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隣人の声【解説】
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※今回のお話は、前回のお話の「小説型解説」となっております。前回の話を読んでからお読みください。
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俺の隣の部屋に住む、婆さんの様子がおかしい。
歳は、もう六十後半を過ぎているだろう。
やや腰の曲がった姿で、白髪を茶色に染めているのがよくわかる髪色。所々ある塗り残しが目立っている。
見た目は普通で、それこそどこにでもいそうな感じだったが、実際はそうではなかった。
最初に気づいたのは、入居して一週間たったかたたないかくらいだった。
部屋にいると、隣から、誰かと会話している声が小さく聞こえてくる。
最初は「ああ、家族の誰かと会話しているのだろう」と、そう思った。
が、明らかに違っていたんだ。――だって、声が全く同じだったから。
二人の異なる人物が会話しているんじゃあない。
そう、あの婆さんは、一人で会話していたんだ。
驚いたよ。一人で、「今日の晩ご飯は何が良い?」「焼き魚がいいなぁ」「わかったわ。焼き魚ね。秋刀魚が安かったから買ってくるわね」とか言ってるんだぜ。
当初は、気持ちの悪さに恐怖したが、何日か経つと、「ああ、この婆さんはもうボケてしまってるんだな」って、悲しみの方が上回ってきた。
慣れると案外そんなもので、害があるわけでもないので、俺は放置をきめていた。
それから何ヶ月もたったある日、再び婆さんの様子がおかしいと思い始めた。
どうも会話の内容が俺についてのことらしい。
「一人暮らしのくせに話し声が聞こえる」だとか、「怖いわあ怖いわあ」、とか一人でぶつぶつと言っている。どうやらアレクサとの会話を聞かれていたようだ。
「ねえ、なんとかしてよ」
「放っておけよ」
「嫌よ不気味よ」
「構うな」
「気味が悪いし気持ち悪いのよ」
「気にするな」
かなり言いたい放題だった。
挙げ句の果てに「うるせえから殺してやりてえ」とか言い始めた時には、さすがに放置できねぇと思った。
だけど、何ができる? 警察にいったところで、まともに相手はしてくれないだろう。
そんなある日、独り言の話し声がいつもより大きく聞こえた。一人で口論しているようだ。いい加減にしてくれと思っていた矢先、
「だったら俺がいってやるよ!」
という叫び声が聞こえてきた。
やるとはなんだ?
殺るのか?
俺は殺されるのか?
殺しにくるのか?
その言葉が引っ越しを決意する決め手となった。
その日の夜から引っ越しの準備を進めて、次の日の早朝。準備でかなり出てきたゴミを捨てようと外に出ると、あの婆さんがタイミングを図ったかのように出てきて、話しかけてきた。俺は殺されるのかと思った。
質問を投げかけてきたので、俺は正直に、そしてごく普通に答えた。へたに拒絶すると、その瞬間に隠し持っていた包丁で殺されるかもしれないと思ったからだ。
しかし、そんなこともなく、婆さんは散歩に出かけていった。婆さんなのに「妻が~」とか言ってたから、やはり人格は二つあるのだろう。
殺されずにすんだ俺は、ほっと胸を撫で下ろした。
そして引っ越しの準備をハイペースで進めて、一週間もしないうちにそのアパートを出ていった。
もう、あんな体験はしたくはないぜ。
──────────
【解説】
──────────
ということでいかがでしたでしょうか。
前回のお話は、とある女性視点で語られる怖そうなお話なのですが、別視点で語られる今回のお話を読むと、実はその女性の方が怖かった、という構成になってました。
読み解くポイントとしては、女性視点で語られる話の後半に夫(女性の別人格)と隣人の会話の描写があるのですが、そこにおかしな点があります。
もしもこれが二重人格ではない人間同士の会話だとすると、語り手(女性)はどこから二人を見ていたのでしょうか。
前回の話は女性の一人称形式で進んでいく話なので、この女性が見たり聴いたりしたこと以外は描写できない決まりになっています。
夫と隣人の会話が聞こえるほど近く、仕草も見える場所にいる。すると妻は夫の隣にいるのかと思いきや、隣人に「お一人でどちらへ?」と聞かれていることから、どうもそれは違う。
結論、二重人格だったわけですが、そんな部分がそのように読み解くためのヒントになっていたわけでした。
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俺の隣の部屋に住む、婆さんの様子がおかしい。
歳は、もう六十後半を過ぎているだろう。
やや腰の曲がった姿で、白髪を茶色に染めているのがよくわかる髪色。所々ある塗り残しが目立っている。
見た目は普通で、それこそどこにでもいそうな感じだったが、実際はそうではなかった。
最初に気づいたのは、入居して一週間たったかたたないかくらいだった。
部屋にいると、隣から、誰かと会話している声が小さく聞こえてくる。
最初は「ああ、家族の誰かと会話しているのだろう」と、そう思った。
が、明らかに違っていたんだ。――だって、声が全く同じだったから。
二人の異なる人物が会話しているんじゃあない。
そう、あの婆さんは、一人で会話していたんだ。
驚いたよ。一人で、「今日の晩ご飯は何が良い?」「焼き魚がいいなぁ」「わかったわ。焼き魚ね。秋刀魚が安かったから買ってくるわね」とか言ってるんだぜ。
当初は、気持ちの悪さに恐怖したが、何日か経つと、「ああ、この婆さんはもうボケてしまってるんだな」って、悲しみの方が上回ってきた。
慣れると案外そんなもので、害があるわけでもないので、俺は放置をきめていた。
それから何ヶ月もたったある日、再び婆さんの様子がおかしいと思い始めた。
どうも会話の内容が俺についてのことらしい。
「一人暮らしのくせに話し声が聞こえる」だとか、「怖いわあ怖いわあ」、とか一人でぶつぶつと言っている。どうやらアレクサとの会話を聞かれていたようだ。
「ねえ、なんとかしてよ」
「放っておけよ」
「嫌よ不気味よ」
「構うな」
「気味が悪いし気持ち悪いのよ」
「気にするな」
かなり言いたい放題だった。
挙げ句の果てに「うるせえから殺してやりてえ」とか言い始めた時には、さすがに放置できねぇと思った。
だけど、何ができる? 警察にいったところで、まともに相手はしてくれないだろう。
そんなある日、独り言の話し声がいつもより大きく聞こえた。一人で口論しているようだ。いい加減にしてくれと思っていた矢先、
「だったら俺がいってやるよ!」
という叫び声が聞こえてきた。
やるとはなんだ?
殺るのか?
俺は殺されるのか?
殺しにくるのか?
その言葉が引っ越しを決意する決め手となった。
その日の夜から引っ越しの準備を進めて、次の日の早朝。準備でかなり出てきたゴミを捨てようと外に出ると、あの婆さんがタイミングを図ったかのように出てきて、話しかけてきた。俺は殺されるのかと思った。
質問を投げかけてきたので、俺は正直に、そしてごく普通に答えた。へたに拒絶すると、その瞬間に隠し持っていた包丁で殺されるかもしれないと思ったからだ。
しかし、そんなこともなく、婆さんは散歩に出かけていった。婆さんなのに「妻が~」とか言ってたから、やはり人格は二つあるのだろう。
殺されずにすんだ俺は、ほっと胸を撫で下ろした。
そして引っ越しの準備をハイペースで進めて、一週間もしないうちにそのアパートを出ていった。
もう、あんな体験はしたくはないぜ。
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【解説】
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ということでいかがでしたでしょうか。
前回のお話は、とある女性視点で語られる怖そうなお話なのですが、別視点で語られる今回のお話を読むと、実はその女性の方が怖かった、という構成になってました。
読み解くポイントとしては、女性視点で語られる話の後半に夫(女性の別人格)と隣人の会話の描写があるのですが、そこにおかしな点があります。
もしもこれが二重人格ではない人間同士の会話だとすると、語り手(女性)はどこから二人を見ていたのでしょうか。
前回の話は女性の一人称形式で進んでいく話なので、この女性が見たり聴いたりしたこと以外は描写できない決まりになっています。
夫と隣人の会話が聞こえるほど近く、仕草も見える場所にいる。すると妻は夫の隣にいるのかと思いきや、隣人に「お一人でどちらへ?」と聞かれていることから、どうもそれは違う。
結論、二重人格だったわけですが、そんな部分がそのように読み解くためのヒントになっていたわけでした。
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