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三十六話
しおりを挟む「本当にあんたって規格外よね……」
呆れながらプリムローザに言われる。
「譲ちゃんが装備してるそれ……アダマンタイトとミスリルの合成じゃねーか? 魔力込めると重いアダマンタイトも軽くなるって言われてる。 古代人には造れたが失われたと昔、若い頃学園で習ったぞ?」
メリヌの装備を確認していたレギンスが言う。
「全てが終わったら、お主の魔法を調べさせてくれんかの?」
威圧込みで公爵様が詰め寄る。
サブマスターが亡くなる前に伝えた報告を協議した結果。
起こり得る最悪の予想はスタンピードだった。
千年以上前、隣国で魔森が出現した時に実際に起こったのが、魔獣の暴走だったと史実には書かれているそうだ。
それを抑えたのが隣国を造った【正一】という男だったそうだ。
何百年も魔森を押さえ込み、三百年前に代替わりをして大魔女ヨネに変わったらしい。
ここで初めて知ったのが街の名前だった。俺は最初、魔森の街へ来た当初唱えた魔法の言葉は【全言語理解】だ。
その翻訳のお陰で看板に書かれている町の名前が魔森の街と書いてあったので、そのまま使っていたが、【魔森の街】は【守りの街】で【ガーディアンキャッスル】と言うらしい……。
大魔法のおかげで勝手に俺が魔森の街というと、この世界の住人にはガーディアンキャッスルと聞こえるようだ。
翻訳様々だな……。
因みにこの世界では失われた言語だったらしく、大魔法として受け継がれて居るが、誰も読めないのだそうだ。大魔女ヨネは読めたらしいが、魔力が足りず発動しなかったらしい。
明治時代に神隠しにあった人達も多分漢字は書けなかったと思う。平仮名は寺子屋で習っていたかも知れないが、漢字までは習っていなかったかも知れない。
なんせ田舎の山の中だ、そこまで勉学に力を入れていたとは考えにくい。
だが、この【正一と書いてワンフォーネスと読むらしい】さんは違ったのだろう。もしかしたらこの人が唯一大人で神隠しにあった人なのかも知れない。
細かい事は知りようが無いが、多分当たってる気がする。
この国でさえ伝わってる、この魔獣暴走は、新しく出来た居場所を祝う魔獣の祭りみたいな物のようだ。
千年以上昔の魔森から溢れる魔素も、押さえ込んでたとはいえ、多少は漏れる事もあったと文献には書いてある。
だが、住処となる様な魔素溜まりは出来なかったようで、漏れ出た場所で魔素に染まった獣の群れは出たが、魔獣暴走まで起こった歴史は無いそうだ。
そしてこの山で初めて見つかった魔素溜まりで起こり得るのが魔獣暴走なのだと言う。
正門に集まる各ギルドで戦える者はすでに全員集まっている。それなのに山へと向かわないのは、スタンピードで街が襲われる率が高いからだった。
非戦闘員は既に本店の地下へと退避してるそうだ。
有事の際に地下は固くつくった防空壕の様になってるらしい。
これもまた【ワンフォーネス】という男が世界に伝えたメッセージなのだそうだ。
「しかしなんだな……お主の魔法のお陰で多少空気が変わったようだ」
公爵様が椅子に座りながら和やかな雰囲気になった戦士たちを眺めた。
集まった当初、恐怖と悲しみと緊張で重くなってた空気が俺の規格外の魔力の放出で呆気に取られ、俺の常識がぶっ壊れてたお陰で和んだとプリムローザが言う。
(なんだか貶されてる気がしないでもないが、まぁいーや……)
緊張で萎縮したまま戦っても怪我するだけだし、力をすべて出しきれないだろうからな……まぁ、良かったんだろう。
そんな感じで良い感じの緊張で待機していると、街を囲む城壁の物見台で斥候部隊が鐘を鳴らす。
その音と共に公爵様が立ち上がり指揮を取りに門の外へと走る。
メリヌは前線に行くので公爵様の後ろから付いていく。一瞬振り向き俺を見てから頷いた。
それを確認した俺も頷くと城壁へと登っていく。
俺は魔法部隊なので弓隊と一緒に上から魔獣を叩く。
階段を駆け上がりながら少し前を思い出す。
魔力で装備を作り、色々あった後メリヌと二人になる機会があった。
その時話した事は戦う場所が違くても、また必ず会える。だから、頑張ろうと励ましあった。
メリヌは最後に言う。
「もしお互い無事だったら願い事があるんだ」
「おう、何でも叶えてやるぞ?」
「ふふ、約束……したからね!」
「ああ、約束だ!」
何を願うのか分からなかったが、何でも叶えてやりたいと思った。
城壁の上へと登ると、街が見渡せた。
朝日に照らされた街はとても綺麗だった。
そして、振り返ると見渡す限りの山々が朝靄に埋まり、朝日によって光り輝きとても幻想的で美しかった。
その山々の間を揺るがす様に掛けてくる一団は、黒い魔素を纏いとても汚く感じた。
遠目の魔法を使える魔法使いの話では魔獣の量は多くても300だという。
魔素溜まりが比較的小さかったからだというが。
先頭に白銀の群れ、その後に黒魔森猪が続き、魔鹿やその他の魔獣が後にいるらしい。
その中で魔法を使えるのは魔鹿らしい。
角の間から雷を放つのだそうだ。
弓隊と放出系の魔法が使える者は魔鹿を狙う。
重歩兵が先頭に立ち白銀の群れを押さえ込む。
押さえてる間に重戦士(レギンスがいる部隊)が切り捨てて、黒魔森猪を軽戦士達(プリムローザがいる部隊)が襲うらしい。
メリヌは遊撃隊(斥候部隊)で身軽さを活かして魔鳥の群れを倒すのだそうだ。
先頭を走る白銀の群れが目視出来る距離に近づいたので、一発目は俺が撃つ。
特大の魔法は相変わらず使えないが、魔力量でカバーする。
城壁の前に無数の気○斬を浮かべた。
その数は数万個ある。
その量に度肝を抜かれた他の魔法使いたちから溜息が漏れるくらいの力だ。
それと、この魔法に名前を付けたのが功を奏した様で、威力も心なしか強い気がした。
魔狼を皆の目にも見える距離まで引き付けると、俺は一気に全弾発射させた。
数万個の気○斬は軌道を誰の目にも止まらずに一瞬で先頭を走って居た魔狼の群れの首を跳ねた。
その後に続いて来た黒魔森猪をも貫いて倒すと、砂煙の向こうへと消えていった。
凄まじい勢いで飛んだ気○斬で先頭集団を一掃。
跡形もなく微塵切りに……。
待ち構える重歩兵は呆気にとられていた。
その後に続いていた筈の黒魔森猪も視界の先には居らず、小山が出来ていたので一掃したっぽい。
その後ろに居るはずの魔鹿が数頭現れたが、角が折れてる個体や脳髄を垂れ流しながら惰性で歩く固体が数頭だけいた。
魔鳥も飛んではいたが、羽根がボロボロになってたり、瀕死の重傷で飛ぶ事さえおぼつかず、フラフラ飛んでいた。
「あ、あれー……?」
という、俺の間抜けな声だけが静まる城内に響いた。
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