Shine Apple

あるちゃいる

文字の大きさ
上 下
36 / 88

三十六話

しおりを挟む


 「本当にあんたって規格外よね……」
 呆れながらプリムローザに言われる。

 「譲ちゃんが装備してるそれ……アダマンタイトとミスリルの合成じゃねーか? 魔力込めると重いアダマンタイトも軽くなるって言われてる。 古代人には造れたが失われたと昔、若い頃学園で習ったぞ?」
 メリヌの装備を確認していたレギンスが言う。

 「全てが終わったら、お主の魔法を調べさせてくれんかの?」

 威圧込みで公爵様が詰め寄る。

 サブマスターが亡くなる前に伝えた報告を協議した結果。
 起こり得る最悪の予想はスタンピードだった。

 千年以上前、隣国で魔森が出現した時に実際に起こったのが、魔獣の暴走だったと史実には書かれているそうだ。

 それを抑えたのが隣国を造った【正一】という男だったそうだ。

 何百年も魔森を押さえ込み、三百年前に代替わりをして大魔女ヨネに変わったらしい。

 ここで初めて知ったのが街の名前だった。俺は最初、魔森の街へ来た当初唱えた魔法の言葉は【全言語理解】だ。

 その翻訳のお陰で看板に書かれている町の名前が魔森の街と書いてあったので、そのまま使っていたが、【魔森の街】は【守りの街】で【ガーディアンキャッスル】と言うらしい……。
 大魔法のおかげで勝手に俺が魔森の街というと、この世界の住人にはガーディアンキャッスルと聞こえるようだ。
 翻訳様々だな……。

 因みにこの世界では失われた言語だったらしく、大魔法として受け継がれて居るが、誰も読めないのだそうだ。大魔女ヨネは読めたらしいが、魔力が足りず発動しなかったらしい。

 明治時代に神隠しにあった人達も多分漢字は書けなかったと思う。平仮名は寺子屋で習っていたかも知れないが、漢字までは習っていなかったかも知れない。

 なんせ田舎の山の中だ、そこまで勉学に力を入れていたとは考えにくい。

 だが、この【正一と書いてワンフォーネスと読むらしい】さんは違ったのだろう。もしかしたらこの人が唯一大人で神隠しにあった人なのかも知れない。

 細かい事は知りようが無いが、多分当たってる気がする。

 この国でさえ伝わってる、この魔獣暴走スタンピードは、新しく出来た居場所を祝う魔獣の祭りみたいな物のようだ。

 千年以上昔の魔森から溢れる魔素も、押さえ込んでたとはいえ、多少は漏れる事もあったと文献には書いてある。

 だが、住処となる様な魔素溜まりは出来なかったようで、漏れ出た場所で魔素に染まった獣の群れは出たが、魔獣暴走スタンピードまで起こった歴史は無いそうだ。

 そしてこの山で初めて見つかった魔素溜まりで起こり得るのが魔獣暴走スタンピードなのだと言う。

 正門に集まる各ギルドで戦える者はすでに全員集まっている。それなのに山へと向かわないのは、スタンピードで街が襲われる率が高いからだった。

 非戦闘員は既に本店の地下へと退避してるそうだ。
 有事の際に地下は固くつくった防空壕の様になってるらしい。

 これもまた【ワンフォーネス】という男が世界に伝えたメッセージなのだそうだ。






 「しかしなんだな……お主の魔法のお陰で多少空気が変わったようだ」
 公爵様が椅子に座りながら和やかな雰囲気になった戦士たちを眺めた。

 集まった当初、恐怖と悲しみと緊張で重くなってた空気が俺の規格外の魔力の放出で呆気に取られ、俺の常識がぶっ壊れてたお陰で和んだとプリムローザが言う。

 (なんだか貶されてる気がしないでもないが、まぁいーや……)

 緊張で萎縮したまま戦っても怪我するだけだし、力をすべて出しきれないだろうからな……まぁ、良かったんだろう。

 そんな感じで良い感じの緊張で待機していると、街を囲む城壁の物見台で斥候部隊が鐘を鳴らす。

 その音と共に公爵様が立ち上がり指揮を取りに門の外へと走る。

 メリヌは前線に行くので公爵様の後ろから付いていく。一瞬振り向き俺を見てから頷いた。
 それを確認した俺も頷くと城壁へと登っていく。
 俺は魔法部隊なので弓隊と一緒に上から魔獣を叩く。

 階段を駆け上がりながら少し前を思い出す。
 魔力で装備を作り、色々あった後メリヌと二人になる機会があった。

 その時話した事は戦う場所が違くても、また必ず会える。だから、頑張ろうと励ましあった。

 メリヌは最後に言う。

 「もしお互い無事だったら願い事があるんだ」
 「おう、何でも叶えてやるぞ?」
 「ふふ、約束……したからね!」
 「ああ、約束だ!」

 何を願うのか分からなかったが、何でも叶えてやりたいと思った。








 城壁の上へと登ると、街が見渡せた。
 朝日に照らされた街はとても綺麗だった。

 そして、振り返ると見渡す限りの山々が朝靄に埋まり、朝日によって光り輝きとても幻想的で美しかった。

 その山々の間を揺るがす様に掛けてくる一団は、黒い魔素を纏いとても汚く感じた。

 遠目の魔法を使える魔法使いの話では魔獣の量は多くても300だという。
 魔素溜まりが比較的小さかったからだというが。
 先頭に白銀の群れ、その後に黒魔森猪が続き、魔鹿やその他の魔獣が後にいるらしい。
 その中で魔法を使えるのは魔鹿らしい。
 角の間から雷を放つのだそうだ。



 弓隊と放出系の魔法が使える者は魔鹿を狙う。
 重歩兵が先頭に立ち白銀の群れを押さえ込む。
 押さえてる間に重戦士(レギンスがいる部隊)が切り捨てて、黒魔森猪を軽戦士達(プリムローザがいる部隊)が襲うらしい。
 メリヌは遊撃隊(斥候部隊)で身軽さを活かして魔鳥の群れを倒すのだそうだ。



 先頭を走る白銀の群れが目視出来る距離に近づいたので、一発目は俺が撃つ。

 特大の魔法は相変わらず使えないが、魔力量でカバーする。

 城壁の前に無数の気○斬を浮かべた。
 その数は数万個ある。
 その量に度肝を抜かれた他の魔法使いたちから溜息が漏れるくらいの力だ。
 それと、この魔法に名前を付けたのが功を奏した様で、威力も心なしか強い気がした。

 魔狼を皆の目にも見える距離まで引き付けると、俺は一気に全弾発射させた。

 数万個の気○斬は軌道を誰の目にも止まらずに一瞬で先頭を走って居た魔狼の群れの首を跳ねた。
 その後に続いて来た黒魔森猪をも貫いて倒すと、砂煙の向こうへと消えていった。

 凄まじい勢いで飛んだ気○斬で先頭集団を一掃。
 跡形もなく微塵切りに……。

 待ち構える重歩兵は呆気にとられていた。

 その後に続いていた筈の黒魔森猪も視界の先には居らず、小山が出来ていたので一掃したっぽい。

 その後ろに居るはずの魔鹿が数頭現れたが、角が折れてる個体や脳髄を垂れ流しながら惰性で歩く固体が数頭だけいた。

 魔鳥も飛んではいたが、羽根がボロボロになってたり、瀕死の重傷で飛ぶ事さえおぼつかず、フラフラ飛んでいた。

 「あ、あれー……?」

 という、俺の間抜けな声だけが静まる城内に響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...