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導かれる

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 とある駅のプラットホームの端の方。 

 少女Aはそこで電車を待つ間、立って静かに文庫本を読んでいた。

 時刻は十二時を少し過ぎたあたり。周囲に利用客は一人もいなかった。

 天気はあいにくの曇だった。もう少しすれば本格的に降りだしそうな雨模様だ。

 少女Aはそんなこともあって、念のために屋根の下にいた。

 ぬるい穏やかな風が吹いていて、ただただ静かで、なんの変哲もない駅だった。ただし、その時だけは違っていた……。

 少女Aは声を聞いた。それは頭に直接響くような声だった。

「こっち……。こっちにきて……」

 少女Aは文庫本を閉じた。周囲を見たが、誰一人として近くに人はいなかった。

「こっちよ……。こっち……」

 少女Aはその声に一歩前へと歩き出した。一歩……、また一歩と前に出る。そして黄色い線の上まで来た、そのときだった。


 ガシャアァン! と、大きな音がけたたましく鳴った。

 はっとして驚いて振り向いた少女Aが見たものは、自分が数秒前にいた場所で屋根が崩れ落ちている悲惨な状況だった。

 どうやら屋根は老朽化していたらしい。快速電車が少女の背後を通り過ぎていく。

(もしもあの声が聞こえていなかったら今頃……)

 潰される瞬間を想像して身震いする少女A。


 彼女は不思議な声に感謝したのであった。



【解説&ヒントは↓をスクロール】
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 〈ヒント「もしも声が聞こえてなかったらどうなっていたでしょう?」〉

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【解説】

 不思議な声に助けられたお話のように見えますが、はたして本当にそうでしょうか?

 少女Aは声に導かれて、前へと歩き出します。もしもここで、屋根が落ちてこなかったらどうなっていたでしょう。きっと少女はそのまま線路へと進み、快速電車に轢かれてしまうのではないでしょうか。

 作中に「はっとして驚いて」という描写があります。おそらく少女はその声に操られていたのでしょう。大きな音が偶然にも鳴ったことで、我に返ることができた、というわけです。
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