婚約破棄から押し倒せ!

吉野 那生

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逆転

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夜が明けきらぬ、まだ暗い時間にニーナは目を覚ました。

背中には熱いほどの温もり。
首筋に感じるのは静かな寝息。

眠っているルドガーを1人残し、ニーナはそっと部屋を出ようとした。


足腰はガクガクだし、しかも足の間はヒリヒリしてまだ異物が挟まっているよう。
それでも…誰にも見つからないよう、あてがわれている客室に戻らなければならない。

薄い腹部に回された腕をそっと退け、ルドガーを起こさないよう細心の注意を払い、ベッドを抜け出す。

いや、抜け出そうとした。


「どこへ行くんだ?」

しかし掠れた声と、逞しい腕に布団の中へと引き戻される。


「どこって…わたくしの部屋ですわ。
誰かに見つかる前に部屋に戻らないと」

「どうして…?」


何とか抜け出そうとするニーナに、腕の力を強めるルドガー。
何故かはわからないが引き止められているという事実にニーナの心は弾み、そして沈んだ。


「何故って、当たり前ではありませんか。
昨晩の事は一夜限りの夢。
夢は覚めるもの、そうでしょう?」


ならば、と向き直り説得を試みるニーナ。

「あんなにも大胆に、情熱的に私を求めてくれたというのに…その私を捨てるというのかい?」

「捨て…!?
違います、兄様。
最初からわたくしは一度きりの…つもりで」


揶揄うような言葉に顔を上げたニーナは、微笑んでいるのに目だけが全く笑っていないルドガーの、冷たいともいえる眼差しに思わず口籠る。

「…ほぅ?」

「あ…の、わたくしが選ばれる筈が、無いのなら、思い出に…一生の思い出として」




——クリスティナとの事、割り切っていたつもりだった。

もともと現実味のない婚約話であったのは、彼女の様子からもジルベールの態度からも薄々感じていたし、クリスティナの背中を押してやれたのなら、それはそれで良いと思っていた。

「貸し」という事にしておいて、いざという時双方からたっぷりと返してもらおうという打算も、少しはあった。

何よりも、政略で結ばれた婚姻よりも妻となる人の人柄や性格で選びたいと…安らぎと落ち着きを得られる、そんな相手をと思っていたのに。

両腕の中に閉じ込めたニーナは、ウロウロと視線を彷徨わせ、まるて小動物のような可愛らしさがある事に、ルドガーは気づいた。
今更ながらに。


「あの…兄様?」

「お前の兄では無い」

「では…ルドガー様?」

「様も要らない」


木で鼻を括ったような答えが、ふと“誰か“を思い出させ…。
ついいつもの調子で

「何でもよろしいですわ、とにかく離してくださいませ」

言ってから、ニーナはしまったと口を押さえた。


「嫌だ、と言ったら?」

対してルドガーも、ニヤリと笑いながらさらに腕に力を込める。


「ルドガー…」

困ったように眉を下げるニーナのか細い囁きに、ルドガーの深い所がザワリと波打つ。



——なんだ、コレ。

心の奥底の1番深いところが満たされるような。
思いきり甘やかしてドロドロにして、俺無しではいられないようにしてやりたいような。
それでいて、もっと泣き顔が見たいような。


「わかったよ」

渋々という風を装ってルドガーが腕を解くと、ニーナは寂しそうな切なそうな顔をしながらのノロノロと身体を起こし…。


「…え?な、何?これ、どうして」

ベットから足を下ろし、立ち上がろうとして…そのまま床にへたり込んだ。


「ニーナ?部屋に戻らないのかい?」

クツクツと笑いながら問うルドガーを、ニーナがキッと睨みつける。


「だって!立てないんですもの。
どうしてしまったのかしら、こんなに脚がガクガクして力が入らないなんて」

「そりゃあね」

身体を起こし、意味深に含み笑いをするとルドガーはニーナを抱え上げ、またベッドへと戻した。


「昨夜は散々貪ったからね、足腰など立つはずがないだろう?」

「むさぼ…⁈」

絶句するニーナの頬を撫で、ルドガーは努めて優しく告げた。


「もう、逃さないよ」



その言葉を裏付けるよう、その両手は妖しく動き。
ニーナの身体はあっという間に高められる。


「い…やっ!ルド兄様ぁ」

「嫌じゃないだろ?こんなに濡れているのに」


間違いなく昨夜まで蕾だった花が、今再びゆるゆると開こうとしている。



——案外、自分好みに育てるのも悪くはないかもしれない…。

妻に特段求めるものはない。
強いて言うなら「癒し」位だが、その点この子なら格別に癒してくれるだろう。
いや、そうなるよう仕込んでみるのも面白いかもな。

などと不埒なことを考えながら、ルドガーはニーナを啼かせる事に専念し始めた。


「んんっ…あ、ダメ」

首筋に胸元に吸い付き、赤い花を散らしてゆくルドガーは、その出来栄えにニンマリと笑みを浮かべ。


翌日学院に戻ったニーナが、学友に
「虫刺され?」
と指摘され、顔を真っ赤にして蹲るのは…また別のお話。

 * * *


押し倒したつもりが捕らえられ、いつしかルドガーに溺愛される事になるニーナと。
好きな子ほど虐めたくなるルドガーのお話でした。
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