4 / 4
逆転
しおりを挟む夜が明けきらぬ、まだ暗い時間にニーナは目を覚ました。
背中には熱いほどの温もり。
首筋に感じるのは静かな寝息。
眠っているルドガーを1人残し、ニーナはそっと部屋を出ようとした。
足腰はガクガクだし、しかも足の間はヒリヒリしてまだ異物が挟まっているよう。
それでも…誰にも見つからないよう、あてがわれている客室に戻らなければならない。
薄い腹部に回された腕をそっと退け、ルドガーを起こさないよう細心の注意を払い、ベッドを抜け出す。
いや、抜け出そうとした。
「どこへ行くんだ?」
しかし掠れた声と、逞しい腕に布団の中へと引き戻される。
「どこって…わたくしの部屋ですわ。
誰かに見つかる前に部屋に戻らないと」
「どうして…?」
何とか抜け出そうとするニーナに、腕の力を強めるルドガー。
何故かはわからないが引き止められているという事実にニーナの心は弾み、そして沈んだ。
「何故って、当たり前ではありませんか。
昨晩の事は一夜限りの夢。
夢は覚めるもの、そうでしょう?」
ならば、と向き直り説得を試みるニーナ。
「あんなにも大胆に、情熱的に私を求めてくれたというのに…その私を捨てるというのかい?」
「捨て…!?
違います、兄様。
最初からわたくしは一度きりの…つもりで」
揶揄うような言葉に顔を上げたニーナは、微笑んでいるのに目だけが全く笑っていないルドガーの、冷たいともいえる眼差しに思わず口籠る。
「…ほぅ?」
「あ…の、わたくしが選ばれる筈が、無いのなら、思い出に…一生の思い出として」
——クリスティナとの事、割り切っていたつもりだった。
もともと現実味のない婚約話であったのは、彼女の様子からもジルベールの態度からも薄々感じていたし、クリスティナの背中を押してやれたのなら、それはそれで良いと思っていた。
「貸し」という事にしておいて、いざという時双方からたっぷりと返してもらおうという打算も、少しはあった。
何よりも、政略で結ばれた婚姻よりも妻となる人の人柄や性格で選びたいと…安らぎと落ち着きを得られる、そんな相手をと思っていたのに。
両腕の中に閉じ込めたニーナは、ウロウロと視線を彷徨わせ、まるて小動物のような可愛らしさがある事に、ルドガーは気づいた。
今更ながらに。
「あの…兄様?」
「お前の兄では無い」
「では…ルドガー様?」
「様も要らない」
木で鼻を括ったような答えが、ふと“誰か“を思い出させ…。
ついいつもの調子で
「何でもよろしいですわ、とにかく離してくださいませ」
言ってから、ニーナはしまったと口を押さえた。
「嫌だ、と言ったら?」
対してルドガーも、ニヤリと笑いながらさらに腕に力を込める。
「ルドガー…」
困ったように眉を下げるニーナのか細い囁きに、ルドガーの深い所がザワリと波打つ。
——なんだ、コレ。
心の奥底の1番深いところが満たされるような。
思いきり甘やかしてドロドロにして、俺無しではいられないようにしてやりたいような。
それでいて、もっと泣き顔が見たいような。
「わかったよ」
渋々という風を装ってルドガーが腕を解くと、ニーナは寂しそうな切なそうな顔をしながらのノロノロと身体を起こし…。
「…え?な、何?これ、どうして」
ベットから足を下ろし、立ち上がろうとして…そのまま床にへたり込んだ。
「ニーナ?部屋に戻らないのかい?」
クツクツと笑いながら問うルドガーを、ニーナがキッと睨みつける。
「だって!立てないんですもの。
どうしてしまったのかしら、こんなに脚がガクガクして力が入らないなんて」
「そりゃあね」
身体を起こし、意味深に含み笑いをするとルドガーはニーナを抱え上げ、またベッドへと戻した。
「昨夜は散々貪ったからね、足腰など立つはずがないだろう?」
「むさぼ…⁈」
絶句するニーナの頬を撫で、ルドガーは努めて優しく告げた。
「もう、逃さないよ」
その言葉を裏付けるよう、その両手は妖しく動き。
ニーナの身体はあっという間に高められる。
「い…やっ!ルド兄様ぁ」
「嫌じゃないだろ?こんなに濡れているのに」
間違いなく昨夜まで蕾だった花が、今再びゆるゆると開こうとしている。
——案外、自分好みに育てるのも悪くはないかもしれない…。
妻に特段求めるものはない。
強いて言うなら「癒し」位だが、その点この子なら格別に癒してくれるだろう。
いや、そうなるよう仕込んでみるのも面白いかもな。
などと不埒なことを考えながら、ルドガーはニーナを啼かせる事に専念し始めた。
「んんっ…あ、ダメ」
首筋に胸元に吸い付き、赤い花を散らしてゆくルドガーは、その出来栄えにニンマリと笑みを浮かべ。
翌日学院に戻ったニーナが、学友に
「虫刺され?」
と指摘され、顔を真っ赤にして蹲るのは…また別のお話。
* * *
押し倒したつもりが捕らえられ、いつしかルドガーに溺愛される事になるニーナと。
好きな子ほど虐めたくなるルドガーのお話でした。
0
お気に入りに追加
27
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる