狼王のつがい

吉野 那生

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出会い編

★残酷な再会・下〜アリシア〜

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★この話には、暴力的表現や主人公がヒーロー以外の男性から無理やり性的に迫られる展開があります。
そのような展開が苦手な方は、どうぞスルーしてくださいませ。





 * * *

「おいおい、アリシアちゃん、勝手に帰るなよ」


平手とはいえ、男の力で思いきり打たれたのだと気がついた時には、ゾットさん—いや、こんなヤツにさん付けなんていらない—ゾットの顔が目の前にあった。

あくまで軽い口調のまま、薄笑いを浮かべ床に倒れ伏した私の前髪を掴んで無理やり顔を上げさせた彼をキッと睨みつける。


「いいね、気の強い所なんてホント好み」

「あなたの好みなんて聞いてないわ」

口内が切れたのか妙に鉄臭い味がするし、口を開いただけでズキズキと痛む。
それでも吐き捨てるように言った私の、打たれた方の頬を撫でるゾットの瞳の奥に怪しげな光が灯る。


「なぁ、アンタ、ヤツのつがいなんだろ?」


また、だ。
つがいという不思議な言葉。

ヤツ…が誰を指すのかいまいちピンとこないけれど、つがいという言葉に私は首を傾げた。


言葉としては聞いた事がある。
けれど、それが何を示すモノか確かめてはいなかった。

「…何のこと?
私が誰のなんですって?」

「とぼけるなよ、お前にご執心のシルヴァンの野郎のつがいなんだろ?」



——私が、シルヴァン様の…つがい?


「…まさか」

確か、レプスさんはこう言っていた。
つがいとは真名によって契約を交わす唯一の相手だ、と。


「まさか、何も聞かされていないというのか?」

考え込んだ私の前髪をさらに強く掴み、僅かな表情の変化も見逃さないよう顔を上げさせるゾットの背後から

「面白い、つがいを奪われ汚されたヤツがどうなるのか見てみたい」

明らかに楽しんでいるような声が唆す。


「良いな、それ。
俺も興味あるんだよね、ヒトに」

「なっ…」

眠りにつく瞬間まで外さないようにしていた布をあっさりむしり取られ、頭部が晒されてしまう。

「やはり…ないな、我々のような耳は」

確かめるように乱暴に髪を弄り、耳を引っ張るその痛みに…何よりも数名しか知らない筈の機密事項—私がヒトであるという事—が漏れている事に、思わず全力で抗う。

「離して!」


両手をめちゃくちゃに振り回したおかげで、奇跡的にゾットの手が緩んだ。
その隙に立ち上がり、一目散に扉へ駆け寄る。
けれど、もう少しで扉に手がかかるという瞬間…容赦のない力で蹴り飛ばされた。


「っは…!」

息ができないほどの衝撃。
遅れてやってくる鈍い痛みは重く、身のうちを苛む。
蹴られた脇腹押さえて蹲った私の髪を掴み、ゾットは

「逃げ足だけはなかなかのもんだったな。
けど残念、逃さないぜ」

冷たく嘲笑った。


「その台詞、前にも…?」

「ほんとに覚えてないのか?
俺達の話を盗み聞きして逃げ出したく…」

「ゾット!余計な事を言わずともよい。
さっさとやれ」

黙って私の様子を伺っていた恰幅の良い男の叱責に、ゾットはムッとした様子で口をつぐみ、すぐに嫌らしい笑みを浮かべ

「ハイハイ、わかってますよっと」

力任せにお仕着せの合わせを引き裂いた。
嫌な音がして布地が裂けボタンが弾け飛んで誰にも許したことのない素肌を晒される。


「ぃ、やっ!」

屈辱と羞恥でがむしゃらに振り回した手はもう1人の男に容易く押さえつけられ、ついでに2~3発頬を張られる。
その間にゾットが腰の辺りでくしゃくしゃになっていたお仕着せの残骸を引き抜いた。


「やめて、離して!」

「って言われてやめる馬鹿がいると思う?」

男2人で押さえつけられ、身体中を弄られる。
その気持ち悪さとこれから起こる最悪の事態を想像し、全身が粟立った。


「肌の白さときたら!」

「しかもすべすべでどこもかしこも柔けぇ」

力任せだったり執拗だったり、愛撫とは決して呼べない嬲るような行為に涙が零れ落ちる。


「やめ…」

首筋を、胸元を、這いずり回る舌の感触に必死に耐えていると、ゾットが無理やり両脚を割り開いた。


「いや…やめて、」



——こんな…こんな奴らに、初めてを…。




「やっ、助け…誰か!」




——お願い、誰か助けて!




「はっ、諦めな、誰も来ねぇよ」




欲望の滲んだギラついた目に、荒い息に、両足の間に陣取り見せつけるように下穿きを下ろしたその嫌らしさに、そして現れた醜悪な物体に、嫌悪感と恐怖で吐きそうになる。




——助けて!




!」




泣きながら叫んだ、その時…。



ドオォォン!!


耳をつんざく轟音、そして黒煙に男達の動きが止まる。



「アリシア!」

体を押さえつけていた男が吹っ飛び、次いでのしかかっていたゾットが消えた。


「…あ、」

呆然とする私のあられもない姿に目にした途端、シルヴァン様の全身から鋭い「気」が放たれた。


「遅くなってすまん」

着ていた上着を脱いで私を包むと

「グリス、ここは任せた。
後で聞きたい事もある、殺すな」

シルヴァン様はそう言い残し、私を抱き上げ部屋を出る。
そんな私達の耳に

「うちのアリシアに何してくれてんだ?」

グリスさんの凄まじい咆哮が届いた。


その言葉と…シルヴァン様の温もりに、ようやく、助かったのだと…あんな奴らに汚されずに済んだのだと、力が抜ける。

「湯あみの用意を。
それとレプスを呼べ」


大股で飛ぶように歩いているのに、振動を殆ど感じないのは私の身体を気遣っているからなのだろうか。
大切そうに…まるで宝物のように抱えられ、その逞しさと優しさに心から安心して、彼の服をきゅっと握りしめる。


「アリシア…」

シルヴァン様の視線が私の顔に釘付けになる。

「酷く…やられたな」


痛ましそうに目を眇めたシルヴァン様は、自分の方が痛いかのように唇をぐっと噛みしめた。

彼の瞳の奥で燃えさかる業火の中に、労りと慰めと哀しみと怒りと、様々な感情が揺れているように見える。


「シルヴァ、様…大丈夫、です」



——ちゃんと、来てくれたから…助けに。
間に合った、から。


掠れた声でそう囁くと、シルヴァン様は目を瞠り、私を強く抱きしめた。


「…すまなかった」


強い悔悟の滲む声に、ゆるゆると首を振ったところで酷い目眩がし、キツく目を瞑る。


「すぐに湯あみを…それから手当てだ」


耳鳴りまでしだして、シルヴァン様の言葉の殆どが聞き取れない。
しかも冷たい汗が全身から吹き出し、身体が重たく気怠くて息をするのでさえも億劫になってきた。



「アリシア?…アリシア⁉︎」 


遠くでシルヴァン様の声が聞こえた…気がした。
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