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不気味な声

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 そこはいわく付きの洋風な廃墟。私たちは夏の肝試しと称して、友人とこの廃墟にやってきていた。友人のK曰く、ここには幽霊が出るんだとか。


「なんか殺人事件があったらしいよ。詳しいことは俺も知らないけど、どうやらここに住んでたやつが相当にヤバいやつらしくてね。何人も拉致らちして、拷問して楽しんでたらしいんだ」


 その当時の被害者の怨念がいまだにこの家に残っていて、訪れるものに呪いをかけるらしい。


 まあ、そういう話がある廃墟ってのは雰囲気があって面白い。誰かが誰かを怖がらせるためについた嘘だとしても、ないよりはましだ。


 ということで、玄関のドアから建物の中に入る。時刻はだいたい四時。昼間の明るさがまだ残っているのでそこまで暗くはない。雰囲気って面では物足りないけど、真っ暗闇を攻めるのは、それはそれでガチすぎて怖い。


 いや、信じちゃいないよ。殺人事件の方はさておき、少なくとも幽霊は信じちゃいない。暗闇ってのは否応なしに怖いもんだろ? だから懐中電灯片手に奥に進む。


 廃墟ってのはちてなんぼだろ。でもここはそれほどじゃなかった。床も腐ってるわけじゃないし、雨漏りしている形跡もない。埃が積もって、時間が止まってしまっているみたいだ。それはそれで不気味ではあるが。


「じゃ、各自見て回るってことで」


 建物の中ほどに来て、友人のKはそう言った。単独行動はホラー映画だと死亡フラグなのだが、まあ、怖さ倍増でいい。私たちはその場で別れることになった。


 とりあえず奥に進む。面白いものは特に見つけられなかった。マントルピースに不気味な人形が置かれているくらいだ。汚れたカーペットを見るに、ここは心霊スポットして穴場なのか、足跡があった。そういえばここの住人は拷問をしていたらしいが、拷問部屋とかあるのだろうか。

 そんなことを考えていると、


『……いに……はな……』


 不意にそんな声が聞こえてきた。振り返ってみる。誰もいなかった。

「え?」

 部屋には私一人だった。

「……いやいや、まさかね」

 頭を振って、一瞬考えてしまった悪い冗談を振り払う。私は別の部屋に移動した。


   ◆


 キッチンに来た。なんともレトロな感じだ。食器棚には皿がそのまま置かれている。引き出しを引っ張ってみる。中は空っぽだった。ふと目についた開き戸も開けて見ると、包丁スタンドがあった。中には一本の包丁。


「おい……」
「うわあ!!」


 声に驚いて振り向く。そこには怯えた姿の友人Kがいた。


「驚かすな!」
「それはこっちの台詞だ。包丁持って俺を殺す気か!」


 たしかに私は今、包丁を彼に向けていた。すぐに引っ込める。


「どうかしたか?」
「あ、いや。Hの姿が見えなくてな。どこに行ったか知ってるか?」


 Hは私たちと来た友人だ。


「知らない。どこかそこら辺、見ているんじゃないの?」
「そうか。それならいいんだけど」
「ん? どうかした」


 Kが何か困った顔をしていた。問い詰めるとKは話した。


「この建物のどこかに拷問部屋があるらしいんだ。曰く、そこに行ってはならない。行けば確実に呪われるって噂だ」
「おい、聞いてないぞ」
「すまん。言い忘れていた」


 もしかして、Hはそこを見つけてしまったのだろうか?
 仕方なく私たちは手分けして探すことにした。その時──。


『……にいっ……らな……』


 またしても声が聞こえた。


「何か言ったか?」
「何も。そっちこそ」
「俺じゃない。てことは……」


 Hの悪ふざけか? それにしては姿が見当たらない。


「とにかくHを探そう。まだ明るいうちにな」


 Hの名を呼びながら、建物を捜索。一通り見て回る。一階にはどこにもいなかった。てことは……。


「この上か?」


 この建物には二階がある。それは外から見ればなんとなくわかった。ただ階段が見当たらなく、それは書斎と思しき部屋にあった。一見すると壁にしか見えないそこを開けると、二階に続く階段が現れた。その奥は暗くてよく見えない。


 階段の下で見上げていると、Kが小走りで近づいてきた。


「どうだ。いたか?」
「いや。いなかった」


 その時だった。


『……かい……なら……』


 またしても不気味な声がして、Kが叫んだ。


「おい、悪ふざけが過ぎるぞH!」


 言ってKが二階に上がろうとするのを、私は彼の腕を掴んで引き留めさせた。何か嫌な予感がする。


「行っちゃダメ」


 Kが眉を強く寄せて私を睨んだ。


「これはHの声じゃない」
「変声器使ってるんだろ」
「違うと思う」


 上手く説明できない。けど、直感が告げていた。この先に行けばよくないことが起きると。しかしKは、聞く耳を持たなかった。


「どうせどこかにスピーカーでも仕込んでるんだろ。まったく手の込んだ悪戯しやがって」


 そしてKは私の手を振りほどくと、二階に上がって行ってしまった。私はその様子を見ていることしかできなかった。十分が経った。けれどHはおろか、Kも下りてこない。


 どうしようか。何回も大声で呼びかけるが、返事はなかった。直感は行くなと告げているが、このままおいて一人帰るわけにもいかない。
 私は意を決して一歩踏み出した。その時、またしても声がした。


『にか……っては……ない』



【解説&ヒントは↓をスクロール】
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 〈ヒント「不気味な声だけ抜き出して比較すると……」〉

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【解説】

 廃墟探検に訪れた主人公たち。その建物は二階建てで、一階部分を探索していました。すると不気味な声が断片的に聞こえてきました。その声を抜き出してみましょう。


「……いに……はな……」
「……にいっ……らな……」
「……かい……なら……」
「にか……っては……ない」


 断片だけでは何を言っているかはわかりにくいですが、全てが同じフレーズの繰り返しだと考えると、何を言っているか意味が分かるというのが今回のオチです。


 同じ文字が何度か登場しているので、繋ぎ合わせてみると、


「にかいにいってはならない」(二階に行ってはならない)


 となり、二階に行こうとしていた主人公の身に、この後何か良からぬことが起きてしまうのかもしれません。
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