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運び込まれた患者
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とある病院に、大怪我を負った男が運び込まれてきた。男が運転していた車が、交通事故に巻き込まれたとのことだ。
大至急、手術が行われた。数時間に及んだ末、男はなんとか一命を取り留めた。
そして事故から二日が経ち、ようやく男は意識を取り戻した。
「ここは……どこ……」
居合わせていた医者が答えた。
「気づかれましたか。まだ動いては駄目ですよ。ここは病院です。あなたは二日前に事故に巻き込まれて、怪我を負ったのです」
「そん……な……」
男の声は細く、途切れ途切れだった。
「覚えてらっしゃらないのも無理はありません。後ろから追突されたと聞いています。残念ながら、車の後ろ半分は大破されてしまったそうですが」
男はうっすらと開けていた目を閉じた。記憶を探っているのだろう。やがて目を開き、弱々しい動きで周囲を確認し始めた。顔を動かそうとしていたので、医者が訊いた。
「どうかされましたか?」
男は訊ねた。
「かぞくは……ぶじ……ですか……?」
それを聞いた医者は、努めて安心させるように、静かな笑みを作って答えた。
「ええ、大丈夫ですよ。奥様の和恵さまも大怪我を負われましたが、命に別状はありません。──ただ」
一度言葉を区切り、医者は話した。
「まだ、意識は戻られていません。ですが安心してください。数日もすれば、あなたのように目を覚ますことでしょう」
「…………」
男は、ひとまずの安心と不安の入り混じったような薄い目を作った。その姿を見て、医者は同情の念を覚えた。無理もない。
だがその目をしたのも僅か、男は切り替えるように医者の目をまっすぐと見つめた。ゆえに医者はその視線の意味を考えて、男の行動を思い出し答えた。
「奥様の病室はここではありません。ベッドの空きの都合上、同室でご用意できなかったことをご容赦ください」
だが、なおも男は医者を見つめた。医者は見つめられていることに戸惑いを覚えた。黙っていると、男の表情はだんだんと翳を濃くしていった。
それを見て医者は、とんでもないことに気づいてしまった。
自分がまだ、男の質問に答えていなかったということに。
【解説&ヒントは↓をスクロール】
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〈ヒントは被害者の質問。「かぞくは……ぶじ……ですか……?」〉
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【解説】
怪我をした男性は医者からの返事を待っていました。だが何も答えない医者を見て、ある疑いを持ってしまいました。
一方の医者も、初めはなぜ見つめられているのかわかっていませんでした。何か言っていないことがあるのか? と、やがてまだ男性の質問に答えていなかったことに気づきます。
男性は医者にこう質問していました。
「家族は無事ですか?」
「妻は」でも「和恵は」でもなく、「家族は」と聞いています。
車は後部座席から後ろが大破してしまったようです。もしもそこに赤ん坊などの体の小さな子供が乗っていたとしたら……。
◆
ということで、いかがでしたでしょうか。こういった事故は少なくないそうです。
乳児が車に乗っていることを示す「ベビーインカーステッカー」は初心者マーク同様、周囲の車に、乗っている人がどのような人なのかを示す意味でもつけられているそうですが、こういった事故が起きた際に役立てるため、という意味もあるそうです。
おそらくこの被害者夫婦の車にはつけられていなかったのでしょう。あるいは、つけるほどではない年の子だったのかもしれませんね。
大至急、手術が行われた。数時間に及んだ末、男はなんとか一命を取り留めた。
そして事故から二日が経ち、ようやく男は意識を取り戻した。
「ここは……どこ……」
居合わせていた医者が答えた。
「気づかれましたか。まだ動いては駄目ですよ。ここは病院です。あなたは二日前に事故に巻き込まれて、怪我を負ったのです」
「そん……な……」
男の声は細く、途切れ途切れだった。
「覚えてらっしゃらないのも無理はありません。後ろから追突されたと聞いています。残念ながら、車の後ろ半分は大破されてしまったそうですが」
男はうっすらと開けていた目を閉じた。記憶を探っているのだろう。やがて目を開き、弱々しい動きで周囲を確認し始めた。顔を動かそうとしていたので、医者が訊いた。
「どうかされましたか?」
男は訊ねた。
「かぞくは……ぶじ……ですか……?」
それを聞いた医者は、努めて安心させるように、静かな笑みを作って答えた。
「ええ、大丈夫ですよ。奥様の和恵さまも大怪我を負われましたが、命に別状はありません。──ただ」
一度言葉を区切り、医者は話した。
「まだ、意識は戻られていません。ですが安心してください。数日もすれば、あなたのように目を覚ますことでしょう」
「…………」
男は、ひとまずの安心と不安の入り混じったような薄い目を作った。その姿を見て、医者は同情の念を覚えた。無理もない。
だがその目をしたのも僅か、男は切り替えるように医者の目をまっすぐと見つめた。ゆえに医者はその視線の意味を考えて、男の行動を思い出し答えた。
「奥様の病室はここではありません。ベッドの空きの都合上、同室でご用意できなかったことをご容赦ください」
だが、なおも男は医者を見つめた。医者は見つめられていることに戸惑いを覚えた。黙っていると、男の表情はだんだんと翳を濃くしていった。
それを見て医者は、とんでもないことに気づいてしまった。
自分がまだ、男の質問に答えていなかったということに。
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〈ヒントは被害者の質問。「かぞくは……ぶじ……ですか……?」〉
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【解説】
怪我をした男性は医者からの返事を待っていました。だが何も答えない医者を見て、ある疑いを持ってしまいました。
一方の医者も、初めはなぜ見つめられているのかわかっていませんでした。何か言っていないことがあるのか? と、やがてまだ男性の質問に答えていなかったことに気づきます。
男性は医者にこう質問していました。
「家族は無事ですか?」
「妻は」でも「和恵は」でもなく、「家族は」と聞いています。
車は後部座席から後ろが大破してしまったようです。もしもそこに赤ん坊などの体の小さな子供が乗っていたとしたら……。
◆
ということで、いかがでしたでしょうか。こういった事故は少なくないそうです。
乳児が車に乗っていることを示す「ベビーインカーステッカー」は初心者マーク同様、周囲の車に、乗っている人がどのような人なのかを示す意味でもつけられているそうですが、こういった事故が起きた際に役立てるため、という意味もあるそうです。
おそらくこの被害者夫婦の車にはつけられていなかったのでしょう。あるいは、つけるほどではない年の子だったのかもしれませんね。
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