって、その後皆で俺の誕生日を祝ってくれる段取りだった。
卒業式は主席でも次席でもドベでも無くて真ん中辺で特に告白とか断罪とかも無く終了。
成人式は王様の挨拶と王太子の兄さんが演説してお終い、特に親子との会話も無いし兄貴との確執もないし、寧ろ俺存在忘れられてね?ってくらい何も言われずに成人式終了。
その後父兄揃って選定の儀式。の筈なのに、親父(王)兄(王太子)不在のまま執事の甥っ子が付き添ってくれての選定の儀式。
ある意味ラッキー……
だってね何も無かったのよ。
寧ろ運しかねーの。
吃驚だよね。
神父に「前代未聞」とまで言われたよ。
そのまま誕生日会に成ったんだけど自宅の会場行ったら誰も居なくて草
使用人も居なくなってたよ。
料理はあったから食ってたらスープの下に手紙があってさ。
「食ったら出てけ(父)」
……酷くない?
取り敢えず全部食った跡銀食器やら売れそうなアクセサリーとか家中ひっくり返して金目の物探したよ。
なのになぁんにもなかった。
既に侍女とかが持ち去った後だったよ。
着てる服しかないの。
ねぇ?
これ運いいの?
ちゃんと働いてる?
はぁ……。
取り敢えず飯食ったから外で服を売りに行こう。
◇
「はい!攫われましたー……」
街なんて滅多に歩かなかったもんで、うっかり路地裏入ったらサクッと攫われました。
今は馬車の箱の中です。
ガタゴト揺れて全身痛いです。
両手両足縛られて猿轡されてますんで身動きも取れません。
どうせ服売るんだから脱いでいけば良かったよ……。
何で着たまま出かけちゃうかなー俺……。
はぁぁ……って、溜息も吐けないでやんの……。
箱の中なんて生まれて初めて入ったなぁ……暗いし狭いし体痛いし……。
何処に連れて行かれるのかなぁ……。
取り敢えずすること無いし寝ようと思っても体痛いしガタゴト揺れるしで結局寝れず。
……いつしか気を失ってました。
「おい、起きろ」
ドスッと脇腹を殴られて目を開けると、何処かの街の裏側でキョロキョロと辺りを見廻しても、見た事すらない場所で箱から出された。
「ふぐ……?」
地面をゴロゴロと転がされ目を開ける。少しだけ太陽の暖かさを感じた。
ようやく光が見えたと思ったら直ぐに暗くてジメジメした石造りの地下に連れてかれました……。
太陽って一瞬でも温かいんだなぁ……。移動は馬車だったし、庭にも出なかったし毎日食っちゃ寝してたから歩き方も忘れたようだ……。
肩で息をしながら地下を歩く事一時間。
汗でベトベトする服を脱ぎたくても後ろ手に縛られてるから脱げやしない。
あ、俺自分で服脱げなかったわ……。
「ほれ、豚野郎そこに入って大人しくしとけ」
歩きながら下しか見てなかったから分からなかったけど、どうやら休める様だ。
牢屋の様な場所でベッドも無く、絨毯も無い場所だったが、疲労と日頃の運動不足でブクブクに太った俺は石畳の上に転がると、そのまま寝てしまった。
何時間くらい寝てただろうか、目を醒ますと縛られてたロープは切られていて床に転がっていた。
窓も無く、松明だけがユラユラと揺れている。
誰かが置いていったのかパンが一つと冷めきった具なしスープがお椀に入って置いてあった。
それを何の躊躇も無くワシ掴みにすると、食った。
パンは少しかび臭かったが美味しかった。
スープも冷めてたし、具も入ってなかったけど水よりは美味しかった。
全て食い終わると壁に寄りかかって腹を撫でる。
「足りないよねぇ……流石に」
何か食べる物はないか周りを見渡す。
四畳半みたいな狭い袋小路に格子状の柵だけ付けた様な部屋だった。
窓も無いから星を見て場所の把握も出来ない。
時計もないから今が何時かも分からない。
壁しか見えないが、近くを川でも流れてるのか水の流れる音は聞こえる。
まぁ、下水道から流れてる音は下水だろうなと検討はついた。
格子状の柵の隙間からネズミが一匹入って来た。
「……食えるかなこれ……」
そう呟くと通路の向こうから
「やめといた方がいいと思うよ?」
と、幼い女の子の声が聞こえた。
「やぁ、こんにちは俺はナラク君は誰かな?」
「……こんにちは……私は……」
元気がないのか肝心な名前は聞こえなかった。
「ご飯は食べなかったのかな?最後が聞こえなかったんだけど」
もう一度頼もうかと思ったら小さな悲鳴が聞こえたかと思うと、ジャラジャラという鎖の引きずる音が聞こえ
「コイツに名前なんてねーよデブ!まぁ、今から名前が付くかもしれねーけどな」
嗄れた太い声が女の子の居た場所から聞こえた。
「君は誰かな? さっきの女の子はどこかな?話の途中だったんだよ」
そう言うと目の前に禿げた頭をした自分よりも2周り程デカイ体をした男が現れた。
その人の顔がニタリと笑ったと思ったら力任せに鉄格子を蹴り上げた。
”ガシャーーン!”
「大人しくしとけっつったろ?」
そう言うと右手に持ってた鎖を引っ張って奥の暗がりへと消えていった。
その鎖の先が松明の明かりで少し見えた。
その先にはやせ細った栗色の髪を肩まで伸ばした女の子が付いていた。
首にペットの様に首輪が付けられていて、苦しそうな顔をしながら男の跡を歩きながら奥へと消えた。
「まだ幼いのに……」
それだけ呟くと、壁に寄りかかってた体をお越し、壁伝いに歩きながら二人が消えた通路の奥を見る。
だがやはり真っ暗で何も見えなかった。やがて違う男の声がし始めた。
俺は耳を澄ませてその声を聞こうと柵に寄りかかると耳だけ奥の通路に向ける。
「さあ!競りを始めるぜ!コイツは、そーだな……500ペルサからだ!」
「えらい安いな……」
この国の金の価値は、五ペルサで足を洗う為の水が一杯買えるくらいの価値だった。
150ペルサで朝食の食パンが1斤買えるかなってくらい。
(1ペルサ=1円くらいの価値)
つまりあの子のオークションは始まりが五百円て事だ。
「安すぎるにも程があるだろ!」
俺は眉間にシワを寄せると壁を蹴飛ばした。
しかし、奴隷市場か……もしや此処は帝国か?
確か帝国では未だに奴隷の売買が行われていたと習った。
しかし、こんな地下で行われるだろうか……。しばし考え結論を出す。
「我が国の何処かって事か……」
俺は再び壁を蹴ると、その反動でフラフラとして、尻餅を着いて倒れた。
そのままゴロリと大の字になると、寝ながら床をバシバシと叩く。
「兄様達は何をしてるんだ!取締は如何したんだ!父様は気が付いていないのか⁉」
くそ!俺にもっと力があれば!
そう思ったが今更だった。
力無く両腕を床に降ろすと、頑張ってこなかった今までの自分を恥じて涙を流した。
「なんだよデブ、泣いてるのか?ははは、安心しな次はお前の番だぜ? 精々媚を売って高く売れろよ?」
そう言いながら横たわる俺の首に、微笑いながら首輪を着けると、先程の少女の様に引っ張り奥の通路へと向かう。
暗い通路を出ると直ぐに眩しい程の明かりで部屋を照らすランタンが見え始めた。
暗がりに慣れた目に光が刺さって痛かった。
そして、司会の男の声が間近で響く。
「さあさあ!最後は何と!デブだ!ははははは!」
会場中からブーイングが起こる。
舞台めがけて酒瓶を投げる奴
ツマミのピーナツを皿ごと投げる奴
椅子を投げる奴までいやがった。
だが、それは俺に当たる事なく手前で砕けちった。
恐る恐る目を開くと、舞台には鉄柵があって物が直接商品に当たらない様になっていた。
それでも酒瓶の破片は飛んでくるし、顔にも当たって肌が切れる。
眉間の上に当たった破片は鋭利に尖っていた為に額から血が流れた。
其処で司会の男は続ける
「だがタダのデブじゃねー! 聞いて驚くなよ? 何とこのデブは! 圧政の糞王ヴァラーの息子のうちの一人! 第三十六階位様だぜ‼」
司会の男が叫ぶと場がシーンと静まり返る。
そして、その中の一人が憎々しげに俺を見て、ツバを吐きながら呟くように言った。
「……へぇ? ソイツは楽しそうなメインディッシュじゃねーかよ……」
低く冷たい声でそう言うとその男は笑いだした。すると、周りに居た人々も嘲笑う。
その場は一瞬で狂喜で沸いた。
腰に付けてるナイフを取り出し舐めながら俺の体の一つ一つを切り刻むかのように魅入るやつ。
俺を切り刻んで王に叩き付けてやるよ!と叫んでる奴。
人それぞれ言ってる事は違うが、共通してる事が一つだけあった。
それは皆、自国の王を憎んでる様な目をしていた事だった。
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