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おかしな父
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これはもう何十年も昔の、ある日の夕方のことだった。当時高校生だった俺は、部活でくたくたになって帰ってきた。
がらがらと音を立てて玄関を開ける。
「ただいまー」
と声を掛けて、明かりのついていない薄暗い玄関で靴を脱いだ。誰からも返事はなかった。しん……と、妙な静けさだけが広がっていた。
短い廊下の先にある居間からは、小さな雑音が流れていた。ぼんやりと光るオレンジ色に照らされ、開いた襖の奥に父の小さく丸い背を見る。靴を脱ぎながら俺は、
「今日の晩飯はー?」
と声を飛ばした。けれどもまた返事はなかった。もう一度大きめの声で聞くと今度は弱々しい声で、
「……冷蔵庫だ」
と返ってくる。
「そういえば母さんはー?」
訊きながら廊下を歩き、居間に入って俺は息を呑んだ。
部屋の隅に向かって、ただ、じっ……と静かに胡坐をかいて、テレビを見ている父がいたからだ。まるで石地蔵のように、ぴくりとも動かない。その姿に俺は異様なものを感じ取った。
父は、ただただじっとテレビを見ていた。不気味なほどの静寂の中、蛍光灯のじーという音と、もう一つの小さな音だけが鳴り続けていた。
俺は驚きのあまり、立ちすくんだ。それは、テレビから流れる砂嵐の音だ。それを父は、ずっと見ていた。
楽しむわけでも、怒るわけでもなく、いつまでも見ていた。ふいの返事に俺は理解が追い付かなかった。
父がぼそりと言った。
「冷蔵庫だ」
だが、晩飯どころではなかった。
時折当時のことを思い出しては、夢に見る。あの時の父の姿を。
穴が開くほど見続けた──絶対に晴れることのない砂嵐の中を。
【解説&ヒントは↓をスクロール】
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〈ヒント「もしも、おかしくなかったとしたら……?」〉
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【解説】
突如として父親がおかしくなってしまっただけの話のようにも見えますが、最後の父親の台詞は直前の主人公の台詞の返事と考えてると、より一層怖くなります。
主人公の質問は、母親の所在を問うもの。それに対する返事が「冷蔵庫だ」とは、まあ、つまりそういうことなのでしょう。
異常な状態の原因と照らし合わせると、父親が母親を殺してしまい……。
がらがらと音を立てて玄関を開ける。
「ただいまー」
と声を掛けて、明かりのついていない薄暗い玄関で靴を脱いだ。誰からも返事はなかった。しん……と、妙な静けさだけが広がっていた。
短い廊下の先にある居間からは、小さな雑音が流れていた。ぼんやりと光るオレンジ色に照らされ、開いた襖の奥に父の小さく丸い背を見る。靴を脱ぎながら俺は、
「今日の晩飯はー?」
と声を飛ばした。けれどもまた返事はなかった。もう一度大きめの声で聞くと今度は弱々しい声で、
「……冷蔵庫だ」
と返ってくる。
「そういえば母さんはー?」
訊きながら廊下を歩き、居間に入って俺は息を呑んだ。
部屋の隅に向かって、ただ、じっ……と静かに胡坐をかいて、テレビを見ている父がいたからだ。まるで石地蔵のように、ぴくりとも動かない。その姿に俺は異様なものを感じ取った。
父は、ただただじっとテレビを見ていた。不気味なほどの静寂の中、蛍光灯のじーという音と、もう一つの小さな音だけが鳴り続けていた。
俺は驚きのあまり、立ちすくんだ。それは、テレビから流れる砂嵐の音だ。それを父は、ずっと見ていた。
楽しむわけでも、怒るわけでもなく、いつまでも見ていた。ふいの返事に俺は理解が追い付かなかった。
父がぼそりと言った。
「冷蔵庫だ」
だが、晩飯どころではなかった。
時折当時のことを思い出しては、夢に見る。あの時の父の姿を。
穴が開くほど見続けた──絶対に晴れることのない砂嵐の中を。
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〈ヒント「もしも、おかしくなかったとしたら……?」〉
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【解説】
突如として父親がおかしくなってしまっただけの話のようにも見えますが、最後の父親の台詞は直前の主人公の台詞の返事と考えてると、より一層怖くなります。
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