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現世〜3年後〜
仮面〜セラフィーヌ〜
しおりを挟む本来、淑やかな性格ではないわたくしが長い間被り続けている淑女の「仮面」。
偽物であっても、努力を続けていればいつか本物になる。
本来の自分を押し殺すのではない。
時と場合と必要に応じて使い分けるだけ。
ジークの隣に立つ為には、並々ならぬ努力が必要だった。
公爵家の娘として、そして王家に嫁ぐ身として定められた事は窮屈な制約ばかり。
『走ってはいけません。
スカートの裾を翻して、ふくらはぎが見えるなんてはしたない』
『大声で笑うなど、淑女のする事ではありません』
『どんな時も笑顔でいる事。
感情を見せると隙をつかれます。
全てを笑顔で受け止め、時に跳ね返すのです』
親元を離れ、何事も自分で対処しなければならない学院での共同生活もなかなか大変だったけれど、王宮での王妃教育はまた別の厳しさがあった。
そのほかにも立ち居振る舞いやダンス、貴族間の駆け引きや様々な知識。
王妃として求められる知識は多岐にわたる。
国内はもちろん、国外の日々変化する情報を掴んでおくのも大切な役目。
「セラフィーヌ様、次は礼法でございます」
中でも、しっかりと叩き込まれるのが礼法だ。
ジークが王太子として、正式に認められるのは学院卒業後の春、つまりあと1年足らずの事だ。
同時にわたくし達の結婚式が盛大に行われ、王太子妃として内外にお披露目される。
国外からお招きする王家の方々や国内の諸侯に次代の王であるジークフリード様と、妃となるわたくしをお披露目する、とても大切な行事。
その場で、そして今後も侮られたりする事のないよう、相応しい振る舞いを身につける為、特に時間を割いて教わるのだ。
今はまだ王妃様がおられる。
けれどわたくしも王太子妃として政の一端を担い、ジークと王家を支え、共に国のため尽力していかなければならない。
学院にて、その基礎はしっかりと叩き込まれたけれど、それでもまだ必要とされる事をこの1年でみっちり教わる。
『正しい振る舞いと美しい所作は、それだけで立派な武器となります。
ましてセラフィーヌ様は国で1番の淑女として、皆のお手本のならねばならぬお方。
自ずと指導にも熱が入るというものです』
厳しい授業は期待の表れなのかもしれないけれど、かなり…心身共に削られるものがある。
それでも、意地でも涼しい顔をしてやり遂げなければならない。
多少厳しくされたからといって、泣いたり逃げ出したりするような無様な真似はできない。
わたくしにだってそれくらいの意地はある。
「セラフィーヌ、疲れたでしょう?
少し休憩といたしましょう」
来年には義理の母となる王妃様との仲は、概ね良好だ。
「はい、エヴァンジェリン様」
公務の合間を縫って、様子を見に来てくれたりお茶会に誘い出してくれたり。
息が詰まりそうな王妃教育をかつて自らも施された身として、何かと気遣ってくださる。
エヴァンジェリン様がそのようなお方だから、王妃付きの女官も女官長もとても親身になってくれる。
王太子妃となるわたくし付きの女官の選出も進んでいるようで、年齢の近い者が厳選されているとの事。
代々の王妃、または王配は3大公爵家から輩出されている。
エヴァンジェリン様のご実家、ロードナイト家。
我がカルセドニ家、そしてペリドット家。
我が国では女性が王位を継ぐ事も認められているので、その場合は3家の中から年齢的に釣り合いの取れた者が選ばれる。
どこか1つの家ばかりが選ばれる事なく、平均的に王の配偶者を輩出しているからなのか、3家の仲は比較的良好だ。
「もうすぐ夏休みね」
夏休みは、学生は皆自宅へ帰される。
わたくしも何日かは屋敷へ帰る事が出来るが、またすぐに王宮へ戻って王妃教育の続きだ。
「あの子もすっ飛んで帰ってくると思うわよ」
ほほ、と笑うエヴァンジェリン様に、私は曖昧に微笑んで紅茶を口にした。
——ジークに会える事は、率直に嬉しい。
彼の前では飾らない、ありのままの私で居られるから。
でも…同時に、ひどく落ち着かなくもなる。
政略的な婚姻であるわたくし達なのに…彼の眼差しがあまりにも優しいから。
わたくしをまっすぐに見つめるから…。
その眼差しの奥に、熱のようなものを感じて何故か、口の中がカラカラになり心臓の音がうるさい位高鳴ってしまうのだ。
その時の事を思い出し、エヴァンジェリン様が生温く見つめている事に気づかぬまま、慌てて紅茶を飲み干した。
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