Shine Apple

あるちゃいる

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十八話

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 『魔女が俺を探している』

 そんな噂を聞いたのは冒険者登録をして二日後の事だった。



 安く買えた土地は二十坪くらいの広さでギルドの裏手側の城壁にある裏門と言われる場所にあった。
 住民が薬草などを取りに行ける林みたいな場所があり、そこで必要な物を売る店がその場所にあったらしい。
 立地としては冒険者などはやって来ないが、近隣の住民が通るので店を開けばそれなりに稼げるような場所だった。

 下見をした後設計に入っていたら声をかけられた。
 振り向くと双子の片割れの妹のトリーユが旦那になった人と立っていた。

 込み入った話があると言うので取り敢えずギルドの二階までメリヌも連れて向かう。

 椅子に座った直後にトリーユ夫婦が頭を下げてきた。
 何事かと固まっていると

 「「あの土地を譲ってください‼」」

 そうお願いされた。

 詳しく聞くとトリーユは兵士の家でパンを焼いて食べさせていたらしい。
 俺は教えていなかったが、見様見真似で仕事が終わってからパンの作り方を勉強していたらしく、食パン等は作れなかったが、丸いパンは作れるようになっていたらしい。
 そのパンはパスタでは足りない客用に出していた食べ放題のパンだった。
 そのパンを食べた兵士の家の者が店を開いたらどうかと言ってきたらしい。
 食事処で出していたパンもそらなりに人気もあって金を何故取らないのかと言われたこともあったので、それなりに美味しいパンだった事は俺がよく知っている。

 旦那の家の後押しもあって、晴れて兵士も辞めてパン屋へと舵を切ろうとしたが、土地がなかった。

 最後の空き地も売りに出されて買ったのが俺だと聞いて、お願いをしに来たと言う事だった。
 その時に聞いた噂が

 「宿から出るときに何もかも持って出た俺を逆恨みした魔女が取り戻そうと俺を探しているらしいと聴きました」

 宿の所有権は確かに魔女だが、そこに使っていた食材は俺が金を出し、召喚も駆使して集めた物なので、俺の持ち物だ。
 魔女に奪われる言われもない。
 だが、業突張りの魔女の事だから必ず奪いに来るだろう。
 そう考えた俺はその土地をトリーユ夫妻に譲ることにした。

 嘘か本当か判断出来ない噂ではあったが、火のないところに煙は立たぬってことで信じることにした。

 その日のうちに済ませた方が良いだろうって事で、そのままカリーヌさんを呼んでもらい契約書にサインして土地を譲った。

 そのまま買った値段で良いと言ったのだが、喜んだ兵士の家族から買値の二倍の金をもらった。

 魔女のいる街では生きて行くのは面倒くさい事になるかも知れないと踏んだ俺は、馬車でも買って違う街に行こうかと思っていると

 「隣の国にも草原が続いてるから肉祭りはやってるよ? そこに行く?」

 というメリヌの言葉もあって、馬車を買いに行くことにした。



 馬車が売っている場所まで来ると、金貨二枚で売ってる自転車みたいな物が売ってる一角が目に止まった。

 文明の力がこんな所にも……っと懐かしく思って見ていたら、後ろから声をかけられた。

 「それを気に入ったのかね? 今なら大銀貨一枚で売るよ!」

 振り向くと研究者みたいな成りの男が立っていた。

 値札は金貨二枚なのに大銀貨一枚とは安すぎるので、なぜそんなに安いか問いただすと、男は困り顔で言った

 「大魔女ヨネ様の持ち物をベースに新しく作ったのだがね? 動かすのに膨大な魔力が必要なのと、二人しか乗れない上に荷物は運べないしで、作ったは良いが邪魔になってしまってな? もし良ければ鉄に戻して売っぱらってくれても良いから買ってくれ!」

 そうお願いされた。

 前輪が2つの後輪が一つの自転車みたいな形をしているが、足で漕ぐ訳ではなさそうだ。
 馬車を買いに来ただけなんだがと一度は断ったのだが、馬車は高いから止めとけと言われた。

 俺が自転車に魅入って売り手と話していて暇だったのか、馬車を見に行ってたらしいメリヌが戻ってきていう。

 「タクミ様! 馬車高い! 隣の国へは歩いていこう!……」

 最後に呟くように「ご飯食べれなくなる……」と言ったのも聞き逃さなかった。

 飯が食えないと羊に戻ってしまい戦力に成らないし、道中危険かもしれないと思い直し、その魔力自転車を買う事にした。

 動かし方は手と足から魔力を流し動力にするらしい。
 大雑把な説明だったが、試しに乗ってみて分かった。
 確かに膨大な魔力が必要だった。
 使う魔力は大したことはないんだが、常に魔力を流しながら進まないと止まってしまうのだ。

 普通の人が乗ると歩くよりは早いが馬車よりも遅いようで、需要が無いことがわかる。

 だが俺には魔女にも劣らない魔力がある。

 使い用によっては馬車より早く走れるかもしれない。
 実際泊まってる宿屋までメリヌを後ろに乗せて走ったが違和感なく走れた。
 荷物はアイテムバッグに入ってるし、メリヌも小さいが持っている。

 魔女の話も気になった俺は、冒険者ギルドへと戻るとカリーヌさんに言った。

 「この街を出て旅に行きます」

 そう言ってメリヌを乗せて隣の国へと向かった事にした。

 カリーヌさんからは寂しくなりますねと言われ、必ず付いた街でギルドへ報告してくださいと念を押された。

 街を出る前にトリーユに会いに行き街を出ると伝えると、沢山のパンを貰った。

 「お元気で」

 そう言って別れたが、また会いましょうとは言われなかった。

 少し寂しく思って落ち込みながら道中を走っているとメリヌにどーしたのかと聞かれた。

 なので素直に言うと

 「この国では一度別れた相手に再び会える確率はとても低いのよ。危険がたくさんあるし、野盗に襲われるかもしれない世界なの。 だからね? また会いましょうなんて言葉は出て来ないのよ」

 言ってしまうと会えなかった時辛いから

 そう言って涙ぐみ、それ以上話さなくなってしまった。

 もしかしたら父親との別れがそうだったのかもしれないと思った俺は、またやってしまったと後悔した。

 (考えなしなのはどうやったら治るんだろうねぇ……)

 しばらく無言で走り、夕方近くになって夕御飯が出来るまで始終無言だったメリヌは厚切りベーコンサンドを食べてようやく元気になったようでホッとするタクミだった。
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