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遺言書
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祖母が旅立ってもう一週間が過ぎました。僕の祖父が亡くなったのは僕がまだ生まれる前の話で、早くに事故で両親を亡くしていた僕は、女手一つで祖母に育てられてきました。
今まで僕が生きてこれたのは全て祖母のおかげです。祖母がいない今、僕はまともにご飯を作ることもできないでいます。
一人での生活は苦労でいっぱいです。
祖母の部屋は二階にあります。本当なら一階に置くべきなのですが、もともと二階にあり、足腰を鍛えるからこのままでいいと言って、祖母は譲ってくれませんでした。一人で何でもこなそうとする祖母らしい気概です。
祖母の部屋は階段を上がったすぐの所にあります。入口横にはベッドがあり、その奥には小さな机と書棚があります。入口を背にした視線の先には、服を仕舞う箪笥が置いてあります。
僕はそこであるものを見つけてしまいました。箪笥の引き出しの奥、そこにありました。
遺言書でした。
封筒に入っていたそれを取り出し、僕はその場でそれを読みました。
『尊へ。
あなたが今これを読んでいるということは、おばあちゃんはもうこの世にいないということでしょう。いままでありがとうございました。
尊にはいままで我慢させてばかりでしたね。本当ならもっといっぱいご飯を食べさせたり、旅行に連れていってあげたりしたかったのですが、出来なくてごめんなさい。
叱ったり怒ったりしましたが、すべては尊を思ってのことでした。どうかおばあちゃんを嫌いにならないでください。
最後に、改めてお礼を言います。尊のおばあちゃんが出来てわたしは幸せでした。ありがとうございます。
先にあの世に行くことをお許しください。滝原美砂子より。』
封筒には他にも何枚か用紙が入っており、そこには詳しい相続に関する事柄が書かれていました。
気づくと遺書の上に雫がぽつりぽつりと落ちていました。どうやら僕は知らぬ間に泣いていたようです。
「おばあちゃん……」
そう、僕の口から声が漏れたそのときでした。
「たける……」
返事が聞えました。それは祖母の声でした。聞こえるはずのない声に、僕は驚きで心臓が飛び出しそうになりました。振り返ると、なんとそこには祖母がいたのです。
僕は大声で、「うわあっ!」と叫んでいました。結果、階段を転げ落ちてしまいました。
◆
僕の人生において、あれほど恐ろしくも驚いた体験は初めてでした。また、もう二度とはないでしょう。
祖母が亡くなった次の日、役所に遺書を持っていくと、職員は不愛想にいいました。
「遺書は未開封のまま家庭裁判所に提出してください」
僕はそんなことも知らずに勝手に開けてしまっていました。おそらくは無効になるのでしょう。でも仕方ありません。全ては僕の過ちです。
でもまさか、あれが祖母からの最後の言葉だとは思いもよりませんでした。
【解説&ヒントは↓をスクロール】
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〈ヒント「話の時系列に違和感があるのだが……」〉
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【解説】
普通に読むと、『祖母を亡くしたばかりの青年が遺品を整理していく中で遺言書を見つけ、その直後に祖母の幽霊を目撃した』という話のように思えます。しかし、そうだとすると矛盾する箇所があります。
まず最初の一文から、この青年が祖母の部屋で遺言書を見つけたのが、祖母が旅立ってから一週間後だということが分かります。
しかし後半の描写で、遺言書は祖母の死の翌日に役所に提出されていることが分かります。亡くなった一週間後に見つけたのであれば、死の翌日に提出するのは時間的に不可能です。では一体、これはどういうことなのでしょう?
この矛盾は、「旅立つ」=「あの世に行く」と考えるからおかしくなるのです。ここは素直に「旅立つ」=「旅行に行く」と捉えると解消されます。
ということで、真相は以下の通りです。
主人公の祖母は、主人公を留守番にして一人でどこかへ旅行に行きました。(この時点では死んではいません。)そしてその間主人公は、祖母の部屋に行き部屋の中を漁っていました。おそらくは祖母がいないのをいいことに、へそくりでも探して自分のものにしようと企んでいたのでしょう。そしてその中で遺言書を見つけた主人公はそれを読み、泣いてしまいます。
と、そのとき、理由は不明ですが祖母が帰宅してきたのです。自分の部屋で何かをしている孫を見つけた祖母は、名前を呼びます。そして後ろめたいことをしていた主人公はばれてしまったことに驚き、大声をあげました。その声に驚いた祖母は、腰を抜かし階段から落ち、死んでしまったのです。
◆
ということで、いかがだったでしょうか。
もう一つ違和感を覚える箇所を指摘しますと、驚いて階段から落ちたのがもしも主人公だとすると、主人公は階段のところで遺言書を読んでいたということになります。主人公の背後に祖母の姿が現れたのであれば、箪笥の前あたりに祖母がいることになります。
しかし、主人公は遺言書を見つけたその場で読んでいると書かれています。つまり箪笥の前です。位置関係が逆ですね。
つまり落ちたのは祖母だということが分かります。
今まで僕が生きてこれたのは全て祖母のおかげです。祖母がいない今、僕はまともにご飯を作ることもできないでいます。
一人での生活は苦労でいっぱいです。
祖母の部屋は二階にあります。本当なら一階に置くべきなのですが、もともと二階にあり、足腰を鍛えるからこのままでいいと言って、祖母は譲ってくれませんでした。一人で何でもこなそうとする祖母らしい気概です。
祖母の部屋は階段を上がったすぐの所にあります。入口横にはベッドがあり、その奥には小さな机と書棚があります。入口を背にした視線の先には、服を仕舞う箪笥が置いてあります。
僕はそこであるものを見つけてしまいました。箪笥の引き出しの奥、そこにありました。
遺言書でした。
封筒に入っていたそれを取り出し、僕はその場でそれを読みました。
『尊へ。
あなたが今これを読んでいるということは、おばあちゃんはもうこの世にいないということでしょう。いままでありがとうございました。
尊にはいままで我慢させてばかりでしたね。本当ならもっといっぱいご飯を食べさせたり、旅行に連れていってあげたりしたかったのですが、出来なくてごめんなさい。
叱ったり怒ったりしましたが、すべては尊を思ってのことでした。どうかおばあちゃんを嫌いにならないでください。
最後に、改めてお礼を言います。尊のおばあちゃんが出来てわたしは幸せでした。ありがとうございます。
先にあの世に行くことをお許しください。滝原美砂子より。』
封筒には他にも何枚か用紙が入っており、そこには詳しい相続に関する事柄が書かれていました。
気づくと遺書の上に雫がぽつりぽつりと落ちていました。どうやら僕は知らぬ間に泣いていたようです。
「おばあちゃん……」
そう、僕の口から声が漏れたそのときでした。
「たける……」
返事が聞えました。それは祖母の声でした。聞こえるはずのない声に、僕は驚きで心臓が飛び出しそうになりました。振り返ると、なんとそこには祖母がいたのです。
僕は大声で、「うわあっ!」と叫んでいました。結果、階段を転げ落ちてしまいました。
◆
僕の人生において、あれほど恐ろしくも驚いた体験は初めてでした。また、もう二度とはないでしょう。
祖母が亡くなった次の日、役所に遺書を持っていくと、職員は不愛想にいいました。
「遺書は未開封のまま家庭裁判所に提出してください」
僕はそんなことも知らずに勝手に開けてしまっていました。おそらくは無効になるのでしょう。でも仕方ありません。全ては僕の過ちです。
でもまさか、あれが祖母からの最後の言葉だとは思いもよりませんでした。
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【解説】
普通に読むと、『祖母を亡くしたばかりの青年が遺品を整理していく中で遺言書を見つけ、その直後に祖母の幽霊を目撃した』という話のように思えます。しかし、そうだとすると矛盾する箇所があります。
まず最初の一文から、この青年が祖母の部屋で遺言書を見つけたのが、祖母が旅立ってから一週間後だということが分かります。
しかし後半の描写で、遺言書は祖母の死の翌日に役所に提出されていることが分かります。亡くなった一週間後に見つけたのであれば、死の翌日に提出するのは時間的に不可能です。では一体、これはどういうことなのでしょう?
この矛盾は、「旅立つ」=「あの世に行く」と考えるからおかしくなるのです。ここは素直に「旅立つ」=「旅行に行く」と捉えると解消されます。
ということで、真相は以下の通りです。
主人公の祖母は、主人公を留守番にして一人でどこかへ旅行に行きました。(この時点では死んではいません。)そしてその間主人公は、祖母の部屋に行き部屋の中を漁っていました。おそらくは祖母がいないのをいいことに、へそくりでも探して自分のものにしようと企んでいたのでしょう。そしてその中で遺言書を見つけた主人公はそれを読み、泣いてしまいます。
と、そのとき、理由は不明ですが祖母が帰宅してきたのです。自分の部屋で何かをしている孫を見つけた祖母は、名前を呼びます。そして後ろめたいことをしていた主人公はばれてしまったことに驚き、大声をあげました。その声に驚いた祖母は、腰を抜かし階段から落ち、死んでしまったのです。
◆
ということで、いかがだったでしょうか。
もう一つ違和感を覚える箇所を指摘しますと、驚いて階段から落ちたのがもしも主人公だとすると、主人公は階段のところで遺言書を読んでいたということになります。主人公の背後に祖母の姿が現れたのであれば、箪笥の前あたりに祖母がいることになります。
しかし、主人公は遺言書を見つけたその場で読んでいると書かれています。つまり箪笥の前です。位置関係が逆ですね。
つまり落ちたのは祖母だということが分かります。
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